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8話 ガイア・バークス公爵 その1

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 私達はそれから数日後、サンライト宮殿に来ていた。王家の屋敷、になる。

 目的はガイア・バークス公爵にお会いする為だ。バークス公爵の屋敷に向かっても良かったのだけれど、現在、あの場所に行くのは抵抗があった。だから、ヨハン様が配慮してくれたのだ。


「ガイア殿も忙しい方だからな。こうして話せる予定が取れたのは、ラッキーと言えるだろう」

「ありがとうございます、ヨハン殿下。私の為に、ここまでのことをしてくれて……感謝の念に堪えません」

「いや、そんなに感謝されることはしていない。気にしないでくれ」


 私とヨハン様は宮殿内の一室で座って待機している状況だった。ちなみに、私もヨハン様も話し方が公式のそれになっている。具体的には、私は「ヨハン様」ではなく、「ヨハン殿下」。ヨハン様に関しては少々、話し方を大人びた? 形に変更しているようだ。違いがあんまりよく分からないけれど。

 私が彼のことを呼び捨てにしていたのは、子供の時の話。完全にプライベートな場であっても、呼び捨てにすることなんて考えられない。


 それからしばらくして、扉がノックされる音が鳴った。それと共に聞こえて来る渋い声。ガイア・バークス公爵に間違いない。


「失礼いたします、ガイア・バークス。参上いたしました」

「入ってくれ」

「失礼いたします」


 扉が開けられ、ガイア様が姿を現した。その姿を拝見するのは久しぶりだ。リグリット様との婚約が決まった時に挨拶をした時以来かもしれない。



------------------------------



「ヨハン王子殿下、エレナ嬢。ご無沙汰しております。この度は、こうして会談する機会が生まれ、非常に光栄でございます」

「ありがとう。忙しい中、呼び出しに応じていただき感謝する」

「とんでもないことでございます、殿下」


 ガイア様の挨拶は言葉はとても丁寧だった。ヨハン様はまだ、用件を伝えていないはず。ガイア様は息子のリグリット様の話だとは夢にも思っていないのだろう。それだけに少し、心が痛かった。


「エレナ嬢も、お久しぶりですね。あなたが我が息子のリグリットと婚約をしてくれた時のことは、今でも忘れていません。とても感謝しております」

「いえ、とんでもないことでございます。ガイア様、お久しぶりでございます」

「ええ、お久しぶりです」

「挨拶に関してはそのくらいにして……とりあえずは座らないか? 使用人に軽食を持ってこさせようと思っているのでな」

「畏まりました、王子殿下」

「はい、ヨハン殿下。仰せのままに」


 私達3人はそのままソファに座った。私の隣にヨハン殿下が居り、彼の後ろには忍者と呼ばれる特殊な護衛が二人、側近として付いている。対面側にはガイア様が座っているけれど、忍者の護衛は流石に居なかった。もちろん、私にも付いていることはない。

 私達を守る通常の護衛は部屋の外で待機している。この状況を見るだけでも、ヨハン様の権力の高さを伺うことが出来た。再確認は何度目になるか分からないけれど、とにかくヨハン様はすごいということね。


「ヨハン王子殿下、今回の会談の主題について確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、分かった。主題を先に伝えていなかったのは本当に申し訳ない」

「いえ、何か事情があったのでしょうから、お気になさらずにお願い致します」

「そう言ってもらえると助かる。実は話というのは、貴殿の息子であるリグリットに関してのことなのだ」

「リグリットに関してのこと、でございますか?」


 頷くヨハン様から視線を逸らすように、ガイア様は私の方へ視線を向けて来た。おそらく、私への事実確認をしたいのだと思う。

「はい、ヨハン殿下のおっしゃっていることは事実でございます。リグリット様は……ガイア様の前でこういうことは申し上げたくはないのですが、幼馴染のアミーナ様ととても仲がよろしいのです」

「アミーナ嬢か……なるほど。しかし、仲が良いというのは、普通のことでは? 確かにあの二人は幼い頃から一緒だったのでな」

「それはそうかもしれませんが……」

「つまりは度を越している、ということだ。少なくとも、こちらに居るエレナが婚約を維持することが難しいと、感じる程にな。脅しまで受けたと聞いている」

 私はヨハン様の言葉に頷き、ガイア様に真剣な眼差しを送った。これが事実なのだと伝える為に。しかし……


「ま、まさか……何かの勘違いではありませんかな? あのリグリットがそんな……」

「いえ、それが事実なのです……」

「な、何を馬鹿なことを……! 冗談にしては、少々過激なのでは……?」


 ガイア様は私達の言葉に全く耳を傾ける様子を見せていなかった。やはり、手塩にかけて育ててきた息子……将来は当主として公爵家を支えていって欲しいと感じているのだから当然だと思う。

 でも、私は事実を伝えなくてはならない。バークス家の未来のためにも。それが、リグリット・バークスの婚約者である私の務めだと思うから……。

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