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新人 上野玲香
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新人 上野玲香 二〇二三年 十二月二十日
ある日、春樹はいつものように会社に行くと、課長が、春樹を呼び止めた。
「泉ちゃん、悪いけど、今から猪子石荘へ行ってくれるか、猪子石荘の南側で
新人の上野玲香さんが自転車と接触事故を起こしたらしいんだ、今、班長が向かっているんだけど、
お客さんが2名乗車しているので、そのお客を尾張旭まで送ってほしいんだ。メーターを入れて、
お客さんを目的地まで送ってくれ、だけど、料金はお客さんから絶対に頂かないように。
後で料金報告してくれればいいから、頼むよ」
春樹は 上野玲香さん、初めて聞く名前だと思った。
春樹が事故現場に着くと、パトカーが一台止まっていた。会社の制服を着た女性と班長が警察と話をしている。
その向こうにはやはり、警察官と中学生くらいの男の子が話をしていた。
班長が春樹を見つけるとお客様を春樹の車に誘導して「頼むね」と言って乗せた。
春樹はそのまま、メーターを入れずにお客さんを二名、尾張旭に送った。お客さんの話だと、
突然、左脇から自転車が飛び出して来たらしい
自転車に乗っていた中学生の男の子は 転んで左足を少し擦りむいたとか、
その時、自転車を乗りながらスマホでゲームしていたらしいが、そのスマホを地面に落とし、壊れてしまった。
今は親に連絡をできず困っているとか・・・60歳くらいの女性2名が、
聞いてもいない事をペラペラ話をしてくる。
「お客様、大変でしたね、時間を取らせたようで申し訳ありません。お怪我無かったですか」
春樹は丁寧に対応した。
「私たちは大丈夫よ、自転車に当たったと言っても、あの中学生が倒れたのを見て、
どうしたのかしらって思ってたら、女性の運転手さんが今、自転車とぶつかりましたって聞いて
わかったんだから、そんな、ぶつかった音もしなかったけど、なんでも、男の子が、
ぶつかる寸前でハンドルを切ったって言っていたけど、よくわからないわ、
だけど、運転中にゲームしてたらダメでしょう」
車内は事故の事で盛り上がっていた。
それでも、悪いのは車両になる。前方不注意とかで違反点数は2点、罰金は九千円だ、
その上、春樹が尾張旭まで送っていった料金が加わる。相手の自転車やタクシー車両に傷でもつけば、
その整備費用の20%は本人もちだ。また、中学生が怪我をして、人身事故、乗車していたお客さんも怪我をしたと言えば、大変な事だ。 春樹も、過去に事故った経験があり よくわかっていた。
お客さんを送り届けると会社に料金報告をした。
「泉です、今、送り届けました。メーターを入れていないので料金請求はありません。以上」
課長はどういう事って春樹に聞いてきた。
「新人の子に、あんまり、負担をかけたら、すぐやめちゃいますよ
俺は別に、そんなお金はいらないので、よろしく」
「泉ちゃんはそれでいいのか!しかし、メーターを入れないのはまずいぞ」
「課長の言わんとしてる事はわかっていますよ、だから、客は歩いて
帰ったとか・・にしておいてください。そうそう、お客さんはどこも怪我は
していないってしっかり、確認を取っておきましたので、あとからどうのこうのは言ってこないと思いますよ」
それを云うと課長は納得したようだった。
後日、春樹が出勤すると事務所に新人の上野玲香さんがいた。春樹を見かけるなり、
寄って来て、事故の時のお礼を言った。猪子石から尾張旭の印場まで四千円はでる。
それが消えただけでも本人にとっては嬉しかったのだろう。
「泉さん、先日はありがとうございました。課長があの時、泉さんで
よかったなって言ってました。本当にありがとうございました」
なんだか、珍しく礼儀正しい。だいたい、タクシーの運転手なんて自分も含めてろくなのがいない
と思っている春樹にとって上野玲香さんはすごく新鮮に思えた。
「いいよ、別に、そんなに気にしなくても・・タクシーは事故と違反とお客とのトラブルを如何に避けるか・
それが一番重要だからね。大変だと思うけど、頑張ってね」
新人の上野玲香は、茶髪の長い髪を後ろで結んでいる。笑顔がとても、チャーミングだ。
白と黒の横縞模様のTシャツにスリムなジーパン姿だ。
「今日は休み?」
通常、玲香がこの時間にいるはずがないので休みに違いないと思ったのだ。
春樹は夕方、五時から朝方三時までの勤務 玲香は朝八時から夕方七時までの勤務なのですれ違いのはずだ。
「はい、泉さんに一言お礼が言いたくて待っていました」
「そう、それはご丁寧に・・・よかったら、お茶でもしませんか」
「いいんですか!今から仕事じゃないのですか」
「少しくらい大丈夫だから、俺は事務所で勤務グッズ揃えてから行きますので先に
天神下のイオンのコメダに行ってて下さい」
コメダ珈琲店は空いていたので玲香が居る場所がすぐにわかった。
この時間は、客たちは夕食の食材を求めにイオンの地下にある食品売り場に足が向くのだ。
ドアを開けるとすぐに目が合った。軽く右手を上げて会釈をする
「イオンのコメダって言ったけど、此処、知ってた? 後になって、
どうだったかなって不安になったよ」 春樹は座るなり、こう切り出した。
「知ってましたけど、入ったのは初めてです」
ウエイトレスが注文をとりにきた。
「上野さんはコーヒーですか」
「泉さんは?」
「僕はブラックですが」玲香はウエイトレスに同じものを二つ注文した。
「送って行ったお客さんに聞きましたけど、なんでも、男の子がスマホしながらぶつかって来たとか」
「そうじゃなかったみたいです。男の子が目の前でひっくり返った時はびっくりしましたけど、
男の子は当たると思って、とっさにハンドルを切ったら、路側帯に穴があって、
そこにタイヤがハマって転んだようです。
その時にちょっと接触したような気がしたのですが、結局、接触したかどうかも確認できていません。
で、警察は自転車の単独事故にしたようです。お巡りさんが言っていましたが、
正直な中学生でよかった、スマホの事は隠す子が多いもんだけど、いい子でよかったって!
何度も言っていました。
「そう、でしたか良かったですね、じゃ、送っていったお客に料金請求しましょうか」
そう云うと、上野玲香が本気にしたようなので、あわてて、
「冗談ですよ、冗談 」と言って笑った。春樹が切り出す。
「ちなみに聞いてもいいのかな・・・独身ですか」
「はい、独り身です。一度も結婚はしていません、1987年生まれ、今37歳です。B型です。昨年十一月に東京から移ってきました。以前の仕事は、ビデオ制作会社で働いていました。以上です」
春樹は啞然とした。聞いてもいない事を、いや、少しずつ、当たり障りなく、聞こうと思っていた事が
もう、わかってしまった。と言う事は次は俺が答える番だ。
「1987年ですか、俺は1985年、2つ違いですね、ついでに誕生日は
十一月二十八日です、AB型 独身です、この会社に勤めて十八年かな、長い事、タクシーやっています」
「なんだか、お見合いでもしているような・・・」 春樹がこもる声で言った。
「あ、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて、たぶん聞きたいところは
誰でもいっしょなので、どうせ、あとで聞かれるのなら、先に言っておいた
方がいいかな~って」
「そうですね、知りたかったことです。なにも、誤る事はありません。私の方がいらんことを言いました」
コメダの壁に掛けてある時計を見るともう、午後六時を過ぎていた。
「もう、こんな時間だ、そろそろ、仕事をしないと・・・」
春樹が伝票を手にすると、
「あ、ダメです、今日は私がお礼に来たのですから、私が払います」
と言って、玲香は伝票を取り上げた。
「ありがとう、じゃ、甘えるかな。今からどうするの」
「イオンで買い物をして帰ります、もし、よかったら、また会っていただけますか」
「あぁ、いつでも、よろこんで・・」
「お仕事頑張ってください」
春樹は軽く手を振ると、駐車場へ歩いて行った。
魔が差した事 三月
午前一時三十分 修平が桜通り大津の交差点に差し掛かると、
横断歩道で信号待ちしている茜のママを見つけた。
修平は車を停車して、後ろのドアを開くと、ママを呼んだ。
「ママ、乗って乗って!」
その声に気づいた茜は、取り敢えず、後席に座った。
「修平さん、いいの!すぐ近くよ」
「あれ、勝川じゃなかったの?」
「あ、あの時は実家に帰ったの、ちょっと、父の様子を見に・・・」
「そうだったのか、そうだよねー毎日、タクシーで勝川まで帰ってたら、えらいことになるよね」
「だから、そこの高岳を超えて、すぐの路地を入って、そう、まっすぐ行って!
そこの公園の横のマンションなの」 修平は車を止めると、ママと話し出した。
「ママ、こないだは、ありがとう、春樹が飲まないのに、ボトル
入れてもらって本当によかったのか。なんか、余計、迷惑かけたみたいで」
「いいのいいの、私も貴方達が入って来た時、ちょっと戸惑ったの。まさか、来るとは思わなかったし、
お店の子たちにそんな事、知られたくないし、客さんが聞いたらどう思うかしら。
なんか、ごまかせないかと・ボトルでごまかせたら安いもんだわ」
「なるほどね、またなんで、あんな事になったの」
「本当にね、魔が差したのね、春樹が、あ、春樹なんて呼び捨てにしちゃまずいかしら」
「いいんじゃない、なんてったって、春樹と乳繰り合った仲なんだろ」
「ま~ヤダ そんなんじゃないけど、ほんとにね、あの時は、お店で喧嘩になるし、
前の日は父が夜中に堤防歩いていたみたいで、医者は、かるい認知症だって云っていたけど、
だから、あの日は父の様子を見に行ったの」
「そう、お父さん、認知症じゃ、大変だね、夜の仕事どころじゃないね」
「なんだか、疲れちゃって・・・それで、たまたま、春樹の車の乗ったら、よくわからないけど、
ちょっと、ちょっかい出したくなっちゃったの。
言っとくけど、あんな事、生れてはじめてよ、男に手を出すなんてサイテー、みっともないったらありゃしない」
「んんぅ、でも、タイマーかけていたんだって」
「タイマーなんてかけていないわよ」
「でも、春樹が十五分経ったからタイムオーバーって云われたって、えらい気にしていたけど」
「あぁ、あれね、こんな事やってたらやばいと思って・・
自分から手出しといて、勝手な話だけど、けりつけようと思って、スマホの防犯ブザーを鳴らしただけ」
「なるほど、そういう事か、なるほどね! まぁ~人間誰でも、一度や二度、魔が差すって事あるよ、
でも、なんだか、少しわかるような気がする。春樹は、根がまじめだし、優しいし、すきまがあるし、
扱いやすいし、それは悪い事でなくて、
あいつの取り柄なんだけどね、そのツボにママは入ったのかもしれないね」
「なんか、言われてみれば、修平さんの言う通りのような気がしてきた。
修平さんと話ができてよかった。ちょっと、心が楽になった。ありがとう」
「おおぅ、なんか、困った事があったら言って、ちからになるよ、
お父さんの事でもちからになるから」
「ありがとう。料金いくらだった?」
「何言ってんだよ、お金取る気で乗せちゃいないから、茜の専属タクシーだし・・、はい、おやすみ」
修平はそう言ってドアを開けた
「ごめんね、ありがとう、お店に来てね、おやすみなさい」
「おやすみ」
もう、一時五十分を過ぎていた。修平は急いで会社に帰った。
ある日、春樹はいつものように会社に行くと、課長が、春樹を呼び止めた。
「泉ちゃん、悪いけど、今から猪子石荘へ行ってくれるか、猪子石荘の南側で
新人の上野玲香さんが自転車と接触事故を起こしたらしいんだ、今、班長が向かっているんだけど、
お客さんが2名乗車しているので、そのお客を尾張旭まで送ってほしいんだ。メーターを入れて、
お客さんを目的地まで送ってくれ、だけど、料金はお客さんから絶対に頂かないように。
後で料金報告してくれればいいから、頼むよ」
春樹は 上野玲香さん、初めて聞く名前だと思った。
春樹が事故現場に着くと、パトカーが一台止まっていた。会社の制服を着た女性と班長が警察と話をしている。
その向こうにはやはり、警察官と中学生くらいの男の子が話をしていた。
班長が春樹を見つけるとお客様を春樹の車に誘導して「頼むね」と言って乗せた。
春樹はそのまま、メーターを入れずにお客さんを二名、尾張旭に送った。お客さんの話だと、
突然、左脇から自転車が飛び出して来たらしい
