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1章 魔法少女と異世界の街
26話 魔法少女は試食会を開く
しおりを挟む私はお店の中で、試食会の準備をしている。
今の時刻は5時ほど。夕方頃にはみんなが集まるので、少しペースを速めよう。
「えっと、枚数合ってるよね?」
指で差して数える。
多分合ってる。よし合ってる。うん合ってる。
謎の確認を終えた私は椅子に腰掛けてみんなを待つ。
異世界転生してから少し経ったけど、あんまり実感が湧かない。
ここは、魔法最弱の世界だとロアは言ってたけど、自分で言うのもなんだけど魔法が強過ぎるから、魔法が弱いと言われても分からない。
やっぱり、他人と比べないことには分からないね。
今度、別の街に行って確かめてみようかな?
「まぁ、ただの予定だけど。」
「なんの予定ですか?」
すると、突然前から声が聞こえてくる。
「誰っ!?」
知らない間に口に出ていた言葉に反応されて、そんな声が漏れ出てしまった。
「エリーですよ。」
あっ、エリーか。早いね、1番だ。
あと、入り口に付けてた鈴、鳴ったっけ?気づかなかったや。
「変わったお店ね。気になって入っちゃいそう。」
奥からエリーのお母さんもやって来た。
あれ、エリーのお父さんは?
「エリー、お父さんは来てないの?」
気になるので、エリーにそう尋ねてみる。
昨日は呼ぶって言ってたけど、何かあったのかな?
「ソラちゃん、うちは宿屋だから留守には出来ないのよ。だから彼が残ったの。」
エリーのお母さんが答えてくれた。
まぁ…そうだよね。宿屋を留守にしちゃったら、泥棒とか来ちゃうかもしれないしね。
エリーたちと適当に会話をしていると、どんどん人が店にやってくる。
「ソラお姉ちゃんこんばんは。」
ペコっと頭を下げる。可愛いね。
私も「ロア、こんばんは」と言って微笑を浮かべて言った。
「お姉ちゃん、こんばんはー!」
バタバタと足音を立てて走ってくる。
サキにも「こんばんは」と挨拶をする。
奥からテレスさんも来たのでもう一度言う。
3連続のこんばんはを終わらせて、元の椅子に戻ろうとすると、渋い声で「よぉ」聞こえてくる。
「ギルマス?」
「そうだ。」
ギルマスがこっちにやってくる。
なんか気持ちの悪い笑みを浮かべながら、私に向かって歩いてくる。
「えっ、なに、怖いんだけど。」
私は、一歩後退りする。
「言い忘れてたな、なぁソラ。フィリオの奴が来てるって言ったらどうする?」
突然そんなことを聞いてくる。
フィリオ……領主のことか。
えっ領主きてるの?えっ、やめて欲しい。
なんで領主がここ来るの。そうだ、来るはずがない。来る理由が、ない。
「またまたー、そう言う嘘は…」
「嘘じゃないぞ。」
店の扉を開ける音と共に、そんな声が聞こえる。
「久しぶりだな、ソラ。」
ほんとに来てるよ。どうしてよ、なんで来てるの?
ロアは驚いて固まってる。サキはよく分からなさそうに、首を傾げている。
エリーたちも勿論、驚いてしまってる。
そりゃそうなりますよ。領主様来てるんだよ、驚くに決まってるでしょ。
「……久しぶり…で、す。」
顔を引き攣らせて言う。
「露骨に嫌そうな顔をするな。あと敬語はいらんぞ。」
領主、もといフィリオが、メイドさんと共にやってきた。
「それにしても、面白い店だな」と言って店の中をぐるっと見渡す。
「暇だったら来てやろうか?」
ニッと笑ってそう言って来た。
いや、大丈夫です。領主の仕事、しててください。
「あぁソラ、娘を紹介したいんだが。」
するとフィリオが突然そんなことを言った。
娘?娘いるの、フィリオって。
「ほら、自己紹介をしろ、ネル。」
フィリオは、ロアと同じくらいか、ちょっと上あたりの年の女の子に言う。
「はい、お父様。ソラさん、お噂は予々聞かせてもらっています。私の名前はフェルネール•ブリスレイと申します。」
綺麗なドレスに身を包み、スカートの端を持ち、貴族らしい挨拶をする。
綺麗な白い髪に、整った色白の肌、綺麗に輝く空色の瞳。
どれをとっても綺麗だ。
同年代の男の子なら、一目惚れしてもおかしくはない。凄く綺麗で、幼げはあるけど凛とした表情の女の子だ。
「フェルネール様ね。私は空。知ってると思うけど、冒険者をしてるの。」
「様は要りません。お父様みたいに、私のことはネルで良いですよ。」
ニコッと笑顔で言った。
これが男の子なら恋してたね、これ。
何度目か分からない言葉だけど、私は女の子だからちょっと、ときめいただけで済んだけど、男の子にやったら…
「ネル、その笑顔は男の子に向けちゃダメだよ。」
私は微笑を浮かべて言っておく。
「はい?」
ネルも理解していないように、そう頷いた。
そんな自己紹介をしていると、知らないうちにマリンさんが来ていた。
「マリンさん、久しぶりです。」
マリンさんの元に行って、そう挨拶する。
「そうね、久しぶりね。」
そう返してくる。
「マリン、ギルドの方は大丈夫なのか?」
フィリオがそう聞く。
「大丈夫ですよ。私の部下を舐めないでちょうだい。」
少し怖いオーラを帯びた笑みを湛えて言う。
「それもそうだが、ギルマスの仕事のことを言ってるんだ。」
「毎日、ちゃんとやってるから大丈夫。フィリオ、あなたこそ領主の仕事は大丈夫なの?最近、変な事件が多くて困ってるって言ってなかった?」
嫌味を込めてそう返した。
ギルマス?マリンさんって、ギルマスだったの?
あと変な事件って、何があったの?
気になることが多い…
「あれ?ちょっと遅かったかな?」
「ごめん遅れちゃった」と、手を合わせて言った。
「あっエリカ。別に、遅れてないよ。あと、ゼンは?」
キョロキョロとあたりを見渡してるけど、ゼンはいない。
「もうすぐ来るわよ。ゼンったら、店の前でずっと立ち止まってるのよ。」
腕を組んで頬を膨らませる。
気になるので窓から覗いてみる。
ゼン、あんなところで何やってるんだろう。
エリカが店の中を歩き始め、途中で固まった。
「え、ソラ、ちゃ、ん?あの…人って、…」
声が震えてうまく出ていない。
多分、フィリオがいるからだね。
「そうだよ、領主だよ。」
私は、フィリオを指差してそう言った。
エリカが固まっていたら、カランカランと鈴の音が鳴り、扉が開かれる。
「悪い、遅くなった。」
短い謝罪をしてから、私の元に歩いてくる。
「珍しい外見をしていてな。」
そう言って席に座った。フィリオには驚いてないようだね。
これでみんな集まったよね?
あっフィリオが来ることは想定してなかったから、皿が足りない。
フィリオとネル、メイドさんの分の皿と、フォークやスプーンを出す。
これでオッケーと。
「えっ、えーと、みんな集まったし試食会を始めたいと思います。」
ゴホンと咳払いをしてから開始の挨拶をする。
私はみんなとは別の机に、料理を取り出し始める。
———————————————————————
みんな楽しみ試食会の始まりですね。
ソラは早速、領主様を呼び捨てにしました。
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