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43話 様々な理由 その1

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「本当に緊張致します……」

「何を緊張しているの? シャルナ?」

「リュート様……いえ、その何というか……」

 私は現座、リュート様の私室に通されていた。私がブリスド宮殿に住むようになってから、彼女は友人のように接してくれている。同じ年齢なのだし私もその方が気楽だけれど、それでも相手は王族であり王女様だ。最低限の礼儀をかかさないようにしなくてはならない。

 なんだろう……それはつまり、私が今までやってきた行為と変わらないような。各パーティーの席でアモネート家の品位を落とさないように、礼儀に気を付ける毎日。妹のメープルがあんなだったので、私は人一倍、礼儀に気を配る毎日を送っていたのだ。

 メープルが行わなければならないことも、私が代わりにやるようになって……ああ、あんまり思い出したくない光景だわ。

「シャルナは私と話すのを窮屈に感じている?」

「えっ……? いえ、そんなことはないですけど……」

「本当に?」

 リュート様は私の目を見ながら、真剣な表情で聞いていた。果たして何と答えるのが正解なのか……普段の私ならそう考えるところだけど、リュート様は偽らない本当の言葉を聞きたいんだろう。

「リュート様との友人関係は素直に嬉しいです。でも、やはり礼儀を重んじる必要があるお方ですので……」

「そっか……でも、妹さんがあれだったからしょうがないわよね。私としては、もっと普通に付き合って欲しいと思っているけど」

「申し訳ありませんでした……不快にさせてしまって……」

「ううん、そんなことないわよ。謝罪はまったく必要ないわ」

「そのように言っていただき、光栄です……」


 私は咄嗟に謝罪をしてしまう。おそらく、こういう態度はリュート様は望まれていないんだろうと思う。ただ、身に付いた習慣? というのはなかなか消えないものだ。なんとか今後、リュート様が望まれる真の友人関係を築けたら良いとは思うけれど……。


「今聞くことではないのかもしれないけど……やっぱり、婚約者を選んだ時もシャルナの昔からの経験が活きた形だったのかな?」

「えっ……? 昔からの経験でございますか?」

「うん。私は正直に言って、確実にユアンお兄様を選ぶと思っていたから。ベノムお兄様を選んだのは、シャルナの過去の経験と照らし合わせて、相手の顔色を窺い続ける人生を避けたかったのかな? と思ってみたり……いえ、その考えが悪いなんて、全然思わないけどさ。ただ、真実を知っておいたいから」

「それは……」


 どうなんだろうか……? 私がベノム様を選んだ真の理由。すぐには即答できない程に色々な感情が心の中を渦巻いていた。でも、リュート様は答えを望まれている。ここはしっかりと整理してお答えする必要がありそうね。
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