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36話 リグリットの叫び その2

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「リグリット、いまさら何を言っているのだ……?」

「五月蠅い! 私は……私は公爵になりたいんだ! なぜ、田舎の首領なんぞにならなければならない……! あなたの位置は私の物のはずだ! 生まれた時から決まっていただろう、父上! 生まれた時から……!」


 リグリット様の心の叫びとでも言えば良いのか……完全に別人になっているようだった。自業自得とはいえ、今まで抱え込んで来たストレスが、ここへ来て一気に爆発したのでしょうね。私はとても驚いているけれど……まあ、リグリット様だったらこうなってもおかしくはないという思いもあった。


「リグリット落ち着け……なっ? ここは、ランカスター家の屋敷で私達の屋敷ではないのだから、もう少し冷静にだな……」


「うるさい! 私に近づくなっ! うぉぉぉぉぉ!!」


 今のリグリット様に迂闊に近づくのは危険……すぐにでもバークス家の護衛や執事達に取り押さえてもらうのが最善な気がするけれど。あれでも公爵令息だからか、護衛達もすぐには止めようとはしなかった。この間にガイア公爵が大怪我してたら、責任問題だったでしょうね……運が良かったというかなんというか。


「リグリット……ごめんなさいね」

「は、母上……うっ!?」


 暴れかけていたリグリットの前に立ったのはエメラダ夫人だ。そのまま、今にも暴れそうだったリグリットを大胆にも抱き寄せる。


「あなたへの愛情を見せなかった私の責任でもあるわ……今回のことは。いえ、それ以上にあなたをそんな風に育ててしまった責任の方が大きいかしら」

「は、母上……」

「あんな事があって、あなたへの愛情が消えてしまったのは事実だけれど、今のあなたは愛しく思えるわ……なんだか、母親としての愛情が復活したみたいな気分なの」

「母上……では……!」


 あの言葉は本音なのだろうか……? 咄嗟に思いついた出まかせのような気がしてしまうけれど。エメラダ夫人はそういうことを容易に行う人だろうし。でも、リグリット様は感動しているのか涙ぐんでいた……事態を一刻も早く鎮静化させる為に最善の手を考えて行動に移す。

 エメラダ夫人はそれで失敗もしてきただろうけど……今回はどうだろう?


「でもね、リグリット……愛しい息子だからこそ、時には厳しい罰を与える必要があるのよ。でもそれは、きっとあなたなら乗り越えられるという、私達の愛情の裏返しなのよ? 分かって貰えないかしら?」

「母上……父上も同じ気持ちなのですか……?」

「あ、ああ……当然じゃないか。どこの世界に息子を愛しく思わない親が居るんだ……」


 ガイア公爵もおそらくはエメラダ夫人に合わせているだけね……。でも、時にはそれが一番有効な手段に成り得る。


「母上、私は……遠隔地でやっていける自信がありません……!」

「大丈夫よ、リグリット。あなたならきっと……ええ、きっと大丈夫だから」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


 どうしようもないことは、リグリット様も分かっていたはず。だからこそ彼はその場に座り込んだのだから……。ここで彼への罰を変えてしまっては、今までの事が全て水の泡になってしまう。だから決して、エメラダ夫人は意見を変えることはなかった。

 ただし、彼女は母親としての母性を少しだけ見せたのだ。それが例え、その場を乗り切る為だけの母性だったとしても……。

 私にとっては大きな事件として記憶されることになった今回の事態……何より怖かったのが、場の空気を著しく壊したリグリット様に、更なる罰が追加されたことだった。
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