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2話 報告
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「あ、兄上……? どうしてここに?」
信じられない……トランスお兄様が貴族街のこんな端にいらっしゃるなんて。この方は私の腹違いの兄でいらっしゃるトランス・レイモンド王子殿下。
金色の瞳と炎を思わせる赤い髪の毛が特徴の方でとても優しい。国王陛下の側室が私の母上になるので腹違いの兄妹ということになるのだけれど、この事実はあまり知られていない。と言っても、もう母上はいないけど……。
「いやなに……アリシアの姿が見えたものでな。それよりどうしたんだ? 涙を流していたように思えたが?」
「……あ、それは……」
とても恥ずかしいところを兄上に見られてしまった……! それだけで大穴に入りたくなるほどの羞恥心が私を襲っている。でも兄上はそんなこと気にも留めずに私の頭に手を差し伸べていた。
「アリシア……なにか悲しいことがあったのか? お前の兄としてそれは非常に辛いことだ。よければ話してみないか? 少しは気が紛れるかもしれないぞ?」
「あ、兄上……!」
トランス王子は次期国王候補でもあるので忙しい身のはず。そのお方に相談するなんて恐れ多いのだけれど……兄上の優しさが十分に感じられ、私は感情を抑えることができなくなってしまった。
「実は……ランドール侯爵令息に婚約破棄を言い渡されてしまいまして……」
「……なんだと?」
私はランドールの行った所業を全てトランス王子殿下に伝えた。告げ口をしたつもりではないけれど……悲しみが抑えきれなくなっただけ。ランドールに恨み言は山ほど出て来たけれど、本気で愛した人だったのだから……。
私が告げた言葉を聞いた兄上は……恐ろしい形相になっていた。
「それは真実なのか、アリシア?」
「は、はい……兄上。ランドールは私よりもイリスが好きだと言って、一方的に婚約破棄を言って参りました……」
話している最中でも悲しみは込み上げてくる。ランドールを信じていただけに猶更だ。まさかこんな報告を兄上にする羽目になるなんて思いもしなかった。
「……そうか」
兄上は静かにそう言った。とても怒った表情を見せながら。
「ランドール侯爵令息……カスタム王国の名家ではあるが、少々調子に乗っているようだな……」
「兄上……?」
「なにも心配するなアリシア。兄として当然のことをするまでだ。腹違いといえど、お前は大切な兄妹……このままでは終わらせないさ。元老院も説得してみせる」
兄上からのとても説得力に満ちた言葉。この時の私は兄上が何をしようとしているのか理解できなかったけれど、私の為に大きな事をしようとしてくれているのは理解することができた。
信じられない……トランスお兄様が貴族街のこんな端にいらっしゃるなんて。この方は私の腹違いの兄でいらっしゃるトランス・レイモンド王子殿下。
金色の瞳と炎を思わせる赤い髪の毛が特徴の方でとても優しい。国王陛下の側室が私の母上になるので腹違いの兄妹ということになるのだけれど、この事実はあまり知られていない。と言っても、もう母上はいないけど……。
「いやなに……アリシアの姿が見えたものでな。それよりどうしたんだ? 涙を流していたように思えたが?」
「……あ、それは……」
とても恥ずかしいところを兄上に見られてしまった……! それだけで大穴に入りたくなるほどの羞恥心が私を襲っている。でも兄上はそんなこと気にも留めずに私の頭に手を差し伸べていた。
「アリシア……なにか悲しいことがあったのか? お前の兄としてそれは非常に辛いことだ。よければ話してみないか? 少しは気が紛れるかもしれないぞ?」
「あ、兄上……!」
トランス王子は次期国王候補でもあるので忙しい身のはず。そのお方に相談するなんて恐れ多いのだけれど……兄上の優しさが十分に感じられ、私は感情を抑えることができなくなってしまった。
「実は……ランドール侯爵令息に婚約破棄を言い渡されてしまいまして……」
「……なんだと?」
私はランドールの行った所業を全てトランス王子殿下に伝えた。告げ口をしたつもりではないけれど……悲しみが抑えきれなくなっただけ。ランドールに恨み言は山ほど出て来たけれど、本気で愛した人だったのだから……。
私が告げた言葉を聞いた兄上は……恐ろしい形相になっていた。
「それは真実なのか、アリシア?」
「は、はい……兄上。ランドールは私よりもイリスが好きだと言って、一方的に婚約破棄を言って参りました……」
話している最中でも悲しみは込み上げてくる。ランドールを信じていただけに猶更だ。まさかこんな報告を兄上にする羽目になるなんて思いもしなかった。
「……そうか」
兄上は静かにそう言った。とても怒った表情を見せながら。
「ランドール侯爵令息……カスタム王国の名家ではあるが、少々調子に乗っているようだな……」
「兄上……?」
「なにも心配するなアリシア。兄として当然のことをするまでだ。腹違いといえど、お前は大切な兄妹……このままでは終わらせないさ。元老院も説得してみせる」
兄上からのとても説得力に満ちた言葉。この時の私は兄上が何をしようとしているのか理解できなかったけれど、私の為に大きな事をしようとしてくれているのは理解することができた。
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