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4話
しおりを挟む「ちぇ、チェスター王子殿下……!? どうしてここに……?」
「王子殿下だ……! 嘘だろう……?」
学園内の特別区画にて授業を受けることになっている王家とそのゆかりの人々。チェスター王子は王位継承権第4位に該当しているので、完全に特別区画が割り当てられている。一般的な貴族の区画に来るなんて考えられないことだった。
「まあ、私がここに来たのはどうでも良いだろう。それより……なぜ、机が廊下に出ているんだ?」
「あ、いや……! これは……!」
「これは……なんだ?」
アルドの近くにいた生徒が急に狼狽え始めた。おそらく彼が私の机を放りだした本人ね。まったくなんてことをしてくれたのかしら。チェスター王子殿下に言えなくなることならしなければいいのに。
「いや、俺達もおかしなことだとは思ったんですよ。この机はエスメラルダという生徒の物なんですが……な、直しておきますね」
「直すだけでおわると考えているのか? 先ほどのやり取り……私が聞いていないとでも思っていたか?」
「あ、それは……!」
あれだけ叫んでいたのだから、王子殿下に聞こえていたとしても不思議ではなかった。むしろ、聞こえていないとすることの方が無理がある気がするけれどね。アルドはとても狼狽えている。彼の言葉に比べたら、机を廊下に出した生徒なんてどうでもいいわ。
「アルド……私はエスメラルダと会話がしたいんだが? 通して貰えるか?」
「エスメラルダとですか……!?」
「その通りだが、なにかおかしいかね?」
「い、いえ……そんなことはありません! どうぞお通り下さい!」
「ありがとう。それと、私も同じ生徒なんだからもっと普通に話してくれて構わないぞ」
とてもこの状況で王子殿下に対して普通に話せる者はいないと思う。とくに彼らは後ろめたいことがあったのだから……。
「エスメラルダ……私のことは覚えているかな?」
「は、はい……チェスター王子殿下。覚えております」
「そうか、良かったよ」
王子殿下の名前や顔を忘れるなんてあり得ないけれど、彼の顔は一際覚えていた。何度かお会いしているからだ。向こうもちゃんと思えてくれていたのね。
「なにやら君の尊厳が踏みにじられているようだが……そちらの令嬢もか」
「あ、シャリーと言います! 王子殿下!」
「シャリーか……確か男爵令嬢だったな。少し話したいが場所が悪そうだ……向こうの食堂へ行こうとしようか」
「はい、わかりました! その前に机を元に戻して……」
と、そんな考えは杞憂だった。アルド達が一斉に私の机を教室内に運んでいたのだから。まあ、そのくらいでは先ほどの罪は消えないけどね。とりあえずは忘れてあげるわ。
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