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お客の手招き

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       二十二時、そろそろ、お客さんの帰宅時間だ。
プリンス大通りの交差点で手が上がった、
春樹は交差点の南向きで信号待ちをしている。
お客は東側で曲がって来るように指示をしている。
信号が変われば、すぐ、左に曲がってお客様の所に寄せるつもりでいた、
すると、後ろから男女のお客がドアをノックして乗せろと言っている。
春樹はドアを開けて乗せた。さっき、手を上げていたお客の前を通過する。
客は春樹をにらんで怒っていた。

「なんだ、あのおっさん、運ちゃんをえらく睨(にら)んでいたけど、
なんかあったのかな」

乗車中のお客さんが言った。春樹が答える。

「あのお客さん、私に曲がるよう指示していたんですが、
お客さんたちがドアをノックされたので乗っていただきました」

「あの人の方が先だったんだ、だったら、曲がれなんて言ってないで、信号待ちの間に乗ればいいじゃん」

「そうですよね、あぁいう方、結構多いのですが、
タクシーに乗るマナーとでも思ってるのでしょうか」

「乗ったもん勝ちだよね」女性客が言った。

「はい、そのとおり、乗ったもん勝ちです」

春樹はお客様を千種駅に送ると、駅から、またお客様が乗ってきた。
珍しく千種駅には待機しているタクシーがいなかったのだ。
春樹は今日はついていると思った。
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