4 / 10
4話
しおりを挟む「ちぇ、チェスター王子殿下……!? どうしてここに……?」
「王子殿下だ……! 嘘だろう……?」
学園内の特別区画にて授業を受けることになっている王家とそのゆかりの人々。チェスター王子は王位継承権第4位に該当しているので、完全に特別区画が割り当てられている。一般的な貴族の区画に来るなんて考えられないことだった。
「まあ、私がここに来たのはどうでも良いだろう。それより……なぜ、机が廊下に出ているんだ?」
「あ、いや……! これは……!」
「これは……なんだ?」
アルドの近くにいた生徒が急に狼狽え始めた。おそらく彼が私の机を放りだした本人ね。まったくなんてことをしてくれたのかしら。チェスター王子殿下に言えなくなることならしなければいいのに。
「いや、俺達もおかしなことだとは思ったんですよ。この机はエスメラルダという生徒の物なんですが……な、直しておきますね」
「直すだけでおわると考えているのか? 先ほどのやり取り……私が聞いていないとでも思っていたか?」
「あ、それは……!」
あれだけ叫んでいたのだから、王子殿下に聞こえていたとしても不思議ではなかった。むしろ、聞こえていないとすることの方が無理がある気がするけれどね。アルドはとても狼狽えている。彼の言葉に比べたら、机を廊下に出した生徒なんてどうでもいいわ。
「アルド……私はエスメラルダと会話がしたいんだが? 通して貰えるか?」
「エスメラルダとですか……!?」
「その通りだが、なにかおかしいかね?」
「い、いえ……そんなことはありません! どうぞお通り下さい!」
「ありがとう。それと、私も同じ生徒なんだからもっと普通に話してくれて構わないぞ」
とてもこの状況で王子殿下に対して普通に話せる者はいないと思う。とくに彼らは後ろめたいことがあったのだから……。
「エスメラルダ……私のことは覚えているかな?」
「は、はい……チェスター王子殿下。覚えております」
「そうか、良かったよ」
王子殿下の名前や顔を忘れるなんてあり得ないけれど、彼の顔は一際覚えていた。何度かお会いしているからだ。向こうもちゃんと思えてくれていたのね。
「なにやら君の尊厳が踏みにじられているようだが……そちらの令嬢もか」
「あ、シャリーと言います! 王子殿下!」
「シャリーか……確か男爵令嬢だったな。少し話したいが場所が悪そうだ……向こうの食堂へ行こうとしようか」
「はい、わかりました! その前に机を元に戻して……」
と、そんな考えは杞憂だった。アルド達が一斉に私の机を教室内に運んでいたのだから。まあ、そのくらいでは先ほどの罪は消えないけどね。とりあえずは忘れてあげるわ。
90
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説

元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています
マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」
「そ、そんな……!」
伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。
リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。
その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。
守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。
だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。
それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

魅了魔法が効かない私は処刑されて、時間が戻ったようです
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私リーゼは、ダーロス王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約破棄の際に一切知らない様々な悪行が発覚して、私は処刑されることとなっていた。
その後、檻に閉じ込められていた私の前に、侯爵令嬢のベネサが現れて真相を話す。
ベネサは魅了魔法を使えるようになり、魅了魔法が効かない私を脅威だと思ったようだ。
貴族達を操り私を処刑まで追い詰めたようで、処刑の時がやってくる。
私は処刑されてしまったけど――時間が、1年前に戻っていた。
王太子に婚約破棄言い渡された公爵令嬢は、その場で処刑されそうです。
克全
恋愛
8話1万0357文字で完結済みです。
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に投稿しています。
コーンウォリス公爵家に令嬢ルイ―ザは、王国の実権を握ろうとするロビンソン辺境伯家当主フランシスに操られる、王太子ルークのよって絶体絶命の危機に陥っていました。宰相を務める父上はもちろん、有能で忠誠心の豊かな有力貴族達が全員紛争国との調停に送られていました。万座の席で露骨な言い掛かりで付けられ、婚約を破棄されたばかりか人質にまでされそうになったルイ―ザ嬢は、命懸けで名誉を守る決意をしたのです。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった
有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。
何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。
諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる