4 / 9
4話 夢と希望の王都ラクアーレ その2
しおりを挟む
「気を付けて行ってらっしゃい。ちゃんと手紙を書くのよ?」
「うん、ありがとう母さん。行って来ます」
「ええ、行ってらっしゃい。あなたも気を付けてね?」
「ああ、分かっている。済まないが、少しの間、鍛冶屋の方は任せるよ」
「わかったわ」
今回も御者を雇っての旅になる。今回はクレルモン領内での移動ではなく、多少の長旅だ。私だけでは不安だからと、お父さんも付いて来てくれることになった。
「カウフマン、よろしく頼むよ」
「気を遣いなさんな、ラードフ。あんたとは古い付き合いじゃないか」
「カウフマンさん、よろしくお願いいたします」
「ははは、お安い御用さ」
今回の御者の方はお父さんの顔なじみのカウフマンさんだ。ちなみにラードフ・グラウスというのが私の父の名前に当たる。カウフマンさんは腕も立つので、御者兼護衛をお願いすることになったわけで。元冒険者をされていたはず。怪我が原因で引退して、今は御者の仕事で生計を立てているらしい。
私達はお母さんに挨拶をしてから、すぐに旅立った。
「しかし、ラードフから少ししか聞いていないが、なかなか大変だったみたいだな」
大変、というのはおそらくクレルモン公爵の屋敷を追放された件だと思う。親しい人には知れ渡っている頃だろうし、カウフマンさんも知っているみたいね。
「そうですね……お父さん達のおかげで多少は吹っ切れましたが、まだまだ悔しさや悲しさは残ります」
「そりゃあそうだろう。1年くらいも働いていた職場を、意味も分からず解雇されたんだ。おまけに退職金等もなかったんだろう?」
「そうですね……なかったです」
必要最低限の物以外は全て没収されているしね。錬金用の道具とかも全て。今までの給料の没収はなかったけれど、
「いくら公爵だからって、なんだよその待遇は……あり得ないだろ? 俺達の税金で贅沢な暮らしが出来てるってこと忘れてるんじゃねぇのか。これだから貴族様は嫌いなんだよな」
「娘のことを想って言ってくれるのは嬉しいが、不敬罪に問われかねないぞ?」
「ああ、そうかもな……そりゃあ、なかなか面倒だ」
お父さんは温度感が上がっているカウフマンさんを宥めていた。
「しかしまあ、王宮の錬金術師の試験を受けるっていうのは正しいかもな。ルアガタウンで働くのは、フェリちゃんの才能の無駄になるかもしれんし」
「いえ……王宮の錬金術師なんて、私程度で受かるとは思えないです……」
「いや、俺も錬金術には詳しくはないが、あのエルレインが弟子にした程の逸材だろ? 過小評価が過ぎるぜ、フェリちゃん」
「えっ?」
「まあ、気軽に受けてみれば大丈夫さ。多分な」
「は、はあ……分かりました」
カウフマンさんは私が合格するのが当たり前のような話し方だった。それに、エルレイン師匠のことも知っているような。師匠ってそんなに有名だったのかしら? それ以上は聞かなかったけれど、なんだか気になる話題ではあった。
-----------------------
故郷の町を出発して1週間以上……その間の村々で寝泊りを繰り返し、王都ラクアーレに到着した。
「ようやく到着か……それにしても、流石は王都って感じだな」
「本当ですね……凄いです」
18年間の間で私が王都を訪れたのはこれで二度目だ。以前よりもさらに街並みが綺麗になっている気がする。
「よし、まずは適当な宿でも探すとしようか」
お父さんの提案に私とカウフマンさんは頷いた。ハンブリッジ王宮での試験を受けることになるわけだけれど、数日間は最低でも滞在することになるだろうしね。
馬車を停車場に止めて、そのまま王都内へと入る。正門では簡単な審査がされたけれど、問題なく通してもらえた。
「カウフマン、おすすめの宿屋はあるか?」
「そうだな……王都内の宿屋も多いからな、特におすすめってはないぜ。強いて言うなら、王宮から近い所が良いか」
「なるほど」
まあ、その方が錬金術の試験を受けやすいものね。私は妙に納得しながら周囲を見渡す。それにしても凄い人手ね……故郷のルアガタウンとは、何から何までが違うわ。
お店の数もそうだし……ルアガタウンには私のところくらいしか鍛冶屋はないけど、ここにはたくさんあるんでしょうね。試験とは別に単純に王都を訪れられたことが、私は嬉しくなっていた。もしも、王宮の錬金術師の試験が落ちたとしても、ここなら働き口が見つかりそうだしね。
「済まない、少し通してもらえるか? そこに立たれていると殿下の邪魔になってしまう」
「えっ? あ、すみません……!」
