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3話 婚約の解消 その2
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私はその日、クローヴィスと相談することにした。内容はもちろん……。
「クローヴィス……あなたは一体、どういうつもりなのかしら?」
「な、何がだい? レレイ……?」
クローヴィスの声は明らかに焦っており、私の目もちゃんと見ていない。動揺している人の態度そのものだった。
「とぼけないで頂戴。私が何も知らないと思っているの?」
「アルカとのことかな?」
「ええ、そういうことよ」
動揺していたかと思えば、アルカの名前を出した瞬間、彼の態度は元に戻っていた。情緒不安定……? その時に応じて精神が変化しているような……。
「アルカと僕の関係を疑っているのかい?」
「そういうことよ、私が言わなくても分かっているでしょう? 最近、あなたは私とアルカを比べ過ぎているわ」
「確かにそうかもしれないね……しかしそれは、君に原因があるだろう?」
「ええ、そうね。私に原因がないとは言わないわ。でも……」
クローヴィスは細かい部分でアルカと比べることも多いのだ。自分に対する婚約者としての態度や、食事の出し方……掃除に洗濯等。私はメイドではないのよ。
「あなたは少し、婚約者という存在に期待し過ぎていると思うわ」
「レレイ……どうして、そういうことを言うんだい? なぜ、君はそんなに冷たい言葉を……僕はただ、優しくしてほしいだけなのに」
私はクローヴィスを甘やかすタイプではない。彼にもそれが分かって来ているのだと思う。自分の理想とは違うから……彼は私とアルカを比べる。
「アルカならそんなことは絶対に言わないだろうにね。とても悲しいよ、レレイ……君との婚約は失敗だったのかもしれないな」
「クローヴィス……」
わざとなのかどうかは分からないけれど、彼は大きく肩を落として話していた。私に謝罪を求めているのかしら? でも、謝罪する気にはなれない。私の気持ちはクローヴィスから離れかけているから……。
「アルカと最近、仲が良過ぎる気がするのだけれど……それについては、どうなの?」
「アルカと? 僕たち3人の中が良いのは前からじゃないか。同じくらいの立場……伯爵家に生まれた3人なんだ」
「いえ、仲が良いのはそうだけれど。クローヴィス、私が言っているのはそういうことじゃないわ」
「レレイ……? どういうことだい?」
彼は本当に分かっていないのかしら? アルカと過ごしている場面を何度か見ているけれど、彼は見られていたとは微塵も考えていないのかもしれないわね。
「あなたは屋敷内でも、アルカとの親交を深めていると聞いているわ。私が直接見たこともあるし、使用人達からそういう噂を耳にしたこともある」
「おいおい、レレイ。そんなスパイみたな真似事をしていたのか? いくらなんでもおかしいんじゃないか?」
「いえ、おかしいのはあなたの方でしょ? 婚約者である私が居るのだから、アルカとの親交は控えるべきなのに……なぜ、今までと変わらないばかりか、更に親交を深めているのよ?」
「それは……」
原因ははっきりしている。クローヴィスがアルカを優先している理由は……単純にアルカのことが好きになっているからだ。私よりもアルカのことが好き、だからこそ彼は事あるごとに私と彼女を比べている。アルカもまんざらではないのだと思うしね。
だからこそ、私はクローヴィスにハッキリ言う以外になかった。
「あなたは明らかにアルカのことを愛しているわ」
「レレイ……確かにそうかもしれないな。彼女は私の理想的な女性だからね」
「……」
褒めて伸ばすタイプの温和な印象を与えるアルカ……なるほど、クローヴィスの好みに合致しているというわけか。私はなんだか悲しくなってしまった。
「クローヴィス、私との婚約だけれど……解消してくれないかしら?」
「そうだね、レレイ。その方が良いだろう。僕はこれ以上、君のことを愛せるとは思えないから」
それはこっちのセリフだけれど、敢えて私は言葉に出すことをしなかった。今まで仲良くやってきた3人の幼馴染と言う関係を出来る限り壊したくはなかったから……。
クローヴィスは即答に近い返事で婚約解消を了承してくれた。おそらくはこれで良かったのだと思う。
「しかし、こんなことで君との仲に亀裂が走ってしまうとはね……非常に残念に思うよ、レレイ。君は僕の期待通りの女性ではなかった。僕の期待には応えられなかった、応えれてくなかったわけだからね」
「……」
私はクローヴィスの言葉を無言で聞いていた。言い返したい衝動に駆られてしまうけれど、ここは大人な対応を見せておいた方が良いと思う。そして何より、私自身も悲しかったので、彼の言葉は半分程度しか聞けていなかったのだ。
「アルカだったらきっと、僕の期待に100%答えてくれただろう。妻としての自覚、夫を立てるという行為。優しい笑顔を振りまして……うん、アルカならきっと」
「クローヴィス……」
詳細を聞くことはしないけれど、既にアルカと浮気関係にあるのかもしれない。完全に浮気をしているとは思いたくはなかったけれどこれは……。
「とにかく、クローヴィス。婚約解消はOKということで良いわね?」
「ああ、構わない」
「そう、ありがとう。とても残念だわ、クローヴィス。今までの幼馴染の関係に戻るのは、難しいでしょうし」
これは私の本音でもある。今までの関係にはやはり、戻ることは出来ないだろう。私はそれを考えると目頭が熱くなってきていた。感動したのではなくて、悲しみからのそれだから喜べないわね。クローヴィスも残念そうにはしているけれど……何を考えているのかは分からなかった。
「互いに合意の元での婚約解消だ。慰謝料請求もなし、ということで頼むよ」
「ええ、もちろん分かっているわ」
クローヴィスは最後までアルカを優先していたことを謝罪することはなかった。まあ、それはもういいのか……彼とはこれからは何の関係もなくなるのだし。一度は本気で愛した男性との別れはやはり、とても悲しいものだった。どのくらいの期間で立ち直れるかは分からないけれど、頑張るしかない。
それと……最後にクローヴィスに言いたい。アルカだってきっと、あなたの理想の女性ではないわよ? と。彼女だって人間だし、クローヴィスの思い描く理想像にピッタリと合致するわけはないのだから……。
「クローヴィス……あなたは一体、どういうつもりなのかしら?」
「な、何がだい? レレイ……?」
クローヴィスの声は明らかに焦っており、私の目もちゃんと見ていない。動揺している人の態度そのものだった。
「とぼけないで頂戴。私が何も知らないと思っているの?」
「アルカとのことかな?」
「ええ、そういうことよ」
動揺していたかと思えば、アルカの名前を出した瞬間、彼の態度は元に戻っていた。情緒不安定……? その時に応じて精神が変化しているような……。
「アルカと僕の関係を疑っているのかい?」
「そういうことよ、私が言わなくても分かっているでしょう? 最近、あなたは私とアルカを比べ過ぎているわ」
「確かにそうかもしれないね……しかしそれは、君に原因があるだろう?」
「ええ、そうね。私に原因がないとは言わないわ。でも……」
クローヴィスは細かい部分でアルカと比べることも多いのだ。自分に対する婚約者としての態度や、食事の出し方……掃除に洗濯等。私はメイドではないのよ。
「あなたは少し、婚約者という存在に期待し過ぎていると思うわ」
「レレイ……どうして、そういうことを言うんだい? なぜ、君はそんなに冷たい言葉を……僕はただ、優しくしてほしいだけなのに」
私はクローヴィスを甘やかすタイプではない。彼にもそれが分かって来ているのだと思う。自分の理想とは違うから……彼は私とアルカを比べる。
「アルカならそんなことは絶対に言わないだろうにね。とても悲しいよ、レレイ……君との婚約は失敗だったのかもしれないな」
「クローヴィス……」
わざとなのかどうかは分からないけれど、彼は大きく肩を落として話していた。私に謝罪を求めているのかしら? でも、謝罪する気にはなれない。私の気持ちはクローヴィスから離れかけているから……。
「アルカと最近、仲が良過ぎる気がするのだけれど……それについては、どうなの?」
「アルカと? 僕たち3人の中が良いのは前からじゃないか。同じくらいの立場……伯爵家に生まれた3人なんだ」
「いえ、仲が良いのはそうだけれど。クローヴィス、私が言っているのはそういうことじゃないわ」
「レレイ……? どういうことだい?」
彼は本当に分かっていないのかしら? アルカと過ごしている場面を何度か見ているけれど、彼は見られていたとは微塵も考えていないのかもしれないわね。
「あなたは屋敷内でも、アルカとの親交を深めていると聞いているわ。私が直接見たこともあるし、使用人達からそういう噂を耳にしたこともある」
「おいおい、レレイ。そんなスパイみたな真似事をしていたのか? いくらなんでもおかしいんじゃないか?」
「いえ、おかしいのはあなたの方でしょ? 婚約者である私が居るのだから、アルカとの親交は控えるべきなのに……なぜ、今までと変わらないばかりか、更に親交を深めているのよ?」
「それは……」
原因ははっきりしている。クローヴィスがアルカを優先している理由は……単純にアルカのことが好きになっているからだ。私よりもアルカのことが好き、だからこそ彼は事あるごとに私と彼女を比べている。アルカもまんざらではないのだと思うしね。
だからこそ、私はクローヴィスにハッキリ言う以外になかった。
「あなたは明らかにアルカのことを愛しているわ」
「レレイ……確かにそうかもしれないな。彼女は私の理想的な女性だからね」
「……」
褒めて伸ばすタイプの温和な印象を与えるアルカ……なるほど、クローヴィスの好みに合致しているというわけか。私はなんだか悲しくなってしまった。
「クローヴィス、私との婚約だけれど……解消してくれないかしら?」
「そうだね、レレイ。その方が良いだろう。僕はこれ以上、君のことを愛せるとは思えないから」
それはこっちのセリフだけれど、敢えて私は言葉に出すことをしなかった。今まで仲良くやってきた3人の幼馴染と言う関係を出来る限り壊したくはなかったから……。
クローヴィスは即答に近い返事で婚約解消を了承してくれた。おそらくはこれで良かったのだと思う。
「しかし、こんなことで君との仲に亀裂が走ってしまうとはね……非常に残念に思うよ、レレイ。君は僕の期待通りの女性ではなかった。僕の期待には応えられなかった、応えれてくなかったわけだからね」
「……」
私はクローヴィスの言葉を無言で聞いていた。言い返したい衝動に駆られてしまうけれど、ここは大人な対応を見せておいた方が良いと思う。そして何より、私自身も悲しかったので、彼の言葉は半分程度しか聞けていなかったのだ。
「アルカだったらきっと、僕の期待に100%答えてくれただろう。妻としての自覚、夫を立てるという行為。優しい笑顔を振りまして……うん、アルカならきっと」
「クローヴィス……」
詳細を聞くことはしないけれど、既にアルカと浮気関係にあるのかもしれない。完全に浮気をしているとは思いたくはなかったけれどこれは……。
「とにかく、クローヴィス。婚約解消はOKということで良いわね?」
「ああ、構わない」
「そう、ありがとう。とても残念だわ、クローヴィス。今までの幼馴染の関係に戻るのは、難しいでしょうし」
これは私の本音でもある。今までの関係にはやはり、戻ることは出来ないだろう。私はそれを考えると目頭が熱くなってきていた。感動したのではなくて、悲しみからのそれだから喜べないわね。クローヴィスも残念そうにはしているけれど……何を考えているのかは分からなかった。
「互いに合意の元での婚約解消だ。慰謝料請求もなし、ということで頼むよ」
「ええ、もちろん分かっているわ」
クローヴィスは最後までアルカを優先していたことを謝罪することはなかった。まあ、それはもういいのか……彼とはこれからは何の関係もなくなるのだし。一度は本気で愛した男性との別れはやはり、とても悲しいものだった。どのくらいの期間で立ち直れるかは分からないけれど、頑張るしかない。
それと……最後にクローヴィスに言いたい。アルカだってきっと、あなたの理想の女性ではないわよ? と。彼女だって人間だし、クローヴィスの思い描く理想像にピッタリと合致するわけはないのだから……。
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