上 下
3 / 23

2話 報告

しおりを挟む
「あ、兄上……? どうしてここに?」


 信じられない……トランスお兄様が貴族街のこんな端にいらっしゃるなんて。この方は私の腹違いの兄でいらっしゃるトランス・レイモンド王子殿下。

 金色の瞳と炎を思わせる赤い髪の毛が特徴の方でとても優しい。国王陛下の側室が私の母上になるので腹違いの兄妹ということになるのだけれど、この事実はあまり知られていない。と言っても、もう母上はいないけど……。

「いやなに……アリシアの姿が見えたものでな。それよりどうしたんだ? 涙を流していたように思えたが?」

「……あ、それは……」


 とても恥ずかしいところを兄上に見られてしまった……! それだけで大穴に入りたくなるほどの羞恥心が私を襲っている。でも兄上はそんなこと気にも留めずに私の頭に手を差し伸べていた。

「アリシア……なにか悲しいことがあったのか? お前の兄としてそれは非常に辛いことだ。よければ話してみないか? 少しは気が紛れるかもしれないぞ?」

「あ、兄上……!」


 トランス王子は次期国王候補でもあるので忙しい身のはず。そのお方に相談するなんて恐れ多いのだけれど……兄上の優しさが十分に感じられ、私は感情を抑えることができなくなってしまった。


「実は……ランドール侯爵令息に婚約破棄を言い渡されてしまいまして……」

「……なんだと?」


 私はランドールの行った所業を全てトランス王子殿下に伝えた。告げ口をしたつもりではないけれど……悲しみが抑えきれなくなっただけ。ランドールに恨み言は山ほど出て来たけれど、本気で愛した人だったのだから……。

 私が告げた言葉を聞いた兄上は……恐ろしい形相になっていた。


「それは真実なのか、アリシア?」

「は、はい……兄上。ランドールは私よりもイリスが好きだと言って、一方的に婚約破棄を言って参りました……」


 話している最中でも悲しみは込み上げてくる。ランドールを信じていただけに猶更だ。まさかこんな報告を兄上にする羽目になるなんて思いもしなかった。


「……そうか」


 兄上は静かにそう言った。とても怒った表情を見せながら。


「ランドール侯爵令息……カスタム王国の名家ではあるが、少々調子に乗っているようだな……」

「兄上……?」

「なにも心配するなアリシア。兄として当然のことをするまでだ。腹違いといえど、お前は大切な兄妹……このままでは終わらせないさ。元老院も説得してみせる」


 兄上からのとても説得力に満ちた言葉。この時の私は兄上が何をしようとしているのか理解できなかったけれど、私の為に大きな事をしようとしてくれているのは理解することができた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

四季
恋愛
前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

初めまして婚約者様

まる
恋愛
「まあ!貴方が私の婚約者でしたのね!」 緊迫する場での明るいのんびりとした声。 その言葉を聞いてある一点に非難の視線が集中する。 ○○○○○○○○○○ ※物語の背景はふんわりしています。スルッと読んでいただければ幸いです。 目を止めて読んで下さった方、お気に入り、しおりの登録ありがとう御座いました!少しでも楽しんで読んでいただけたなら幸いです(^人^)

処理中です...