私が周囲を見渡していた時、死角から兵士の人の声が聞こえて来た。兵士というよりは、護衛か何かかしら? 複数人で辺りを警戒しているみたいだったし。その中央には高貴な服装の人物が居た。髪をオールバックにしている茶髪の男性だ。
すごく端正な顔立ちだったけれど、雰囲気的にその人の護衛に注意をされたわけね。
「気分を悪くしたなら申し訳ない。その者は私の護衛役なのだ」
「い、いえ……気分を悪くしたなんて、そんなことないです」
「そうか、なら良かった」
オールバックの男性は一般人の私にも丁寧に話してくれた。それに殿下って言われてたし。威圧的に接しない辺り、すごく好感の持てる人かもしれない。
「……?」
「どうかしたかな……? ん、君は……」
あれ、この顔と声はどこかで聞いた覚えがある。記憶が定かではないけれど……確かに以前に。オールバックの男性も何か様子が変わっているし……もしかして、このお方は……。
「うん、ありがとう母さん。行って来ます」
「ええ、行ってらっしゃい。あなたも気を付けてね?」
「ああ、分かっている。済まないが、少しの間、鍛冶屋の方は任せるよ」
「わかったわ」
今回も御者を雇っての旅になる。今回はクレルモン領内での移動ではなく、多少の長旅だ。私だけでは不安だからと、お父さんも付いて来てくれることになった。
「カウフマン、よろしく頼むよ」
「気を遣いなさんな、ラードフ。あんたとは古い付き合いじゃないか」
「カウフマンさん、よろしくお願いいたします」
「ははは、お安い御用さ」
今回の御者の方はお父さんの顔なじみのカウフマンさんだ。ちなみにラードフ・グラウスというのが私の父の名前に当たる。カウフマンさんは腕も立つので、御者兼護衛をお願いすることになったわけで。元冒険者をされていたはず。怪我が原因で引退して、今は御者の仕事で生計を立てているらしい。
私達はお母さんに挨拶をしてから、すぐに旅立った。
「しかし、ラードフから少ししか聞いていないが、なかなか大変だったみたいだな」
大変、というのはおそらくクレルモン公爵の屋敷を追放された件だと思う。親しい人には知れ渡っている頃だろうし、カウフマンさんも知っているみたいね。
「そうですね……お父さん達のおかげで多少は吹っ切れましたが、まだまだ悔しさや悲しさは残ります」
「そりゃあそうだろう。1年くらいも働いていた職場を、意味も分からず解雇されたんだ。おまけに退職金等もなかったんだろう?」
「そうですね……なかったです」
必要最低限の物以外は全て没収されているしね。錬金用の道具とかも全て。今までの給料の没収はなかったけれど、
「いくら公爵だからって、なんだよその待遇は……あり得ないだろ? 俺達の税金で贅沢な暮らしが出来てるってこと忘れてるんじゃねぇのか。これだから貴族様は嫌いなんだよな」
「娘のことを想って言ってくれるのは嬉しいが、不敬罪に問われかねないぞ?」
「ああ、そうかもな……そりゃあ、なかなか面倒だ」
お父さんは温度感が上がっているカウフマンさんを宥めていた。
「しかしまあ、王宮の錬金術師の試験を受けるっていうのは正しいかもな。ルアガタウンで働くのは、フェリちゃんの才能の無駄になるかもしれんし」
「いえ……王宮の錬金術師なんて、私程度で受かるとは思えないです……」
「いや、俺も錬金術には詳しくはないが、あのエルレインが弟子にした程の逸材だろ? 過小評価が過ぎるぜ、フェリちゃん」
「えっ?」
「まあ、気軽に受けてみれば大丈夫さ。多分な」
「は、はあ……分かりました」
カウフマンさんは私が合格するのが当たり前のような話し方だった。それに、エルレイン師匠のことも知っているような。師匠ってそんなに有名だったのかしら? それ以上は聞かなかったけれど、なんだか気になる話題ではあった。
-----------------------
故郷の町を出発して1週間以上……その間の村々で寝泊りを繰り返し、王都ラクアーレに到着した。
「ようやく到着か……それにしても、流石は王都って感じだな」
「本当ですね……凄いです」
18年間の間で私が王都を訪れたのはこれで二度目だ。以前よりもさらに街並みが綺麗になっている気がする。
「よし、まずは適当な宿でも探すとしようか」
お父さんの提案に私とカウフマンさんは頷いた。ハンブリッジ王宮での試験を受けることになるわけだけれど、数日間は最低でも滞在することになるだろうしね。
馬車を停車場に止めて、そのまま王都内へと入る。正門では簡単な審査がされたけれど、問題なく通してもらえた。
「カウフマン、おすすめの宿屋はあるか?」
「そうだな……王都内の宿屋も多いからな、特におすすめってはないぜ。強いて言うなら、王宮から近い所が良いか」
「なるほど」
まあ、その方が錬金術の試験を受けやすいものね。私は妙に納得しながら周囲を見渡す。それにしても凄い人手ね……故郷のルアガタウンとは、何から何までが違うわ。
お店の数もそうだし……ルアガタウンには私のところくらいしか鍛冶屋はないけど、ここにはたくさんあるんでしょうね。試験とは別に単純に王都を訪れられたことが、私は嬉しくなっていた。もしも、王宮の錬金術師の試験が落ちたとしても、ここなら働き口が見つかりそうだしね。
「済まない、少し通してもらえるか? そこに立たれていると殿下の邪魔になってしまう」
「えっ? あ、すみません……!」
私が周囲を見渡していた時、死角から兵士の人の声が聞こえて来た。兵士というよりは、護衛か何かかしら? 複数人で辺りを警戒しているみたいだったし。その中央には高貴な服装の人物が居た。髪をオールバックにしている茶髪の男性だ。
すごく端正な顔立ちだったけれど、雰囲気的にその人の護衛に注意をされたわけね。
「気分を悪くしたなら申し訳ない。その者は私の護衛役なのだ」
「い、いえ……気分を悪くしたなんて、そんなことないです」
「そうか、なら良かった」
オールバックの男性は一般人の私にも丁寧に話してくれた。それに殿下って言われてたし。威圧的に接しない辺り、すごく好感の持てる人かもしれない。
「……?」
「どうかしたかな……? ん、君は……」
あれ、この顔と声はどこかで聞いた覚えがある。記憶が定かではないけれど……確かに以前に。オールバックの男性も何か様子が変わっているし……もしかして、このお方は……。
0
お気に入りに追加
586
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をしたら、推進している事業が破綻しませんか?
マルローネ
恋愛
フォルナ・アッバース侯爵令嬢は、リガイン・ブローフェルト公爵と婚約していた。
しかし、突然、リガインはフォルナに婚約破棄を言い渡す。別の女性が好きになったからという理由で。
フォルナは悲しんだが、幼馴染の第二王子と婚約することが出来た。
ところで……リガインは知らなかったのだ。自分達の領地で進めていた事業の大半に、アッバース侯爵家が絡んでいたことに。全てを知った時にはもう遅かった。
王女と婚約するからという理由で、婚約破棄されました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のミレーヌと侯爵令息のバクラは婚約関係にあった。
しかしある日、バクラは王女殿下のことが好きだという理由で、ミレーヌと婚約破棄をする。
バクラはその後、王女殿下に求婚するが精神崩壊するほど責められることになる。ミレーヌと王女殿下は仲が良く婚約破棄の情報はしっかりと伝わっていたからだ。
バクラはミレーヌの元に戻ろうとするが、彼女は王子様との婚約が決まっており──
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。
しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。
ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。
そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
【完結】サボり仲間は男爵家の三男坊
風子
恋愛
「またサボるのか?」
ベンチで寝ていた男爵家の三男坊が声を掛けてくる。
「あなたに言われたくないわ」
私と彼はいつからかこの場所で同じ時間を過ごすようになっていた。
ボルヴァンド侯爵家の娘である私イザベラは、半年前に母親を病気で亡くした。
しかし父親は三ヶ月前に男爵家の未亡人と再婚し、その娘は私と同じ歳だった。
男爵令嬢のアリサは、フワフワしたキャラメル色の髪にグリーンの瞳をした愛想の良い子で、皆に取り入るのが上手かった。
彼女は学園の皆に、家では私にいじめられているという嘘をつき、無愛想な私はあっという間に悪者にされてしまった。
クラスに居づらくなった私は、人目につかないベンチで時間を潰すようになっていた。
初めは一人だったが、いつの間にか男爵家の三男坊という彼もベンチで寝ているようになった。
そんな時、第一王子がアリサを婚約者に選んだようだと聞かされ、アリサはさらに私を見下すようになった。
家での立場はより悪化していく。
こんな家はもう出ようと考えていたのだが‥‥
※作者の妄想世界の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる