僕は女神に溶けていく。~ダンジョンの最奥で追放された予言士、身長100メートルの巨大女神に変身する~

やまだしんじ

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第16話 トラウマとおかえり

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 轟音が響き渡る。
 それと共にフレイはエデンに頷いた。

「装備はありますよね?」

「大丈夫。いつでもいけるよ」

 彼らはそのままコロシアムになだれ込んだ。だが、フレイはそのコロシアムの中央に立っている岩の塊を見て動きを止めてしまった。
そこにいたのは巨大なゴーレム。
 瞬間、彼の視界を暗闇が染めていく。

 そこを遮ったのはテミスの声であった。

「どうしたの?」

「あ、いや、何でもない……」

 フレイはそう答え、装備を整え、駆け抜ける。久しぶりの人間大の戦闘。
彼は分析しようとしなかった。がくがくと震えながら剣を構え、その体に突撃するも、ゴーレムは軽く足で薙ぎ払うだけで、衝撃波が生まれる。そのまま見事に吹き飛ばされてしまい……。

「フレイ!」

 エデンの叫び声が聞こえたが、彼は構わず、叫ぶ。

「テミス!」

 瞬間、彼の体は変貌し、あの巨大褐色女神の姿へと変わっていた。
 

 
セリナは階段から上がり、レストランを抜ける。
そのレストランの窓から、テミスの姿とゴーレムの姿を捉える。

「あ、あれは……中身がフレイ君だとしたら。マズイ」

 その言葉通りか。
 フレイはゴーレムへと殴りかかっていくのだが、その攻撃は今までのような精密さが伴ったものではない。攻撃はキレイにそれてしまう。さらに、逃げるように行動しており。
力も入っているように見えない。
 
「あはは。ほ、本物だ……」

 本来であれば慌てるところであるが、セリナはへたりとその場に座り込んでしまう。
 そして、さめざめと泣いてしまった。

 それとは裏腹にテミスは慌てていた。

「ちょっと、フレイ君ど、どうしたんですか?」

「ほ、本当にごめん。僕ゴーレム無理なんだ……」

 フレイの力ない声にテミスは

「え、ええ。そ、そうなんですか?」

「怖くなっちゃって……」

「だったら……私が代ります」

 そうテミスが呟いた瞬間、フレイの意識はその場から消え去った。
 そのままテミスはゴーレムのことを一気に殴りつけていく。所かまわず、次々に。


 
「……人格を変えたということか。だとすると、やはり、テミスには変身者が存在する」

 コロシアムの天上にて座り、その戦いを見る影があった。
 それはアスラ。

 そこで、横に駆けあがってくる影があった。
 キメラの羽の鎧を身にまとい、顔には涙の跡があるエデンであった。

「な、何しているんですか!アスラさん!」

「な、なに」

「ふ、フレイさんが壁に叩きつけられて、死んだかもしれないんです! さっきまでは、私のことを……」

 そう言ったままエデンが泣き止むことはない。
 フレイ、と言うのはあの陰気そうな青年のことか、そう思ったところで、彼の脳裏に少年が映り込んでくる。その少年はこちら側に微笑んだが、フレイではない。この少年は……と考えたところで、エデンが肩をはたいてきた。

「行きますよ!弔い合戦です!」

「お、おう」

 二人はコロシアムの天上から弓を構える。
 
「これ、使ってください」

 エデンが何かを差し出す。そこには白い液体の入った瓶があり、それを矢じりに着けるように指示をする。

「これは?」

「あたった物を内側から爆破する矢です」

 そこでアスラはふっと鼻で息をしながら微笑した。

「な、なんですか?」

「ありがとう、貸してもらうよ」

(君のおかげで助かった)

 彼は心の中で呟いた。


 
 テミスの攻撃はまるで通用していないように見えた。この目の前のゴーレムは何度も再生を繰り返す。この再生と言うのも特殊であり、崩れた建造物から自分の体を構成させるため、キリがなかった。

「めんどいですね」

 こういう時にフレイが機能していれば何とかなるのですが。
 ゴーレムがトラウマとは。一体何があったのだろうか。そんなことがテミスの脳裏に巡る。
 ゴーレムはこちらに攻撃するというよりは地面へ殴りつけることの方が多い。

 何かを破壊しようとしているのか。
 ただ、とにかく止めなくてはならない。このままもし暴れれば。

 そう考えた時、横から飛んできた岩に気づかなかった。
 
「まずっ」

 そう口にしたとき、岩は見事に爆発。
 何とか助かった。

 さらに、動こうとしたゴーレムに向けて次々に放たれる弓矢の雨。
 それらは一気に爆発を起こし、煙が巻き上がる。

 そして、気づけば、その場にゴーレムの姿はいなくなっていた。

「ま、じか……」

 そこでテミスも変身を解除する。
 周囲にゴーレムの気配はない。一体何だったのか。そう思ったとき、不意に目の前に現れたのは折れた砲身であった。

「これを破壊していたのか……ん?」

 砲身の上に誰かが立っている。
 それは白いパーマのかかった髪の少女……は一瞬で消え去った。見間違いだろうか。

 そこで、何かが此方にかけてくる気配があり、テミスはフレイと人格を入れ替えた。
 
「お、戻った……勝ったの……か……?」

 彼がそうつぶやいたとき、抱き着かれてしまう。汚れているエデンであった。

「わわ、どうしたの?」

「死んだかと思いましたよー、生きていたんですね」

 エデンの後ろにはアスラの姿もあった。

「悪運の強いやつだ。まさか、生きて……」

 そこでアスラはセリフをとどめる。
 そして、なぜか、背中を向けると、「あ、わり、ちょっと用事思い出した」と言い、そのまま飛び去っていった。フレイはそんな彼の背中に手を振った。



 レイアは観客席からは飛び降りており、ステージの裏へ回っていた。
 その裏では、黒いローブを着た人物に連れられて行く、首輪をつけたものがいた。
 その首輪をつけているのは、茶髪の槍使いの男。
近づいて、名前を呼ぼうとする彼女であったが、結局なにもできなかった。
 死んだ目をした彼をただ見送っていた。今の彼女にそれをする権利はないと感じていた。

 そんな中で、背中から声をかけられる。
 そこにいたのはエデンであった。

「「あ、あのさ。ごめん」」

 彼女は頭を下げていた。それに対しレイアはあわただしくしている。
 そして彼女もまた、頭を下げており、声が揃った。

「話聞かずに」

「自分の立場ばかり主張して」

 二人は自分の反省点を話し、抱きしめあっていた。
 そんな二人を見て、フレイは微笑んだ。

(これにて一件落着)

(……とはいかない)

 フレイは家に入る前に足をとどめた。
 セリナがいる。
 自身の正体を知るセリナが。
 そんな不安を思ってか、テミスは本のページをめくりながら、今日の戦績を声高らかに言っていた。

「今日明らかになったのは、生物兵器開発の記憶を人間から取り除いた、だそうですー」

 やっぱり意味不明であり、フレイは今の思いを口にしていた。

「大丈夫かな……」

「と、とりあえず、自宅なんですから……」

「それもそっか」
 
 フレイは思い切って、玄関を開けると、階段から駆け下りてくる音が聞こえた。
 そして、セリナが現れ。

「フレイ、すごいもの発見したかもしれないの。センシャって言ってさ」

 キラキラした目をこちらに向けてくる。

「……」

 フレイは目を見開いた。
 そんな彼にセリナはあっ、言い忘れてた、と付け加え、呟く。

「おかえり」

 フレイもそれに笑って返した。

「ただいま」






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