98 / 121
第一章
第97話 進入開始
しおりを挟む
救出作戦が決行されたのは、もう真夜中になる頃であった。
街から少し離れた人目のない場所にゴンドラを降ろし、俺は実働部隊の連中を見送る。
「では、いってきます」
「……しくじらないでくださいね」
笑顔でモーニングスターを担ぐポメリィさんに、俺は反射的にそう答えてしまった。
不適切だとは思うが、今までの実績がアレだからなぁ。
「……努力します」
「だーいじょうぶよ。
あたしたちがついてるんだし」
ケラケラと笑って背中を叩くのは、快楽主義者のヴィヴィ。
むしろお前がいるから心配なんだよ!
まぁ、こいつのことだから力づくでも最低限の結果は出すだろう。
そのあとの後始末を考えると怖いけどな。
「ふぅ……かなり心配だぜ」
俺と同じ意見なのか、ジスベアードが肩をすくめる。
分かるよ。
なにせ、この力だけはある連中の中で、人間の常識を理解しているのはお前だけだからな。
あまり期待はできないが、しっかり連中の手綱を握っていてほしい。
「まぁ、後でトシキに馬鹿にされるのも業腹じゃからな。
なんとかやり遂げてみせよう」
「……派手なのはやめてくれよ?
地味でいいからな、地味で」
派手好きなドランケンフローラにそう釘を刺すが、彼女は薄く笑っただけで返事を返さなかった。
実に不安だ。
「では、先に行かせてもらうぞよ」
その発言と共に、ドランケンフローラの姿が地中に消える。
しまった! こいつ、これを狙っていたな!?
たしかにこれなら人の目にはつかないが、そのまま俺の目の届かないところで大暴れする気だろ!!
しかも、手柄を独り占めする気がありありと伺われる。
「ズルい! 抜け駆け!!」
ドランケンフローラに続いて、ヴィヴィの姿も地中に消えた。
「あいつ、最初から一人で抜け駆けするつもりだったな!?」
「私たちも急ぐですよぉ!」
ポメリィさんがあわてて走り出そうとし、ジスベアードに止められる。
「待て。 俺たちは普通に、歩きながら入るんだ。
でなきゃ目立つだろ」
「それに、あの二人はお姫様の顔を知りませんよ。
たぶん、向こうについてから途方にくれると思います」
俺がボソリとそう付け加えると、ポメリィさんはポンと手を打った。
「あ、そういえばそうですね」
救出の鍵であるジスベアードを置いてゆく辺り、あのふたりはどうも詰めが甘い。
ついでに、ポメリィさんと二人っきりになることが分かってやに下がった顔をしているジスベアードがウゼェ。
「ほんと、ヘマしなきゃいいんだけど」
まぁ、浮遊図書館のモニターを駆使すれば、先走りした二人が何をしているかある程度は確認できるはずである。
耳を澄ませば今にも街のほうから悲鳴や破壊音が聞こえてくるような気がして、俺は逃げるように浮遊図書館へと戻った。
「さてと、連中はどうしているかねぇ」
俺はステーションセンターの一室にあるモニター室の椅子に座り、実働部隊が何をしているかを確認することにした。
これは前にヴィヴィの活躍を見せた鏡と同じ技術を用いており、端末を持った相手の周囲の光景を音声付でモニターに転送できる優れものである。
「フローラとヴィヴィはもう領主の館に到着しているようだな」
モニターには、領主の館の人気の無い場所にてなにやら言い争いをしているフローラとヴィヴィの姿が映し出されている。
おそらく、抜け駆けがどうこうという話だろう。
そもそもこいつらが欲張らず、ジスベアードを連れて地中を移動してくれたならばこんな面倒な作戦にはならなかったのではないだろうか?
今となっては考えるだけ虚しい話だが。
「うーん、どうにも様になりませんわねぇ。
コメディは書かない主義なのですが」
「私もよ。
もう少し絵になる展開がほしいところね」
……と、俺の横でこんな会話をしているのはフェリシアとレクスシェーナである。
なんでもこの二人は今回の事件を物語にするつもりらしい。
まぁ、たしかにさらわれたお姫様を助けに行くというのは普遍的なテーマだからなぁ。
「さて、ジスベアードたちも街の中に入って、順調に領主の館を目指しているようだな。
ヴィヴィ、フローラ、喧嘩している暇があったら探索を開始してくれ。
こっちで結果をまとめるから、高そうな服を着た女性のいる場所の報告を頼む」
「はーい」
「しかたがないのぉ」
さて、今回の作戦において俺は領主の館に狙いを絞った。
理由としては、恋愛がらみでさらったこともあって、お姫様が粗雑な扱いを受ける事は無いと判断したからである。
グレードの高い宿では人目につきやすすぎるし、裕福な他人の家ではおそらく信用できない。
結果、領主の館以外の場所にお姫様を置いておく事はできないということだ。
事前に上空から確認した領主の館の様子からすると、特に庭にある離れが怪しい。
使用人が頻繁に出入りしているところを見ると、誰かが利用しているのは間違いないだろう。
さらには領主の息子らしき人物が訪問していることも確認できている。
そんなことを思い出していると、ヴィヴィとフローラから通信が入った。
「ねぇ、トシキ。
ジスベアードたちが入ってくる時に邪魔になるだろうから、館にいる男と使用人の女共は始末していいでしょ?」
「我らもただ待っているだけでは退屈でのぉ。
館の外には漏れないようにするが故、ぜひとも許可がほしいところじゃな」
「……始末って。
あまり物騒な言葉使うな。
多少の怪我はしかたがないかもしれんが、あまりひどい事はするなよ」
「わかっておる。
まぁ、せいぜい薬で身動きできない程度に留めておいてやろう」
「うふふふ……体は無事なままにしてあげるわ。
体は……ね」
まったく安心できない台詞と共に、通信は途絶えた。
やれやれ、領主の館に住む人間にとっては、とんだ災難である。
街から少し離れた人目のない場所にゴンドラを降ろし、俺は実働部隊の連中を見送る。
「では、いってきます」
「……しくじらないでくださいね」
笑顔でモーニングスターを担ぐポメリィさんに、俺は反射的にそう答えてしまった。
不適切だとは思うが、今までの実績がアレだからなぁ。
「……努力します」
「だーいじょうぶよ。
あたしたちがついてるんだし」
ケラケラと笑って背中を叩くのは、快楽主義者のヴィヴィ。
むしろお前がいるから心配なんだよ!
まぁ、こいつのことだから力づくでも最低限の結果は出すだろう。
そのあとの後始末を考えると怖いけどな。
「ふぅ……かなり心配だぜ」
俺と同じ意見なのか、ジスベアードが肩をすくめる。
分かるよ。
なにせ、この力だけはある連中の中で、人間の常識を理解しているのはお前だけだからな。
あまり期待はできないが、しっかり連中の手綱を握っていてほしい。
「まぁ、後でトシキに馬鹿にされるのも業腹じゃからな。
なんとかやり遂げてみせよう」
「……派手なのはやめてくれよ?
地味でいいからな、地味で」
派手好きなドランケンフローラにそう釘を刺すが、彼女は薄く笑っただけで返事を返さなかった。
実に不安だ。
「では、先に行かせてもらうぞよ」
その発言と共に、ドランケンフローラの姿が地中に消える。
しまった! こいつ、これを狙っていたな!?
たしかにこれなら人の目にはつかないが、そのまま俺の目の届かないところで大暴れする気だろ!!
しかも、手柄を独り占めする気がありありと伺われる。
「ズルい! 抜け駆け!!」
ドランケンフローラに続いて、ヴィヴィの姿も地中に消えた。
「あいつ、最初から一人で抜け駆けするつもりだったな!?」
「私たちも急ぐですよぉ!」
ポメリィさんがあわてて走り出そうとし、ジスベアードに止められる。
「待て。 俺たちは普通に、歩きながら入るんだ。
でなきゃ目立つだろ」
「それに、あの二人はお姫様の顔を知りませんよ。
たぶん、向こうについてから途方にくれると思います」
俺がボソリとそう付け加えると、ポメリィさんはポンと手を打った。
「あ、そういえばそうですね」
救出の鍵であるジスベアードを置いてゆく辺り、あのふたりはどうも詰めが甘い。
ついでに、ポメリィさんと二人っきりになることが分かってやに下がった顔をしているジスベアードがウゼェ。
「ほんと、ヘマしなきゃいいんだけど」
まぁ、浮遊図書館のモニターを駆使すれば、先走りした二人が何をしているかある程度は確認できるはずである。
耳を澄ませば今にも街のほうから悲鳴や破壊音が聞こえてくるような気がして、俺は逃げるように浮遊図書館へと戻った。
「さてと、連中はどうしているかねぇ」
俺はステーションセンターの一室にあるモニター室の椅子に座り、実働部隊が何をしているかを確認することにした。
これは前にヴィヴィの活躍を見せた鏡と同じ技術を用いており、端末を持った相手の周囲の光景を音声付でモニターに転送できる優れものである。
「フローラとヴィヴィはもう領主の館に到着しているようだな」
モニターには、領主の館の人気の無い場所にてなにやら言い争いをしているフローラとヴィヴィの姿が映し出されている。
おそらく、抜け駆けがどうこうという話だろう。
そもそもこいつらが欲張らず、ジスベアードを連れて地中を移動してくれたならばこんな面倒な作戦にはならなかったのではないだろうか?
今となっては考えるだけ虚しい話だが。
「うーん、どうにも様になりませんわねぇ。
コメディは書かない主義なのですが」
「私もよ。
もう少し絵になる展開がほしいところね」
……と、俺の横でこんな会話をしているのはフェリシアとレクスシェーナである。
なんでもこの二人は今回の事件を物語にするつもりらしい。
まぁ、たしかにさらわれたお姫様を助けに行くというのは普遍的なテーマだからなぁ。
「さて、ジスベアードたちも街の中に入って、順調に領主の館を目指しているようだな。
ヴィヴィ、フローラ、喧嘩している暇があったら探索を開始してくれ。
こっちで結果をまとめるから、高そうな服を着た女性のいる場所の報告を頼む」
「はーい」
「しかたがないのぉ」
さて、今回の作戦において俺は領主の館に狙いを絞った。
理由としては、恋愛がらみでさらったこともあって、お姫様が粗雑な扱いを受ける事は無いと判断したからである。
グレードの高い宿では人目につきやすすぎるし、裕福な他人の家ではおそらく信用できない。
結果、領主の館以外の場所にお姫様を置いておく事はできないということだ。
事前に上空から確認した領主の館の様子からすると、特に庭にある離れが怪しい。
使用人が頻繁に出入りしているところを見ると、誰かが利用しているのは間違いないだろう。
さらには領主の息子らしき人物が訪問していることも確認できている。
そんなことを思い出していると、ヴィヴィとフローラから通信が入った。
「ねぇ、トシキ。
ジスベアードたちが入ってくる時に邪魔になるだろうから、館にいる男と使用人の女共は始末していいでしょ?」
「我らもただ待っているだけでは退屈でのぉ。
館の外には漏れないようにするが故、ぜひとも許可がほしいところじゃな」
「……始末って。
あまり物騒な言葉使うな。
多少の怪我はしかたがないかもしれんが、あまりひどい事はするなよ」
「わかっておる。
まぁ、せいぜい薬で身動きできない程度に留めておいてやろう」
「うふふふ……体は無事なままにしてあげるわ。
体は……ね」
まったく安心できない台詞と共に、通信は途絶えた。
やれやれ、領主の館に住む人間にとっては、とんだ災難である。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる