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1章 魔法少女と異世界の街
19話 魔法少女は怒る
しおりを挟む話をしながら歩いてると、赤い屋根のアパート(?)が見えてきた。
「ソラお姉ちゃん、見えてきましたよ。」
ロアは指を指して言う。
確かあそこの202号室だったような気がする。
私たちはアパートの前に着き、階段まで行ってその階段を上がり始める。
少しボロいね。ほんとに大丈夫なのかな、ロア。
私は不安に思いながら着いていく。
ロアは2階に着いて、ポケットをゴソゴソと探して、鍵を見つける。
「今、開けますね。」
「うん。分かったよ。」
笑顔で言うので私も笑顔で言い返す。
鍵を回し、ガチャリと音が鳴った。
ロアはそのままドアを開け、「どうぞ」と中に入れてくれる。
「ロア、ありがとう。」
短くお礼を言う。
「ただいまー」
ロアも家に入ってそう言う。
「お姉ちゃんおかえりなさい。」
奥の部屋からそう聞こえてくる。
「サキ、ただいま。具合は大丈夫?」
あれってロアの妹なのかな?ロアと同じで可愛いね。ロアも昔はこんな感じなのかな?
「お姉ちゃん、あの人だれ?」
私に指を指して言う。
魔法少女ですよ、怪しくないよ。
優しく手を振ってみる。
「私の命の恩人だよ。とっても優しい人だから、だから安心していいよ。」
妹のサキにそう言った。
「私は空、冒険者をしてて道に迷ったところをロアに助けられたんだよ。」
「あたしはサキです。お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます。」
小さくペコリと頭を下げる。
サキも礼儀正しくていい子だね。私の子ども時代は、こんないい子じゃなかったなぁ。
私は自分とロアやサキを重ねて悲しくなってくる。
「別にいいよ。私も助けられたんだし、ウィンウィンだよ。」
「うぃんうぃん?」と首を傾げる。
あれ?この世界にこの言葉ってないのかな?
「んーなんて言うんだろう。」
ウィンウィンって、大体の意味はわかるけど、いざ説明しろとなると分からないね。
「まぁ、私もロアも互いに助けられたからどっちも感謝してるってこと。」
ウィンウィンとは意味が違くなってる気がするけど…大丈夫だと思う。
「へぇーお姉ちゃんもお姉ちゃんに感謝してるの?」
お姉ちゃんとお姉ちゃんじゃ区別がつかないね。
何か他の呼び名はないのかな?
「うん、感謝してるよ。」
私はそう言う。
実際、宿屋を教えてくれたり、ギルドの場所を教えてくれたりしてくれたから、だいぶロアに助けられてる。
「お父さん、遅いな。」
玄関の方向を見て、そう呟いた。
「おとうさん何があったんだろ。」
サキも一緒に言う。
そうだね。そろそろ帰ってきてもおかしくない時間だよね。夜も近いし、子どもがいる父親なんだから早く帰るのが普通だと思う。
「ちょっと待ってみようか。」
私は近くにあった椅子に腰掛ける。
ロアはサキをベットに寝かせる。ロアは近くにある椅子を引きずってきて、私の隣に座る。
それからいくらか経ち、サキが眠ってしまった頃、玄関がガチャリと鳴った。
「お父さ…ん、ただ…」
ロアはただいまと言おうとして、途中でやめた。
理由が気になり、見に行ってみると、そこには顔を真っ赤にしてフラフラと千鳥足で歩く男性がいた。
何度もこけそうになり、こちらへ来る。
「…誰だぁ、あんたぁ。」
うっ、酒臭っ。
「お父さんどうしたの!?」
あれお父さんなの!?ロアが言うにはいつもは優しい人らしいけど、今は見る影もない。
「邪魔だ、どけよ…」
ロアの父親は腕を振ってロアを吹き飛ばす。
ロアは体制を崩し、こけてしまう。
こいつ!自分の子どもに危害を加えるなんて!
ロアを吹き飛ばすなんて、いくら父親で、酔っていたとしても許せない。
私はロアには幸せになってほしい。そのためには必ず、親が必要だ。
こんなのでも、いつもはいい人らしいし。
「ロア、ちょっとごめんね。」
ロアは首を傾げる。
その瞬間、私は目の前の酔っぱらいにウォーターで水をかける。
「は?」
「へ?」
父親とロアが今起こったことが理解できずボーッとしている。
「ねぇ、自分の子どもに危害を加えるってどうなの?」
私は言葉に魔力を込め、力強く言う。
「こっちは、たいへんなんだよ、子供のオマエが口を出すな!」
対抗してそう言う。
「大変?そんなの知らないよ。ロアはね、楽をさせるために1人で薬草を取りに行って危ない目に遭ってるんだよ。あなた、魔物に襲われそうになったこと、ある?」
酔っぱらいは「オマエもねぇだろ」と言う。
それがあるんだよなぁ、私、冒険者なんだから。
「あるよ、だって冒険者だもん。」
私はCランクに上がったギルドカードを見せる。
「は、はぁ?」
そんな声を漏らす。
「子どもにはね、親しかいないんだよ。母親が死んじゃって、今はあなたしかいないの。分かる?そんなあなたがこんなんだったら、ロアやサキがちゃんと育たないでしょう。」
そんな言葉に震えながら拳を握る。
「俺だってなぁ、やってるんだよ。一生懸命にな、それが分からないのかよ!」
「分からないよ!」
私のその言葉で静寂が訪れる。
「分からないよ。あなたが何をしていて、何を努力してるかなんて。私はあなたに努力しろなんて言いたいんじゃない、子どもには親しかいない、せめて成人して出ていくまで耐えようよ。」
最後は優しく、そう言う。
「無理だ、そこまで耐えられるような金はない。」
すっかり酔いも覚めた様子で言う。
「あなた、なんの仕事をしてるの?」
「料理人だ。」
いや、どこのよ。
「ソラお姉ちゃん、あのレストランのです。」
はぁ!?あそこの?あの美味しかったご飯を作ってるのがこの人なの?
「あなたの料理、美味しかったけどなんでお金がないの?」
私はもう一度質問をする。
あそこのご飯はほんとに美味しかった。なのに謎だね。
「客が来ないんだよ。開店当初から。」
「初めはまだよかった。知り合いが来てくれた。でもな、その知り合いたちも家庭がある。母さんが死んでしまった頃から、パタリと来なくなった。」
それでお金がないのか。
料理、私も料理くらいはできる。あとは宣伝とお店、あと料理の変更。もっと安くすれば来ると思う。
…土地関係だったら領主に相談できないかな?
「ねぇ、色々と策があるから、数日待ってくれない?」
私はロアの父親にそう言った。
「策?なんだそれ。」
「ちょっと時間がかかりそうだから。」
魔法少女の格好は恥ずかしいけど、宣伝にはなると思う。いざとなったら私が宣伝するか。
色々と変わっちゃうかもだけど、許してほしい。
私は、明日、領主に会おうと思う。
そのために、宿屋で早めに寝よう。
そう思いながら、ロアの家を出た。
———————————————————————
ソラの策とは一体なんでしょう。
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