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お客の忘れ物 八月二十八日 (水)

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       台風が中心気圧が935hPa、最大風速50メートル、最大瞬間風速70メートルで、屋久島の西の海上を北へゆっくりと進んでいるらしい
 
玲香は住吉で乗せたお客さんを中川区松葉公園まで送った。
住吉とは栄を中心に錦、住吉、池田公園と夜の繁華街で賑わう一角である。
どちらかと言えば、集客は若い方たちが多い地区だ。
そこから、松葉公園に送ったのだが、
どうやら、そのお客さんはスマホを忘れて行ったらしい。午前〇時を過ぎている。
「春樹、今、大丈夫」
「うん、どうした?」
「お客さん、スマホを忘れて行ったの、どうしよう、
こういう場合、会社に連絡すればいいの、それとも、配車センターに届ければいい?」
「参ったね、どちらにしても、持っていたら、
いつ何時、スマホをお客さんの処に届けろと言われるか、わからない、

街まで戻ってきて、また、中川区まで届けに行く事になったら仕事にならんぞ」
「だよね、どうしよう」
「そういう時はね、警察に落とし物ですって、届けるのが一番いい。降ろした場所、
わかるか、松葉公園の北側とか東側とかベンチに置いてあったとか、
適当でいいけど、正直に、タクシーの中に置き忘れてありました。
って言ってもいいけれど、とにかく警察が一番だから・・・
そうすれば、会社でいやな顔をされなくてすむし、また、届けに行く事もないし、
それ以上にお客さんが一番助かるはずだ。明日の朝になって中川区から守山区まで、スマホを取りに行く事になったら、お客さんが大変だ、
そうだろ、な、一石三鳥だから、会社も、面倒な仕事を増やされなくてすむし
玲香だって、会社に戻るまでスマホの番をしていなくてすむし、
お客も遠い所まで取りに行かなくてすむし、ね、
これを、教えてくれたのは今年二月になくなった、
うちの代表、杉田代表って知らないか」

「えぇっ、私、杉田さんにこの会社を紹介してもらったの、去年の十一月頃だっけ、とても面倒見のいい方で、横乗りも杉田さんだった」
「そうか、俺はその杉田代表の一番弟子だから、そんな事はいいけど、
中川警察署はわかるか、松葉公園のすぐそばだから、
八熊通りと太平通りの交差点の東側にあるから」

「うん、知ってる、今、着いた、じゃ、届けてくる」

 仕事を終えて、春樹と玲香はマツダⅡに乗って家に帰った。
「警察、スマホ 受理してくれた?」
「なんか、すごく丁寧に対応してくれた。会社へ持って帰ったら、きっと
忘れ物ございませんかって言ったのかって責められて、
始末書、書かされて、大変なのに・・・」
「そうだな、これからは忘れ物は何でも近くの警察に届けるのが一番」

「それはそうと、ママと修平って、どうなっているんだろ、なんか聞いているか」
「修平さんと結婚するらしいよ、私たちみたいに籍だけ先に入れるんだって」
「そうなんだ、修平も時間帯を昼勤務に変えたらしいし、
ママのお父さんのお庭番をしてるって言ってたけれど、
つまり、ママと一緒に三人で住んでいるって事か、
えぇ、同居しているんだ。お父さんはわかっているのかな?」
「わかってる?って、精神的にどうかって事、そうだよね、

あの時も約八時間、どこにいたかも判ってないんだよね」
「ファミリーマートの向かいのバローに八時間もいたのかな?」
「でも、玲香、よく、見つけたね」
「見つけたって言うより、トイレに走ったら、そこに居たんだから・・」

「神様が引き合わせてくれたんだよ、きっと、よかった」
「じゃ、修平たちの祝宴をしなくちゃ、澤正?」
「本当に春樹、澤正が好きね。それは、ママが決めるんじゃない!」
「明日にでも電話して聞いてみる」 玲香が言った。
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