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31話 慰謝料

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(エメラダ夫人視点)


 本日、夫のガイアから信じられない言葉を聞いた。

「なんですって……? ファルス家への慰謝料を適正なものにするように、というお達しがあったというの?」

「うむ……王家から、とはなっているが……公爵家である私達にこんなことが可能なのは……」

「国王陛下しか居ないわね。当然、王家でもない大臣参謀たちではそんなこと出来ないでしょうし……」


 国王陛下からこんな通知が来るのは異例だ……私とて、こんな例はほとんど聞いたことがない。普通に考えれば、ヨハン王子殿下とエレナ嬢が直談判をしに行ったと見るのが普通だろう。

 でも、あの陛下のことだ……私との直接対決をしたいとは思っていないはず。あまり知られていないが、私と彼は幼馴染なのだ。10歳くらいの頃は、お互い好き合っていた時もあったように思う。懐かしいわね……。


 私の家系は元々は伯爵家だった。ただ、強欲な両親のおかげで没落し……私はガイアと一緒になることで、難を逃れたわけだけれど。貴族として、この家庭は死んでも守ってみせる。没落した貴族の末路は、私が良く知っているのだから。

「どうしようか、エメラダ?」

「慰謝料については検討します、とだけ送っていければ良いわ。問題は……」

「うむ、もう一つの……エレナ嬢の家系が要求してきた土地の件だが……」

「ええ……よりにもよって、なぜあの場所を……」


 意外と言えば良いのかしら? 山岳地帯や国境付近を選ぶと考え、私は準備をしていたのだけれど……彼女が選んだ地域はクローヌ川に面している地域だった。しまった、私としたことが、見誤っていたわ。

「なぜ、クローヌ川なのだ……? 私がそれが理解出来ぬ……」

「本当に分からないの、ガイア?」

「ど、どういうことだ……?」


 思わず溜息が漏れてしまう……仮にも公爵なのだから、もっとしっかりしてほしいものだ。あなたのこれまでの功績と言えば、リグリットとマグリットの二人を作ったくらいなのよ? 生んだのは私なんだけれど。


「エレナ嬢は……いえ、ランカスター家の狙いはなるべく自分の管理している土地から近い場所の確保。そして……クローヌ川を設備拡張することで、貿易などに利用することにあるのでしょう。やられたわ……単純に金や銀の採掘が出来る遠い山岳地帯ではなく、近い場所の開拓を進める。賢い手段と言えるわね」

「そ、そんな狙いが……!」


 エレナ嬢だけの考えかどうかは分からないけれど、彼女は少なくとも私の目の前に居る公爵様よりはよっぽど使えるでしょうね。私は久しぶりに背筋が寒くなってしまっていた……。
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