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第一章
第88話 本を読むだけの簡単なお仕事
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執筆室のドアを開けると、そこはいくつものパーテーションに分かれた、まるでオフィスのようなつくりになっていた。
そして、大勢の大人たちが一心不乱に書き物をしている。
なんだこれ?
この世界に来てから見た、どんな場所とも雰囲気が違うぞ。
執筆室というより、ただの近代オフィスじゃねぇかよ!
いや、執筆だけじゃなくて、絵を描いている奴もいるぞ?
ここは出版工房か!?
地球の文化に影響されすぎだ。
いったいなぜこんなことに?
イギリスの特別な列車でゆく不思議な学校あたりに迷い込んだような状況に、おれはすっかり面食らっていた。
もはや、こんなの異世界ファンタジーじゃ無い。
ただの現代ファンタジーの親戚だろ。
そもそも、こいつらったい何者?
おそらくアドルフが連れてきたのだろうが、奴にこれだけの人間を集める伝手が……というか、こいつらの濃密な魔力、どう考えても人間じゃないぞ!?
しかも、そのありえない状況の中から、知っている奴らに声をかけられた。
「あら、遅かったわね」
「お邪魔してますわ」
それぞれ違う種類の笑顔を浮かべながら、シェーナとフェリシア俺に手を振る。
……勘弁してくれ。
見えなかったことにして、スルーしてもよいだろうか? ダメですか。
「なんでお前らがここにいる?
俺は呼んでないぞ」
すると、シェーナは腰に手をあてながら、えらそうな態度で文句を垂れた。
「呼んでくれないからこそ、こういう場所がほしかったのよね」
「ここは、精霊たちが自由に訪れて執筆ができる場所ですわ。
資料となる本もたくさんあって、とても快適ですのよ?」
つまりなにか?
このエリアは俺が呼ばなくても勝手に精霊がやってきて、好き勝手できるということか?
ほとんど聖域じゃねぇかよ!
「アドルフ」
「なんだ?」
「やりすぎだ、馬鹿野郎」
俺はニコニコとドヤ顔で腕を組んでいるアドルフの鳩尾に容赦なく肘を入れた。
「うぼっ……トシキ……テメェ……」
精霊にとってもそこは急所だったらしく、ふいをつかれたアドルフは体をくの字に折って床に沈む。
股間を狙わなかっただけありがたく思え。
「お前ら、自重という言葉を覚えろ。
さすがにキレるぞ」
「あ、あらあらトシキさん。
可愛い顔が台無しですわ」
「フェリシア。
止めなかった時点でお前も同罪だからな」
ジロリと睨みつけると、フェリシアはそっと視線をそらした。
穏やかな空気でなし崩しにこの状況を受け入れると思ったら大間違いである。
「な、なによ! スフィンクスの分際であたしたちに意見しようっていうの!?」
「お前らのほうが偉いなんて、誰が決めた?」
俺が押し殺した低い声で問い返すと、シェーナもまた視線をそらした。
種族なんて関係ねぇし、偉いから何してもいいって話じゃねぇんだよ。
そろそろ限界だ。
腰にくくりつけた袋から、俺はメモ書きを一枚取り出す。
そこには旧約聖書のひとつ、創世記の第十一節が書きとめてあった。
俺の撒き散らす険悪な雰囲気に、周囲の精霊たちも動きを止めてこちらに視線を向ける。
正直、この馬鹿みたいな建造物はぶっ壊してしまったほうが世のためだとは思った。
……が、このすがるような視線に囲まれるとさすがに迷う。
「はぁ……。
まぁ、やっちまったものは仕方ないし、今回は大目に見るとしようか。
しかし、なんだよこのたくさんの精霊」
結局、俺はため息をつきながらメモ書きを袋にしまいなおした。
この智の要塞ともいうべき場所を壊しても、精霊たちを反省させることができなければ意味が無い。
ならば、この建物を人質にしていろいろと取引でもしたほうが利口だろう。
なにより、このメモの力を発動させれば俺も無事ではすまない。
まさに命がけの切り札なのだ。
「うふふ、ごめんなさいね。
だって、みんな本を書くのが楽しくてしかたがないのですもの」
「今、あたしたち精霊たちの間では、物語を書いてトシキのところの図書館に置くのがブームなのよ。
特に絵本ね」
なるほど、このおかしな状況は俺がこの世界に持ち込んだ文化が原因だったか。
やはり、本来あるべきではないものを持ち込むような事は慎重にすべきだった。
「でも、トシキさん、なかなか依頼だしてくださらないでしょ?
なので、アドルフさんに頼んで、好きな絵本をつくって好きなように納めるシステムを作っていただきましたのよ?」
そういって指し示された一角には、やたらと豪華な絵本らしきものが本棚にギッシリおさめられている。
精霊の描いた本って、たしか一つ一つが少なくとも国宝レベルなんだよな?
これだけあるとありがたみが薄れるというか、値崩れ起こすんじゃないだろうか。
「……そういう事は、先に一言いってくれ」
めまいと頭痛に頭を抱えながら、俺は本棚からごっそりと無作為に本を抜き取る。
そして近くの空いている椅子に腰をかけた。
「何するの、トシキ?」
「検閲。 人に見せちゃまずい内容の本があるとまずいだろ」
実際、前に絵本を描いてもらったときもそういうものがいくつかあったのだ。
それに……もはやこの状況は楽しむしかないだろ。
俺は現実から逃げるように、次々と書物を貪るのであった。
本当に、こんな本を読むだけの仕事ばかりだったらいいのに。
そして、大勢の大人たちが一心不乱に書き物をしている。
なんだこれ?
