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第11話 オケアノス降臨

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「この子たちは……」

 子どもたちに抱き着かれ戸惑っていたアスラであったが、その子どもたちの騒ぎを聞きつけてか、奥にあった平屋から腰の曲がった老人が出てきた。

「お、お帰りんさい。いやー待ちわびたよアスラ君」

「ちょ、ちょっと、通してくれないかな?」

 この老人がこの状況についてはよく知っていそうだとオケアノスは確信する。一応、この施設の記憶もこの肉体の頭の中にはあるらしい。
 ここはレアの民族の孤児院らしい。
 そんな子どもたちはオケアノスの言葉に動かず、抱き着いてきたままである。

「えと、ただいま、ヤマブキさん」

「みんな待っていたよ。君の帰りを」

 その答えにオケアノスはうつむいた。
 彼はこの孤児院の子どもたちからも、ここの院長であるヤマブキという男からも信頼されていたのだと確信する。そんな人の命を奪ってしまった。

 そのことで頬が熱くなるも、しょうがないか、と一言呟く。

「どうしたの?」

「あ、いえ、何でもないです」

「さ、とりあえず、子どもたちと遊んでほしいな」

「あ、はい」

 このアスラという男はダンジョンに行く以外にもこのようなことを繰り返していたというのか。こんなに好かれて。彼は流されるままに子どもたちと駆けて行った。その姿を見て院長と呼ばれた男は微笑む。

 彼がそのまま平屋へと帰っていった時であった。
 メキメキと都市部にて何かが破壊される音、大きな地響きと共に現れたのはオレンジ色の髪を持っている巨人の姿であった。

 巨人が歩くたびに音と悲鳴が響き渡る。
 その姿にオケアノスは見覚えがあった。彼は叫ぶ。

「早く逃げて!みんなは平屋の中に!」

「お兄ちゃんは?」

 子どもたちの声に彼は答える。

「俺はやることがあるから」

 そのまま、彼は孤児院を抜けると、人間街の方へと向かっていった。



「さ、来たよ。新作試してみるかぁ」

「そうですね」

 エデンが受付で受け取った武器をレイアに渡す。

「まだ、フレイの契約が済んでいない以上、来れないから、アスラだが。彼はどこで何をしているんだ?」

「とりあえず、行きましょう」

 レイアが受け取ったのは白い鎧、そして再び盾であるが、その盾は前回よりもさらに大きいもの、さらに攻撃できるようになのか、とげのようなものが中央から現れていた。

 エデンが受け取ったのは再び弓であるが、その弓とは別にもらっていたのは何か白い液体であった。

「これでイケるかな」

 そうつぶやいたエデンとは裏腹にレイアは不安そうに言った。

「あれ、女神様と同じではありませんか?」

 彼女が指をさしたのは、テミスと同じような左腕についている腕輪である。そこにエデンは違和感もあったが、すぐに現れた巨人は足を踏み鳴らし、次々に街を踏みつぶしていく。どこからともなく悲鳴まで聞こえてきた。悩む時間はないと、二人を頷かせた。

「行くよ!」

「わかりました」

 二人は再び外へ駆け抜けていく。この前までぬるりとしていた鎧であったが、ヒュドラの毒を受けていたことからも別の鎧へと変えた。重くなってしまったものの人間軍の攻撃を防いで見せたキメラの鎧。

 エデンは弓を構える。
 巨人は背中側にいるこちらの存在に気づいていない。

 一発放つ。

 放った矢は巨人の背中に突き刺さると大きな爆発を起こした。
 血肉が飛び散っていく。

「よしっ。いいじゃん! ヒュドラの毒矢」

 レアの民族街にいる職人が作ってくれたヒュドラの毒矢。その効果は十分のようだった。再び彼女は構えると弓矢を放っていく。

 が。

 放った弓矢は空中で止まってしまう。と思いきや、あらぬ方向へと落ちてしまった。
 
「な……」

 そこで隣で盾を構えていたレイアがあることに気づいた。

「あの、エデンさん」

「なに?」

「寒く……ないですか?」

 その言葉を聞いて周囲を見渡す。一瞬で体は冷え、さらに空からは雪がちらついている。さらに、猛烈な風が吹き始め、吹雪と化していった。

「な、何が起きているの? 今夏でしょ!?」

「季節変更の能力ですか……?」

 キメラの武具をつけているため、温度については問題ないが、このままでは都市機能が停止する。吹雪はさらに猛烈になり、現在の温度は零下に突入しているだろう。それでもなお、エデンは先ほどよりも近距離へと移動し、弓を構えて放つ。

 この弓は見事肩に命中し、触れた直後爆発音を立てる。
 巨人は「ぐががが!」と声をあげるも、半狂乱になり、次々に地面を殴りつけていった。

「きさまあああああああああああああああ!」

 巨人はさらにそう叫んだようにも聞こえ、すると、巨人が腕を空に掲げた瞬間、鋭い光が地上に打ち下ろす。

「か、雷!?」

 雷はエデンの横をすぐに通過。
 
「な、なんですか、これ……?」

 驚異の能力である。この目の前の巨人は天候を操作することが可能となっていた。
 禁止級ダンジョンボスにこの目の前の巨人は名前を連ねていない。だが。

 人間から派遣された軍の攻撃はまるで効果を成していない。次々に打ち込まれるも巨人にとって多少痛みはあるようだが、振り下ろした雷や猛吹雪で一掃してしまう。

「くっそ……」

「もう、戦うのを辞めませんか? このままじゃ、私たちも死にますよ。大丈夫です。多分女神さまが倒してくれますよ」

 ぽつりとレイアが呟く。それに対し、エデンは怒りを爆発させた。

「そんなこと言わないで! 女神さまが来るのは私たちがしっかり戦ってから。女神さまは人間じゃない。人間の私たちが人間のために立ち向かわないでどうするの?」

 レイアは目を見開いてエデンの話にくぎ付けになった。
 そして彼女は「ごめん」と呟くと、エデンは微笑み、二人はもう一度動き出していった。

 巨人は悲鳴を上げる人々を踏みつぶし、世界を銀世界に染め上げていく。
 そんな時、突如、巨人の下に声が届く。それはテレパシーのようなものであった。

「ヒュペリオン、何をしているんですか?」

 それはオケアノスからである。

「こちらにも立場があるんだよ。人間には恨みしかねぇんだ。分かるだろ?」

「そう、ですか」

「オケアノス。俺と手を組め。今から人間どもを蹴散らそう」

「……」

(何をしている。テミス。このような事態に)

 人間たちがいう禁止級怪物が出現する際にテミスは毎度出現していたはずだ。何か大変な事態にとらわれているのか。

「楽しいぞ。散々な目にあってきたんだ。すっきりする。一体なんでクロノスはこんな人間どもの殲滅よりも先にテミスとピクミーとかいうよくわからん奴らの駆除を優先したのか」

「仕方ない」

「おっやる気になったか」

 アスラは駆けながら左腕を掲げる。
 瞬間、巨人がもう一体出現する。そこにいたのは黒く長い髪、白い民族衣装のローブ。
 ととのった顔つきの男の巨人。

「久しいなオケアノス。その姿は」

 ヒュペリオンはそうつぶやきながら彼に寄っていく。
 そのまま言葉を続けた。

「ようやくやる気になってくれてうれしいよ」

「あぁ」

 オケアノスはそれに一言そうつぶやくと、ヒュペリオンの顔面を殴りつけた。オレンジ色の髪が風にふわりと揺れ、体が崩れ落ちていく。痛みに悶える彼を見下し、オケアノスはつぶやいた。
 
「殺る気になったわ」




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