自転車に乗っていた中学生の男の子は 転んで左足を少し擦りむいたとか、
その時、自転車を乗りながらスマホでゲームしていたらしいが、そのスマホを地面に落とし、壊れてしまった。
今は親に連絡をできず困っているとか・・・60歳くらいの女性2名が、
聞いてもいない事をペラペラ話をしてくる。
「お客様、大変でしたね、時間を取らせたようで申し訳ありません。お怪我無かったですか」
春樹は丁寧に対応した。
「私たちは大丈夫よ、自転車に当たったと言っても、あの中学生が倒れたのを見て、
どうしたのかしらって思ってたら、女性の運転手さんが今、自転車とぶつかりましたって聞いて
わかったんだから、そんな、ぶつかった音もしなかったけど、なんでも、男の子が、
ぶつかる寸前でハンドルを切ったって言っていたけど、よくわからないわ、
だけど、運転中にゲームしてたらダメでしょう」
車内は事故の事で盛り上がっていた。
それでも、悪いのは車両になる。前方不注意とかで違反点数は2点、罰金は九千円だ、
その上、春樹が尾張旭まで送っていった料金が加わる。相手の自転車やタクシー車両に傷でもつけば、
その整備費用の20%は本人もちだ。また、中学生が怪我をして、人身事故、乗車していたお客さんも怪我をしたと言えば、大変な事だ。 春樹も、過去に事故った経験があり よくわかっていた。
お客さんを送り届けると会社に料金報告をした。
「泉です、今、送り届けました。メーターを入れていないので料金請求はありません。以上」
課長はどういう事って春樹に聞いてきた。
「新人の子に、あんまり、負担をかけたら、すぐやめちゃいますよ
俺は別に、そんなお金はいらないので、よろしく」
「泉ちゃんはそれでいいのか!しかし、メーターを入れないのはまずいぞ」
「課長の言わんとしてる事はわかっていますよ、だから、客は歩いて
帰ったとか・・にしておいてください。そうそう、お客さんはどこも怪我は
していないってしっかり、確認を取っておきましたので、あとからどうのこうのは言ってこないと思いますよ」
それを云うと課長は納得したようだった。
後日、春樹が出勤すると事務所に新人の上野玲香さんがいた。春樹を見かけるなり、
寄って来て、事故の時のお礼を言った。猪子石から尾張旭の印場まで四千円はでる。
それが消えただけでも本人にとっては嬉しかったのだろう。
「泉さん、先日はありがとうございました。課長があの時、泉さんで
よかったなって言ってました。本当にありがとうございました」
なんだか、珍しく礼儀正しい。だいたい、タクシーの運転手なんて自分も含めてろくなのがいない
と思っている春樹にとって上野玲香さんはすごく新鮮に思えた。
「いいよ、別に、そんなに気にしなくても・・タクシーは事故と違反とお客とのトラブルを如何に避けるか・
それが一番重要だからね。大変だと思うけど、頑張ってね」
新人の上野玲香は、茶髪の長い髪を後ろで結んでいる。笑顔がとても、チャーミングだ。
白と黒の横縞模様のTシャツにスリムなジーパン姿だ。
「今日は休み?」
通常、玲香がこの時間にいるはずがないので休みに違いないと思ったのだ。
春樹は夕方、五時から朝方三時までの勤務 玲香は朝八時から夕方七時までの勤務なのですれ違いのはずだ。
「はい、泉さんに一言お礼が言いたくて待っていました」
「そう、それはご丁寧に・・・よかったら、お茶でもしませんか」
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「少しくらい大丈夫だから、俺は事務所で勤務グッズ揃えてから行きますので先に
天神下のイオンのコメダに行ってて下さい」
コメダ珈琲店は空いていたので玲香が居る場所がすぐにわかった。
この時間は、客たちは夕食の食材を求めにイオンの地下にある食品売り場に足が向くのだ。
ドアを開けるとすぐに目が合った。軽く右手を上げて会釈をする
「イオンのコメダって言ったけど、此処、知ってた? 後になって、
どうだったかなって不安になったよ」 春樹は座るなり、こう切り出した。
「知ってましたけど、入ったのは初めてです」
ウエイトレスが注文をとりにきた。
「上野さんはコーヒーですか」
「泉さんは?」
「僕はブラックですが」玲香はウエイトレスに同じものを二つ注文した。
「送って行ったお客さんに聞きましたけど、なんでも、男の子がスマホしながらぶつかって来たとか」
「そうじゃなかったみたいです。男の子が目の前でひっくり返った時はびっくりしましたけど、
男の子は当たると思って、とっさにハンドルを切ったら、路側帯に穴があって、
そこにタイヤがハマって転んだようです。
その時にちょっと接触したような気がしたのですが、結局、接触したかどうかも確認できていません。
で、警察は自転車の単独事故にしたようです。お巡りさんが言っていましたが、
正直な中学生でよかった、スマホの事は隠す子が多いもんだけど、いい子でよかったって!
何度も言っていました。
「そう、でしたか良かったですね、じゃ、送っていったお客に料金請求しましょうか」
そう云うと、上野玲香が本気にしたようなので、あわてて、
「冗談ですよ、冗談 」と言って笑った。春樹が切り出す。
「ちなみに聞いてもいいのかな・・・独身ですか」
「はい、独り身です。一度も結婚はしていません、1987年生まれ、今37歳です。B型です。昨年十一月に東京から移ってきました。以前の仕事は、ビデオ制作会社で働いていました。以上です」
春樹は啞然とした。聞いてもいない事を、いや、少しずつ、当たり障りなく、聞こうと思っていた事が
もう、わかってしまった。と言う事は次は俺が答える番だ。
「1987年ですか、俺は1985年、2つ違いですね、ついでに誕生日は
十一月二十八日です、AB型 独身です、この会社に勤めて十八年かな、長い事、タクシーやっています」
「なんだか、お見合いでもしているような・・・」 春樹がこもる声で言った。
「あ、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて、たぶん聞きたいところは
誰でもいっしょなので、どうせ、あとで聞かれるのなら、先に言っておいた
方がいいかな~って」
「そうですね、知りたかったことです。なにも、誤る事はありません。私の方がいらんことを言いました」
コメダの壁に掛けてある時計を見るともう、午後六時を過ぎていた。
「もう、こんな時間だ、そろそろ、仕事をしないと・・・」
春樹が伝票を手にすると、
「あ、ダメです、今日は私がお礼に来たのですから、私が払います」
と言って、玲香は伝票を取り上げた。
「ありがとう、じゃ、甘えるかな。今からどうするの」
「イオンで買い物をして帰ります、もし、よかったら、また会っていただけますか」
「あぁ、いつでも、よろこんで・・」
「お仕事頑張ってください」
春樹は軽く手を振ると、駐車場へ歩いて行った。
魔が差した事 三月
午前一時三十分 修平が桜通り大津の交差点に差し掛かると、
横断歩道で信号待ちしている茜のママを見つけた。
修平は車を停車して、後ろのドアを開くと、ママを呼んだ。
「ママ、乗って乗って!」
その声に気づいた茜は、取り敢えず、後席に座った。
「修平さん、いいの!すぐ近くよ」
「あれ、勝川じゃなかったの?」
「あ、あの時は実家に帰ったの、ちょっと、父の様子を見に・・・」
「そうだったのか、そうだよねー毎日、タクシーで勝川まで帰ってたら、えらいことになるよね」
「だから、そこの高岳を超えて、すぐの路地を入って、そう、まっすぐ行って!
そこの公園の横のマンションなの」 修平は車を止めると、ママと話し出した。
「ママ、こないだは、ありがとう、春樹が飲まないのに、ボトル
入れてもらって本当によかったのか。なんか、余計、迷惑かけたみたいで」
「いいのいいの、私も貴方達が入って来た時、ちょっと戸惑ったの。まさか、来るとは思わなかったし、
お店の子たちにそんな事、知られたくないし、客さんが聞いたらどう思うかしら。
なんか、ごまかせないかと・ボトルでごまかせたら安いもんだわ」
「なるほどね、またなんで、あんな事になったの」
「本当にね、魔が差したのね、春樹が、あ、春樹なんて呼び捨てにしちゃまずいかしら」
「いいんじゃない、なんてったって、春樹と乳繰り合った仲なんだろ」
「ま~ヤダ そんなんじゃないけど、ほんとにね、あの時は、お店で喧嘩になるし、
前の日は父が夜中に堤防歩いていたみたいで、医者は、かるい認知症だって云っていたけど、
だから、あの日は父の様子を見に行ったの」
「そう、お父さん、認知症じゃ、大変だね、夜の仕事どころじゃないね」
「なんだか、疲れちゃって・・・それで、たまたま、春樹の車の乗ったら、よくわからないけど、
ちょっと、ちょっかい出したくなっちゃったの。
言っとくけど、あんな事、生れてはじめてよ、男に手を出すなんてサイテー、みっともないったらありゃしない」
「んんぅ、でも、タイマーかけていたんだって」
「タイマーなんてかけていないわよ」
「でも、春樹が十五分経ったからタイムオーバーって云われたって、えらい気にしていたけど」
「あぁ、あれね、こんな事やってたらやばいと思って・・
自分から手出しといて、勝手な話だけど、けりつけようと思って、スマホの防犯ブザーを鳴らしただけ」
「なるほど、そういう事か、なるほどね! まぁ~人間誰でも、一度や二度、魔が差すって事あるよ、
でも、なんだか、少しわかるような気がする。春樹は、根がまじめだし、優しいし、すきまがあるし、
扱いやすいし、それは悪い事でなくて、
あいつの取り柄なんだけどね、そのツボにママは入ったのかもしれないね」
「なんか、言われてみれば、修平さんの言う通りのような気がしてきた。
修平さんと話ができてよかった。ちょっと、心が楽になった。ありがとう」
「おおぅ、なんか、困った事があったら言って、ちからになるよ、
お父さんの事でもちからになるから」
「ありがとう。料金いくらだった?」
「何言ってんだよ、お金取る気で乗せちゃいないから、茜の専属タクシーだし・・、はい、おやすみ」
修平はそう言ってドアを開けた
「ごめんね、ありがとう、お店に来てね、おやすみなさい」
「おやすみ」
もう、一時五十分を過ぎていた。修平は急いで会社に帰った。
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