この世界に来てから見た、どんな場所とも雰囲気が違うぞ。
執筆室というより、ただの近代オフィスじゃねぇかよ!
いや、執筆だけじゃなくて、絵を描いている奴もいるぞ?
ここは出版工房か!?
地球の文化に影響されすぎだ。
いったいなぜこんなことに?
イギリスの特別な列車でゆく不思議な学校あたりに迷い込んだような状況に、おれはすっかり面食らっていた。
もはや、こんなの異世界ファンタジーじゃ無い。
ただの現代ファンタジーの親戚だろ。
そもそも、こいつらったい何者?
おそらくアドルフが連れてきたのだろうが、奴にこれだけの人間を集める伝手が……というか、こいつらの濃密な魔力、どう考えても人間じゃないぞ!?
しかも、そのありえない状況の中から、知っている奴らに声をかけられた。
「あら、遅かったわね」
「お邪魔してますわ」
それぞれ違う種類の笑顔を浮かべながら、シェーナとフェリシア俺に手を振る。
……勘弁してくれ。
見えなかったことにして、スルーしてもよいだろうか? ダメですか。
「なんでお前らがここにいる?
俺は呼んでないぞ」
すると、シェーナは腰に手をあてながら、えらそうな態度で文句を垂れた。
「呼んでくれないからこそ、こういう場所がほしかったのよね」
「ここは、精霊たちが自由に訪れて執筆ができる場所ですわ。
資料となる本もたくさんあって、とても快適ですのよ?」
つまりなにか?
このエリアは俺が呼ばなくても勝手に精霊がやってきて、好き勝手できるということか?
ほとんど聖域じゃねぇかよ!
「アドルフ」
「なんだ?」
「やりすぎだ、馬鹿野郎」
俺はニコニコとドヤ顔で腕を組んでいるアドルフの鳩尾に容赦なく肘を入れた。
「うぼっ……トシキ……テメェ……」
精霊にとってもそこは急所だったらしく、ふいをつかれたアドルフは体をくの字に折って床に沈む。
股間を狙わなかっただけありがたく思え。
「お前ら、自重という言葉を覚えろ。
さすがにキレるぞ」
「あ、あらあらトシキさん。
可愛い顔が台無しですわ」
「フェリシア。
止めなかった時点でお前も同罪だからな」
ジロリと睨みつけると、フェリシアはそっと視線をそらした。
穏やかな空気でなし崩しにこの状況を受け入れると思ったら大間違いである。
「な、なによ! スフィンクスの分際であたしたちに意見しようっていうの!?」
「お前らのほうが偉いなんて、誰が決めた?」
俺が押し殺した低い声で問い返すと、シェーナもまた視線をそらした。
種族なんて関係ねぇし、偉いから何してもいいって話じゃねぇんだよ。
そろそろ限界だ。
腰にくくりつけた袋から、俺はメモ書きを一枚取り出す。
そこには旧約聖書のひとつ、創世記の第十一節が書きとめてあった。
俺の撒き散らす険悪な雰囲気に、周囲の精霊たちも動きを止めてこちらに視線を向ける。
正直、この馬鹿みたいな建造物はぶっ壊してしまったほうが世のためだとは思った。
……が、このすがるような視線に囲まれるとさすがに迷う。
「はぁ……。
まぁ、やっちまったものは仕方ないし、今回は大目に見るとしようか。
しかし、なんだよこのたくさんの精霊」
結局、俺はため息をつきながらメモ書きを袋にしまいなおした。
この智の要塞ともいうべき場所を壊しても、精霊たちを反省させることができなければ意味が無い。
ならば、この建物を人質にしていろいろと取引でもしたほうが利口だろう。
なにより、このメモの力を発動させれば俺も無事ではすまない。
まさに命がけの切り札なのだ。
「うふふ、ごめんなさいね。
だって、みんな本を書くのが楽しくてしかたがないのですもの」
「今、あたしたち精霊たちの間では、物語を書いてトシキのところの図書館に置くのがブームなのよ。
特に絵本ね」
なるほど、このおかしな状況は俺がこの世界に持ち込んだ文化が原因だったか。
やはり、本来あるべきではないものを持ち込むような事は慎重にすべきだった。
「でも、トシキさん、なかなか依頼だしてくださらないでしょ?
なので、アドルフさんに頼んで、好きな絵本をつくって好きなように納めるシステムを作っていただきましたのよ?」
そういって指し示された一角には、やたらと豪華な絵本らしきものが本棚にギッシリおさめられている。
精霊の描いた本って、たしか一つ一つが少なくとも国宝レベルなんだよな?
これだけあるとありがたみが薄れるというか、値崩れ起こすんじゃないだろうか。
「……そういう事は、先に一言いってくれ」
めまいと頭痛に頭を抱えながら、俺は本棚からごっそりと無作為に本を抜き取る。
そして近くの空いている椅子に腰をかけた。
「何するの、トシキ?」
「検閲。 人に見せちゃまずい内容の本があるとまずいだろ」
実際、前に絵本を描いてもらったときもそういうものがいくつかあったのだ。
それに……もはやこの状況は楽しむしかないだろ。
俺は現実から逃げるように、次々と書物を貪るのであった。
本当に、こんな本を読むだけの仕事ばかりだったらいいのに。
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