虐げられ続け、名前さえ無い少女は王太子に拾われる

第３６、最終話、サヤカ聖女と王太子トムウッドの結婚式

　凱旋パレードの後の夜には、王宮の大広間に大勢の関係者や招待客が集まり、祝勝会が行われました。

　皆さん男性も特に女性は華やかに着飾り、私も少し華やかなドレスに着替えて,トムにエスコートされて会場に行くと、沢山の拍手で迎えて頂きました。

　上機嫌な陛下が挨拶で。

「皆の者、今夜は無礼講だ、思いっきり楽しんでくれ」

　そのせいか王妃様に言われて、最初に私とトムが踊る事になったのです。

　楽団の演奏が始まり、私とトムが会場の真ん中で踊り始めると周りからため息が漏れて。

「お２人は物語の主人公みたいですわね」

「サヤカ聖女様は可憐でお綺麗であんな女性を奥さんに出来る王太子が羨ましいな」

　他にも色々言われながらも私はトムのリードで楽しく踊る事が出来て思わず。

「トム、私はトムと出会えて最高に幸せよ、トムが大好きよ」

「僕もだよ、サヤカが大好きで、愛しているよ」

　私たちは、愛を囁きながら、此の幸せが永遠に続く事を願い踊ったのでした。

　祝勝会も無事に終わり、次の日には久しぶりに我が家の屋敷に戻ったのです。

　戻ると弟のガリュウが拗ねて。

「僕の事なんか忘れていたんだろう、フン」

　まだ私より背の低い弟を抱きしめながら。

「私の可愛い大好きなガリュウを忘れるはずが無いわよ」

　弟は顔を真っ赤にして。

「僕もお姉様が大好きだよ」

　そう言うと私の手を振りほどいて逃げて行ったのです。

　その様子を見ていた両親は呆れた顔をしていましたが、私は胸がホッコリと温かくなりました。

　それから5日は休養しましたが、其の後は王宮の私の部屋に移転して行き、将来の王妃としての勉強やトムの政務のお手伝いをしては、移転して我が家に帰る毎日が続いたのです。

　そんなある日に、王宮に来ていた両親と陛下夫妻からトムと私が呼ばれたのです。

　何時もの王都が見渡せる応接間に行くと、陛下が。

「２人の結婚式だが、サヤカ聖女が18歳になる来年の10月10日のアリーナ女神の誕生祭にするのはどうかな？」

　王妃様とお母様は賛成したのですがお父様が。

「早すぎる、サヤカが20歳になってからだ」

　お母様が冷ややかな目でお父様を見て。

「貴方と私が結婚したのは、私が成人を終えたばかりの16歳でしたよね、私の父親が18歳まで駄目だと言ったのを貴方が強引に押し切って結婚したのを忘れたのですか？」

　お父様は、目を泳がせて天井を見上げながら。

「ン？・・・・そ、そうだったかな」

「そうだったかな、じゃないでしょう？駄々を捏ねるのもいい加減にしないと怒りますわよ」

「わ、分かった！　それで良いよ」

　お父様は、皆の冷ややかな目に曝されてながらも。

「陛下も反対の立場だったら私と同じ事を言うでしょう？」

　思いがけない事を言われた陛下は素知らぬ様子で。

「それよりも、旧帝国の様子はどうだろうか」

　意味不明な事を言って、王妃様とお母様に

「本当に男どもは」

　と呆れかえられたのでした。

　こうして、トムと私の結婚式が決まったのです。

　日にちが過ぎるのは早いもので、今日はトムと私の結婚式です。

　今回も私はサヨと侍女たちの手で、悲鳴を上げるほど爪の先から髪の毛まで磨かれました。

　サヨは夫を以前の帝国との戦争で亡くしているのですがまだ若くて綺麗なので私は思わず

「サヨは再婚する気は無いの？」

　と聞いてしまったのですがサヨは

「私の夫は戦死した夫だけです、他の男性と再婚する気はありません、私は死ぬまでサヤカ聖女様に仕える気です」

　私は悪い事を聞いてしまい後悔したのです。

　そんなサヨは私の結婚式に夢中で、私を綺麗な花嫁にしてくれたのです。

　王都の教会でお父様に手を引かれてバージンロードを歩いてトムの待つ祭壇に行き、お父様からトムに渡されて赤いコスモスで飾られた祭壇の前に二人は並び、猊下の言葉で二人の結婚式は始まったのです。

「汝ら二人は、この世の終わりが来ようとも別れることなく、お互い愛し合い、助け合い共に生きる事を誓いますか」

　私とトムは目を見つめ合い、同時に

「誓います」

「では誓いの指輪の交換とキスを交わしなさい」

　２人は指輪の交換とキスを交わしたのです。

　猊下が声を高らかに。

「此処にサヤカ聖女とトムウッド王太子の結婚をアリーナ女神の名のもと、認めて夫婦とする」

　こうして私たちは結婚して末永く幸せに暮らしたのです。


【此れで完結です】


最後まで読んで頂きありがとうございました。
番外編は折を見て投稿する予定です。