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第30話 死なない怪物

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 何とか突破できたと思っていた3人であったが、そんなことを言われるとは思っていなかった。そして、『死なない怪物』とはどのような意味なのか。

 フレイは聞き返す。

「なんで、死なないんですか? ということは撃破が不可能ということになりますが」

「文字通り不可能なんだよ。説明がつかない。あらゆる攻撃を食らっても即時元通りさ」

 信じられなかった。ただ、ピクミーという名前を聞いてフレイはあることに引っかかった。それは前に自身が開いていた本である。フレイはその場で本を開く。その正体に気づいているのはオケアノスだけであり、神妙な表情をしている。

 そして、フレイが開いたページには。

「ピクミーの再生機能をなくす」という古代文字が書き込まれている。それをオケアノスにフレイは見せつける。だが、オケアノスは首を横に振る。

「それでダメなのさ。奴はどうしようもない怪物なんだよ」

 同じように覗き込んできていたレイアとエデンが「何これ?」と声をかけてくるもののフレイは「古代文字の勉強」と返す。

「なんで、今それを開くのさ」

 エデンの問いに息詰まったとき、何か悲痛な叫びが聞こえた。その悲痛な叫びにエデンはハッと目を見開くと、声のしたほうへと向かっていった。
 その先へと向かうと、足を抑える機械でおおわれた男の姿があった。

「お、お父さん!?」

「あ、足が……」

 よく見ると、岩が直撃していたのか、機械の足の部分が破壊されており、そこから赤い液体と薬剤の鼻につく香りが漂っている。

 そして、機械の一部分は体から切り離されているのが分かった。
 ソノの右ひざから下が。

「そ、そんな。今から行こう!」

 エデンとレイアは機械の鎧をはがすと、レイアがソノの体を抱え、壁内へとかけていった。エデンも彼女を追っていく。そんな二人の姿を見ながら、フレイも向かおうとした時である。背中にいたオケアノスに動くのを止められる。

「ちょっと待て、言いたいことがある」

「……なんですか?」

「言わないつもりか? 自分がティタンであることを」

「言ってしまった場合、人間軍がこのパーティメンバーに目をつける可能性が出てきます。そうなった場合、傷つくのは僕だけじゃなくて、ほかの皆さんも傷つく可能性が出てきてしまいます」

 フレイがそう早口でまくし立てるのを聞いて、オケアノスはうつむいたまま声をかけることはなかった。
 二人の間に妙な空気が漂い、壁内へと二人がいなくなるのを見ながら、オケアノスは呟く。
 
「助かったよ。本当に」

「何がですか?」

「君が来てくれて、私は今、こうして正義をできている。ただ、改めてだが、ギルドはやめることにするよ」

「そう、ですか?」

「一つやりたいことがあるんだよ」

 彼の顔を見ると、あの部屋で見た表情とは異なり、自信ありげに見えた。
 いや、何か決意が決まっているかのような。そんなことをフレイは思い、先ほどの自分のパーティのありさまを思い出してしまう。仲間に対して素直になれない、正体を隠そうとする自分。周囲とは違う自分……。彼は自然と口が開いていた。

「その肉体は……殺したものですか?」

「それは……そうだな。本当に申し訳ない。私はオケアノスだ」

 頭を下げ始めたオケアノスに対し、フレイは「いえいえ、そうではなくて」と返し、少し黙ると言葉をつづける。

「もし、その肉体の記憶があなたにもあるのなら、聞きたいのですが。どうして、僕のことをパーティに受け入れたんですか?」

 オケアノスは不意を突かれたようであったが、フレイの顔をたしなめながら呟いた。

「なるほど。確かに私にはアスラの記憶があるが……分かった。話そう。その理由を」

     *      *

 エデンとレイアが軍の医療施設に着く。
 人間軍の医療施設は大きい。それも、この国の実権を握っているのが人間軍であるのが理由であることに他ならないのだが。
 病院の前に来ると、夜であるにもかかわらず一気に人が集まってくる。その中にはエデンの母親もいた。彼女はエデンとレイアの抱える父親を見て、驚いていた。

「ちょ、どうしたの!?」

「外での戦いで」

 エデンの一言で、エデンの母親はどこかしおらしい表情を見せると、呟いた。

「今から緊急で手術ね」

 そのままレイアから病院の職員に代わり、ソノは運ばれていった。彼らの様子を見ながら、エデンは声を押し殺すようにして言った。

「なんで……こんな世界なの……」

 そのままフラフラとさまよいながら病院へと入っていく。既に彼女の装備はボロボロであり、体全体に傷を作っていたが、レイアは声をかけることができなかった。そのまま無言で背中を追いかけていく。

 エデンは恐る恐る病院へと入っていくが、中は閑散としていた。裏口から手術室の方へと向かうことになる。うつむきながら、歩く自分の足を見ながら、ソノの足からの出血、さらに虐殺のことまで思い出してしまった。思わず吐き気が来てしまい、うずくまる。

 父親は死んでいる。母親も。兄は闘技場へ。私は……。

 そこで彼女は目の前から駆けてくる音に気づいた。
 いたのは人間の男性の看護師であった。

 思わず、後ずさりしてしまうが、動くことができない。
 ただ、彼からきた言葉は思わぬものであった。

「大丈夫ですか? うずくまっていたので来たんですけど」」

「へ……」

「その恰好ギルドの人でしょう。凄く傷ついていて……手当しましょうか?」

 思わぬ反応にレイアは体をがくがくと震えさせる。

「なんで……」

「どうしましたか?」

「なんで、助けてくれるんですか……?」

 思わず問いかけていた。レアの民族に優しい人間など、エデンやセリナ、あの駄菓子屋の少女以外にいるとは思わなかった。

 エデンの問いに看護師は答える。

「苦しんでいる人がいたら助ける。それは当たり前の話ですよ」

 そう言われて、彼女は瞬きを繰り返す。
 そんな彼女を見て、看護師はそこで少し目を細めると、思い出すように言った。

「そう、言われたんですよ。エデンさんのお母さんに」
 
 意外な言葉であった。では、なぜ自分はエデンの家に隷属としていることになってしまったのだろう。ただ、よく考えてみると、あの家族に違和感はあった。なぜ、隷属からギルドに移った自分に対してエデンの両親は無理矢理でも止めようとしなかったのか。確かにソノからは愚痴こそ聞くが、強制はしない。

 母親が……。

 レイアは立ち上がると、「ありがとう、ございました。もう、大丈夫です」と看護師に返し、エデンの下へと走っていった。

「無理はしないでくださいね」

「はい!」

 背中で彼女は答えると、看護師は微笑んだ。だが、視界の先に緑色の何かが動いたような気がした。そこで彼の頭に何かが髪をまとめていることに気づく。

「え」

 そこにあったのは緑色に輝く輪であり、瞬間、全身の穴から血を吹き出し、倒れる。
 その数秒後には立ち上がり、彼は呟いた。

「さて、やるかー」
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