12 / 17
12話 レレイの怒り
しおりを挟む クリスマス前のこの時期、駆け込みのプレゼント目当てのお客様が多いのは毎年のことだ。
彼女はうんざりしていた。
もちろん、お客様には喜んでもらいたいし、嬉しそうな顔を見るのは販売員冥利に尽きる。
だが。
(初手で光り物をプレゼントするような男は滅びろ)
リア充爆発しろ、とまでは言わない。カップルで来るのはまだいい。彼女の意見を聞いて買い物をしている。
問題は、相手の好みも知らないのに光り物をプレゼントしようとする男だ。
そんな男にアドバイスする方の身にもなってくれ、と切実に思う。結局は無難なデザインのものしか提案できないのだ。
彼女はニコニコと営業用のスマイルを装備しながら仕事をこなすしかない。
そんな中である。
(……あれ?)
今日は、様子が違う客が紛れていた。
若い。どう見ても高校生くらいの二人組。しかも男子。
黒髪美人と、茶髪王子さま。
お互いの彼女へのプレゼント選びだろうか。不思議に思って声をかけたら茶髪王子にかわされた。その左手薬指に光る、プラチナの指輪。
(おおっ!?)
俄然興味が出てきて気付かれないようにチラチラ見ていると、黒髪美人が顎に当てた左手薬指にもお揃いに見える指輪が光る。
(もしやこれは……っ!)
いわゆる、禁断の恋、というやつではないだろうか。しかも既に両思い。
チェーンタイプのネックレスコーナーを見ているところから察するに、学校では指輪が出来ないけど肌身離さずいたいからネックレスを探している、といったところか。
(やだ、ぜひ協力したい……!)
そう彼女が思ったことに気付いているのかいないのか。茶髪王子に呼ばれていそいそとそちらへ向かう。
「これって長さどれくらいなんですか?」
そう聞いてきたのは黒髪美人。
「ほぼ45cmです。少し長めがお好きでしたら50cmの方が良いかと」
さり気なく、50cmの方がいいよ、アピール。45cmだと当然女性用の物が多いからだ。
「んー……」
ちょっと考える黒髪美人に、彼女はアドバイスのつもりで続ける。
「お色は、ゴールドとホワイトゴールドがあります」
「ホワイトゴールド?」
「プラチナと同じお色に加工したものです」
「へぇ」
「プラチナの50cmのものも少数ですがございますよ」
「えっ」
ホワイトゴールドに興味を示したのは、指輪はやはりプラチナなのだろう。提案してみたら、思いの外食い付いたから微笑ましくなる。確か、在庫はあったはずだ。
「今お持ちしますね」
そう言って、慌てて在庫を確認にバックヤードに戻った。商談開始と判断した同僚が、彼らにコーヒーを持っていく。
その間に大急ぎで在庫が二本ある50cmのプラチナ素材のネックレスをジュエリートレーに並べた。
やはり定番ばかりで種類は少ないが、これは仕方がない。
「お待たせいたしました」
差し出したジュエリートレー。気に入るものはあるだろうかとドキドキする。そんな中で茶髪王子は彼女のオススメしたかったスクリューチェーンを手に取った。シンプルなのに華やかさがあるので、女性にも人気がある。ひょいと持ち上げて、黒髪美人の首元に当てる。
彼女は手慣れた様子で、すぐに鏡を用意して黒髪美人にもその様子が見えるようにした。
「ちょ、円」
「これくらい良いでしょ。お、これ綺麗」
「良かったら、実際に着けてみますか?」
「え」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」
促せば、茶髪王子は黒髪美人の首にネックレスを着けてやる。
(黒髪美人受け……!)
ネックレスは彼のシャツの隙間から少し覗く程度。長くも短くもない、ちょうどいい長さだった。
(めちゃイイ! 私、グッジョブ!)
「どう、かな?」
「うん、綺麗」
「着け心地もすごくいい」
「じゃあ、それにする?」
「うん」
「すみません。これ、同じものもうひとつありますか?」
もちろんある。確認してから持ってきたのだから。
「ございますよ。そちらでよろしいですか?」
「はい」
「今お持ちしますね。そちら、そのままお着けになって行かれますか?」
「え? あ、これは……」
「いえ。プレゼント用に包んでもらえますか?」
「かしこまりました。ではそちらもお預かりしますね」
黒髪美人が着けていたチェーンを預かり、彼女はそのまま作業台でラッピング作業に入る。
(幸せだなぁー!)
幸せカップルにあんな笑顔を見せられて、ほっこりしないはずがない。
今までにないほど丁寧に、そして迅速にラッピングを済ませて商品を渡す。会計を済ませると、二人ともがこちらに笑顔を向けてくれて、彼女は久しぶりにこの仕事やってて良かったと心から思った。
そしてその日、かつてないほどのやる気を見せた彼女は、今までにないほどの好評価をお客様から得ることになったのはまた別の話だ。
彼女はうんざりしていた。
もちろん、お客様には喜んでもらいたいし、嬉しそうな顔を見るのは販売員冥利に尽きる。
だが。
(初手で光り物をプレゼントするような男は滅びろ)
リア充爆発しろ、とまでは言わない。カップルで来るのはまだいい。彼女の意見を聞いて買い物をしている。
問題は、相手の好みも知らないのに光り物をプレゼントしようとする男だ。
そんな男にアドバイスする方の身にもなってくれ、と切実に思う。結局は無難なデザインのものしか提案できないのだ。
彼女はニコニコと営業用のスマイルを装備しながら仕事をこなすしかない。
そんな中である。
(……あれ?)
今日は、様子が違う客が紛れていた。
若い。どう見ても高校生くらいの二人組。しかも男子。
黒髪美人と、茶髪王子さま。
お互いの彼女へのプレゼント選びだろうか。不思議に思って声をかけたら茶髪王子にかわされた。その左手薬指に光る、プラチナの指輪。
(おおっ!?)
俄然興味が出てきて気付かれないようにチラチラ見ていると、黒髪美人が顎に当てた左手薬指にもお揃いに見える指輪が光る。
(もしやこれは……っ!)
いわゆる、禁断の恋、というやつではないだろうか。しかも既に両思い。
チェーンタイプのネックレスコーナーを見ているところから察するに、学校では指輪が出来ないけど肌身離さずいたいからネックレスを探している、といったところか。
(やだ、ぜひ協力したい……!)
そう彼女が思ったことに気付いているのかいないのか。茶髪王子に呼ばれていそいそとそちらへ向かう。
「これって長さどれくらいなんですか?」
そう聞いてきたのは黒髪美人。
「ほぼ45cmです。少し長めがお好きでしたら50cmの方が良いかと」
さり気なく、50cmの方がいいよ、アピール。45cmだと当然女性用の物が多いからだ。
「んー……」
ちょっと考える黒髪美人に、彼女はアドバイスのつもりで続ける。
「お色は、ゴールドとホワイトゴールドがあります」
「ホワイトゴールド?」
「プラチナと同じお色に加工したものです」
「へぇ」
「プラチナの50cmのものも少数ですがございますよ」
「えっ」
ホワイトゴールドに興味を示したのは、指輪はやはりプラチナなのだろう。提案してみたら、思いの外食い付いたから微笑ましくなる。確か、在庫はあったはずだ。
「今お持ちしますね」
そう言って、慌てて在庫を確認にバックヤードに戻った。商談開始と判断した同僚が、彼らにコーヒーを持っていく。
その間に大急ぎで在庫が二本ある50cmのプラチナ素材のネックレスをジュエリートレーに並べた。
やはり定番ばかりで種類は少ないが、これは仕方がない。
「お待たせいたしました」
差し出したジュエリートレー。気に入るものはあるだろうかとドキドキする。そんな中で茶髪王子は彼女のオススメしたかったスクリューチェーンを手に取った。シンプルなのに華やかさがあるので、女性にも人気がある。ひょいと持ち上げて、黒髪美人の首元に当てる。
彼女は手慣れた様子で、すぐに鏡を用意して黒髪美人にもその様子が見えるようにした。
「ちょ、円」
「これくらい良いでしょ。お、これ綺麗」
「良かったら、実際に着けてみますか?」
「え」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」
促せば、茶髪王子は黒髪美人の首にネックレスを着けてやる。
(黒髪美人受け……!)
ネックレスは彼のシャツの隙間から少し覗く程度。長くも短くもない、ちょうどいい長さだった。
(めちゃイイ! 私、グッジョブ!)
「どう、かな?」
「うん、綺麗」
「着け心地もすごくいい」
「じゃあ、それにする?」
「うん」
「すみません。これ、同じものもうひとつありますか?」
もちろんある。確認してから持ってきたのだから。
「ございますよ。そちらでよろしいですか?」
「はい」
「今お持ちしますね。そちら、そのままお着けになって行かれますか?」
「え? あ、これは……」
「いえ。プレゼント用に包んでもらえますか?」
「かしこまりました。ではそちらもお預かりしますね」
黒髪美人が着けていたチェーンを預かり、彼女はそのまま作業台でラッピング作業に入る。
(幸せだなぁー!)
幸せカップルにあんな笑顔を見せられて、ほっこりしないはずがない。
今までにないほど丁寧に、そして迅速にラッピングを済ませて商品を渡す。会計を済ませると、二人ともがこちらに笑顔を向けてくれて、彼女は久しぶりにこの仕事やってて良かったと心から思った。
そしてその日、かつてないほどのやる気を見せた彼女は、今までにないほどの好評価をお客様から得ることになったのはまた別の話だ。
109
お気に入りに追加
2,843
あなたにおすすめの小説

【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。
❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、済まない。カノンが……。」
「大丈夫ですの? カノン様は。」
「本当に済まない。、ルミナス。」
ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものように済まなそうな顔をして彼女に謝った。
「お兄様、ゴホッゴホッ。ルミナス様、ゴホッ。さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」
カノンは血を吐いた。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。
ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」
王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。
「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」
「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」
「……それはそうかもしれませんが」
「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」
イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。
「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」
こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。
「そ、それは嫌です!」
「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」
イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。
──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。
イライジャはそっと、口角をあげた。
だが。
そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。
【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人
キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。
だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。
だって婚約者は私なのだから。
いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている
黎
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる