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6話 錬金術の試験 その1

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 フレッド王子殿下に連れて来られたハンブリッジ王宮内……驚いたことに個室が割り当てられてしまった。広さはおそらく、宮殿内では小さい方なのだろうけど、私からすれば十分過ぎる。

 お父さんとカウフマンさんの二人は同室らしいので、男女で別れて割り当てられているのかな?

「何か必要な物があれば、王宮内の使用人に遠慮なくお申し付けください。すぐに駆け付けますので」

「も、申し訳ありません……こんな豪華なお部屋に無料で泊めてもらえるなんて……」

「いえいえ、気にする必要はありませんよ。フレッド王子殿下を始め、王族の方々はそれだけ錬金術師の方々を重要視している、ということです。それに……」

「はい?」

 私を部屋まで案内してくれた使用人の女性は、なんだか興味深々のようだ。ちなみに、フレッド王子殿下とは王宮に入ってすぐに別れることになった。

「錬金術の経験について、先ほど用紙に記載があったでしょう?」

「そ、そうですね……確かにありましたけど」

「あれは錬金術の試験を受ける気が本当にあるのかどうかをチェックする為のものなんです。かなり細かく書く欄があったと思いますが」


「そういえば確かに……」

 まあ、王宮に泊まれるなんて破格の待遇が待っているんだしね……当然、錬金術なんて興味ないけどとりあえず応募する人が居てもおかしくないか。そういった人を振るい落とす為の用紙だったわけね。

「僭越ながら拝見させていただきました」

「い、いえ……そんな、あんなことで良いならいくらでも見てください」

「ありがとうございます。ふふふ、フェリ様」

 フェリ様って……「様」付けなんて初めて言われたかもしれないわ。宿屋などでも大抵は「お客様」だし。目の前の使用人の方……一般にメイドと言われる格好をしている彼女の名前は確か、ラクアだったっけ?

「ええと……ラクアさんでよろしいのでしょうか?」

「はい、私の名前はラクア・ローランドと申します。お見知りおきを、フェリ・グラウス様」

「あ……はい、よろしくお願いいたします」

 貴族みたいな挨拶をしているのが、私にとっては不思議な感じだった。でもまあ、悪くないというかなんというか。クレルモン公爵の件で貴族達への印象は最悪になったけれど、決して全ての方々に向けては駄目だと改めて思い直した。

「時にフェリ様はエルレイン様を師匠にお持ちのようで……本当に驚きましたわ」

「えっ? やっぱり師匠って有名なんですか……?」

 カウフマンさんにラクアさんまで、師匠の名前に反応しているってことは……そういうことよね?

「はい、有名な錬金術を操るお方だとは聞いておりますが、その素性に関しては私では分かりません」

「そうなんですね……なるほど」

「申し訳ありません、フェリ様」

「いえ、全然気にしないでください!」

 ラクアさんに謝られるととても悪いことをしているような気がしてしまうわ。これが小市民の典型なのかな……。

「それから事前に書いて頂いた用紙にはクレルモン公爵の下で1年程、働いていらっしゃったと書かれておりました。凄い経歴の持ち主なのですね、フェリ様は……18歳だと伺っておりますが……」

「ど、どうも……」

 褒められ慣れてないというか……そういうのは苦手なので、面と向かって言われると照れてしまう。

「私と同じ歳でこれ程の方がいらっしゃるなんて……やはり、世間は大変広く感じられます。私も精進しないといけませんわ」

「あ、あはは……」

 私はなんて返したら良いのか分からず、愛想笑いをしてしまっていた。ラクアさんはファミリーネームから考えると貴族出身の人なのかな? 年齢は同じ、と。王宮には社会勉強とかで働いているのかしらね。

 ローランド家って確か伯爵家に相当するはずだものね。その辺りはいずれ聞くとして……どうやら王宮には、私がクレルモン公爵の身勝手な言い分でクビになったことは伝わっていないようね。

 まあ、あの人のことだから、情報統制とか完璧にしてそうだけど。




「あ、お話が長くなってしまい申し訳ありませんでした。錬金術の試験自体は明日の昼に行われます。それまでに、この用紙に目を通しておいてください」

「あ、わかりました」

 ラクアさんから渡された紙は、試験の概要が書かれたものだった。具体的には調合する薬の種類。薬草を原料として作る回復薬や、毒消し草を原料として作る毒回復薬など、多岐に渡るわね。まあ、クレルモン公爵のところで作っていた物とほとんど変わらないから何とかなりそう。

 でも、一定時間内での数と精度が判定の基準になっているのが気になる。私の薬……つまりはアイテムと呼ばれる代物を作るスピードと精度がどのくらいか。

 そういえば測ったことがないので、とても心配だわ……だ、大丈夫よね……?
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