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第5話、塩と商人

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 漁村に行き村長に合うと60代の村長は俺の手を取り深々と頭を下げて。

「わしは村長のギオルと言います。災害の時は誠にありがとうございました。アラン様のお陰様で何とか生きています」

 そうか漁村の住民の家は全て濁流に流されて住民の被害も一番ひどく、半分の住民は俺の父親と同じ濁流に流されて亡くなり、俺が家を無償で建てて母上から貰ったお金を渡し1年くらいは生活出来るようにしたのだ。

 その後どうなったのか聞き。

「災害の後、村民はどうなった。漁業は再開したのか? 」

「漁業は再開したのですが、魚を買う人が少なく村民たちと漁業はやめて農村で働く事にするか相談しているところです」

 この世界では海の魚を食べる習慣がなく食べるのは何処にでもいる淡水魚が主だ。

 海水魚は保存が出来ないから貴重な動物のタンパク質なのに漁村に近い人たちだけしか食べないので漁民は貧しい生活を強いられている状態なのだ。

「漁村の住民は全部で何人いる? 」

「全員で50人しかいません」

「全員の生活の面倒をみるから俺の仕事を手伝ってくれないか」

「本当ですか。ありがとうございます。アラン様の為なら死に物狂いで働きます」

「そうか。今から住民を集めてくれ」

 全住民と言っても男女、子供、老人も合わせて50人だが全員が集まると。

「俺は海水から塩を作る方法を知っている。君たちにその方法を教えるので塩つくりに協力してくれ」

 俺の言葉に皆は。

「海の水から塩を作れるのか? 」

 やはり信じられないみたいだが俺は構わず。

「信じられないのは最もだが俺の言う通りにしてくれ」

(これからは入浜式塩田での塩の作り方を参考にして書きました)

 それから入浜式塩田で塩を作る事にして塩田の高さを海の干満差の中間位にして、その周りに浜溝(はまみぞ)をめぐらすことで、満潮時に海水を塩田に入れ、干潮時には雨水などを排水する自然を利用した構造を作らせた。

 満潮のとき、浜溝の床面まで海水を入れておくと地場にまかれた砂の水分が太陽熱と風力により蒸発すると、「毛細管現象」が起こり、浜溝から浸透した海水が床面に上昇し、海水の塩分が次々に砂に付着する。

 次に塩分の付着した砂を「沼井」という場所に集めて海水を注ぐと、砂に付いた塩分が溶けて塩分濃度の高い「かん水」となり、「藻垂壷(もだれつぼ)」に溜まり。こうして「かん水」を集める作業を「採かん」という。

「かん水」は「煎ごう」されるまで、「助壷(すけつぼ)」や「大壷(だいつぼ)」などに貯蔵しておく。

 最後に集められた「かん水」(濃度の高い塩水)をろ過し、釜で焚き上げることで水分が除かれ、結晶となり塩が作られる。

 この仕組みを作るのに3カ月かかり実際に塩が出来たのは半年後で、出来た塩を舐めた村長のギオルが。
 
「塩だー! 本物の塩だー! 」

 感激して嬉し涙を流しながら叫んでいる。

 全員の住民が初めて作り上げた塩を舐めて

「塩だー! 」

 と叫び男も女や子供も抱き合って喜んでいた姿は俺の脳裏に焼き付いた。

 漁村で塩を作っている事は秘密にして製造法を知られないようにするために漁民には製造過程の役割を教えなかったのは当然だ。

 こうしてこの世界で初めての海水から塩を作る事に成功した俺は、領民にできた塩を最初は無料で配り次からは今、使っている岩塩の10分の1の値段で発売した。

 これでクラーク子爵領の領民の食生活はお米に続いて塩を使えて変わるだろう。



 塩を発売して1カ月後にナル王都からある人物が屋敷に訪ねて来た。

 護衛のベンが。

「ナル王都からアラン様にわざわざ会いに来たと言っていますがどうも怪しい。追い返しますか?」

 ナル王都から俺にわざわざ会いに来たと言うのが気になり会ってみる事にして。

「ベン、失礼のないように応接間に案内しなさい。暗殺者の時は即座に対応する準備をしておけ」

 ベンに案内されて応接間に入って来たのは驚くことに30代の綺麗な女性で俺を見ると。

「初めてお目にかかります。私はナル王都で商いをしているアリス商会の会長のアリスと申します」

 いやー、驚いたぜ。アリス商会と言えば前世の〇菱グループくらい有名でこの国で知らない人がいないくらいなのだ。

しかも美人の女の代表の会長とは、俺も挨拶を返して。

「俺はクラーク子爵領の領主のアラン・クラークです。宜しく。遠いナル王都からわざわざお越しご苦労様です。どんな御用件でしょうか」

 もっていたカバンから塩を取り出し。

「この塩はアラン様が海の水から作ったと言うのは本当でしょうか? 」

「はい、そうですが。それがどうかしましたか」

 アリスさんが呆れた様子で。

「どうしたかじゃないでしょう。これは歴史的な出来事なのがわからないの。岩塩の10分の1の値段にも驚くわ」

 俺はこの時これはお金になると思い塩を作る方法を当分の間、秘密にすることにすると案の定アリスさんは。

「海の水から塩を作る方法を教えて頂けないかしら。代金は白金貨100枚、10億ルピーでいかがでしょうか」

 冗談じゃない! 白金貨1000枚でも教えるはずがない。この塩をこの国だけではなく大陸に普及したなら白金貨100枚などは、はした金なのに断るのは当然なので俺はきついことを言い。

「お断りします。金貨1000枚でもお断りいたします。アリスさんも商人ならこの塩の価値が分かるはずです。違いますか。分からないのなら商人を止めた方が良いのではないですか。それとも俺を騙そうとしているのでしたらお帰りください」

「アッハッハッハー! 参ったわ! とても16歳とは思えないわ。試したりしてごめんなさい。私は色んな人と会って取引をしたけれどアラン様みたいに頭の回転の良い人は初めてよ」

 流石に王国一の商人で一筋縄ではいかないみたいな感じなので。

「時間が勿体ないので本音で話しませんか」

「分かりました。塩の作り方は諦めます。アラン様の作った塩をクラーク子爵領以外で販売する権利を認めて作った塩を私の商会に売っていただけますか」

 俺は忙しく塩の販売など出来そうもないので願ってもない話なので。

「良いでしょう。正式な契約書を結びましょう」

 アリスさんは正式な契約書と聞いて。

「アラン様は何者なの。私より物知りでとても15歳の領主とは思えないわ。此れからは塩以外の取引も出来そうね。末永くお付き合いをお願い致します」

「末永くとは結婚の初夜みたいな言葉だな」

「アラ! 本当ね。私独身なので結婚しましょうか」

「冗談を言うな。俺は当分結婚する気はない」

 アリス商会とはその後、長い付き合いになり商人の力の凄さに驚く事になったのである。
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