僕は女神に溶けていく。~ダンジョンの最奥で追放された予言士、身長100メートルの巨大女神に変身する~

やまだしんじ

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第14話 人間軍の策略

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「奴隷だと思わないんですか!?」

 さっきの言葉がエデンの脳内をリフレインする。
 彼女から見たら私はそのように思えるのだろうか。いや、不思議ではない。
 レイアとエデンの関係はお嬢様と召使い。
 世間的にも現実的にも。この召使いも世間一般から見れば、レイアの立場は奴隷と呼ばれるもののことだ。

「優しさじゃない。私は、彼女に普通にしてほしいだけ」

 その普通を押し付けているのか、普通がずれているのか。
 奴隷に対して、自分がすることはあっているのか。

 世間一般でレアは奴隷という扱いが普通だということは知っている。
 ぞんざいに扱われ、その命さえも賭け事の道具とされるのも知っている。

「でも、彼女は奴隷じゃなくて、ただの人間だ」

 自問自答を繰り返してしまう。彼女にどう接すればいいのだろう。普通の人間とは何なのだろう。
 この日は結論を出すことができなかった。
 なんとなく気まずくなり、次の日、レイアには休暇を出した。

 ギルドに着くと、そこにはフレイとアスラが集まっていた。
 
「おはようー」

 フレイからのいつも通りゆるい挨拶に「おはよう、です」と力ない声が漏れた。アスラはエデンの口調で、何か考えるように顎に手を当て、宙を眺める。そして、続けて言った。

「今日は、レイア君はいないんだな」

 その言葉にフレイはぎょっとしたような顔をし、彼に耳打ちする。

「ちょ、言わないようにしたんですよ、僕」

「ダンジョンボスと戦う際に余計なものを抱えていると後に響くからな」
 エデンからきつい口調が飛んでくると思ったが、彼女は唇を紡いだまま、目を細める。弱弱しく見えた。だが、彼女はハッと気づいたようにいつも通りのキッとした表情を見せる。

「別に。休みが欲しそうだったから上(あ)げただけです」

「なるほど。人間とレアの民族が共に行動していることは違和感ではあったが、エデン君とレイア君はやはり主従関係と言うことだったんだな」

 その言葉に対し、エデンは何かを言いたげにしたが、背中を向ける。
 そこから彼女は呟いた。

「とりあえず、今日は変装して、街に調査する感じでお願いします」

 その背中はフレイから見ると妙に小さく見えた。



 セリナが呼び出しを受けたのは、ドーム状の施設、コロシアムの最上階に併設されたレストランであった。その店の前。中を覗くことも失礼な気がして目を向けることができない。ただ、先ほどから吸い込まれるように入っていく人間は誰もかれもきらびやかなドレスを着ていた。人間の中でも一部の富豪のみが入ることを許されている施設。敷居が高いと言われるのなんの。このようなところに呼び出されるとは思ってもいなかった。

「え、身だしなみ大丈夫かな……」

 彼女が着ているのはごく普通の民族衣装。連絡を受けて慌てて洗濯していた。特に匂うことはない……と思いたい。手紙を見ると、宛先には人間軍中将の字が記してある。この街の中で治安を統括する部隊のナンバースリー。それを聞いて、のどをごくりと鳴らす。

 緊張した面持ちの中、彼女は背中から声をかけられる。

「君が、セリナさんかな?」

 そこにいたのは背の高い黒髪の男性であった。年齢的には三十代に見えるが、この年齢で中将……?

「はい、そうですが。えと、あなたがソノさんですか?」

「えぇ。私は人間軍中将のソノと申します。よろしくお願いいたします。では、このレストランに」

 彼に連れられて入っていくと、そこは正にその光景からコロシアムを一望できるようになっている。その窓際から望遠鏡を使って眺めている人々も何人かいた。

 しかし、案内された部屋は窓際の席ではなく、ソノは店員に何か声をかけていた。すると、そのままその店員に従い、奥へと通される。

 奥に行くとそこからは階段が出てきた。階段の先にはいくつかの扉が出てきたが、それをソノがカギを開けて、案内していく。
 階段を降りていくと、だんだん何か物音が響き渡ってきた。
 人の話し声も聞こえる。

 そして、ソノは戸惑っているセリナに話しかけた。

「セリナさんには見てもらいたいものがあってね」

 彼に従い、進んでいくとその先にあったものは。
 何人かの作業員。そして、彼らの前に。
 巨大な鉄の塊。何か車輪が並んでいる。その頭(?)の方についているのは砲台のようにも見える。砲台に関しては人間軍が管理しているものとなっているが、この鉄の塊は今にもこれだけで動きだしそうな。

「すごいだろう」

「これは……?」

「このコロシアムの地下で発掘されているものでね。それ以外にも多くのこういったオーパーツが見つかっている」

「オーパーツ……?」

 その単語をセリナは聞いたことがなかった。そもそも、こんな場所を軍が管理しているなんて聞いたことがない。こんな技術を自分が見てしまっていいのだろうか。あたふたし始めた彼女に気づいているのか気づいていないのかソノは言葉を続ける。

「これらは今から一万年前の技術のことだよ」

「え、あの。え? 一万年前?」

 1万年前と言った場合、あの古代文字のあった時期と同時期である。確かに軍の技術はあまりにも飛躍的に向上しているとは思っていたが。そのような理由であれば納得できないこともない。ただ、これまで自分たちが見ていたのは古代文字のある道具ばかりで、大したものはなかったように思えた。

「君のお父さんが古代文字について研究していただろう? ちょうどあの時期さ」

「そ、そんなことが……?」

「そう。あの鉄の塊は古代文明ではセンシャと呼ばれているらしい」

 こんなものがすでにつくられていたというのか。そして、そのような技術があって。あのダンジョンボスと戦って。それでもなおティタンの力を借りなければならなかった。今の人間の手であのダンジョンボスに勝てるのか?
 
 いや、疑うな、そんなこと。セリナは自分に言い聞かせる。だが、そこで彼女はある疑問が生まれてきた。

「えと、ではなんですけど。なんで私がここに呼び出されたのですか?」

 そこで彼はあるものを提示してきた。
 それは白い液体の入った瓶であり。

「これ。作ったの君だよね」

「……はい」

 確かにその瓶の中身……ヒュドラの毒を液状化させたものを作成したのはセリナであった。現地に繰り出し、サンプルを獲得。その後、実験を繰り返し、液状化。非常に安価であり、怪しまれるかと思ったが、すぐに売れ、暴れだした巨人に対してダメージを与えることに成功したと使用者から連絡もあったが。

「これを購入したのは私の娘でね」

 あの時、売れたのは一本しかない。成績を残してから売れ、今は品切れであるが、そのうちレシピも公表するつもりであった。
 最初、購入したのはエデンという人間の少女であったが、ソノは彼女の父親であったということか。
 理解し始めた彼女にソノは微笑みながら真意を告げる。

「それでね。この技術を私だけに公表してくれないかな、という相談さ」





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