上 下
4 / 6

4話 アンバスの綻び

しおりを挟む

(アンバス・バルバドイ侯爵視点)


「ん? どういうことだ……?」

「は、はい……何と申し上げて良いのやら……」


 執事のワール・シュタットからの発言を受けて私は困惑していた。何でも文書作成に問題が生じているようだ。


「文書作成に問題が生じているということは、歴史書の制作にも問題が出ているのか?」

「さ、左様でございますね……歴史書の制作はメリーナ・セラスタ伯爵令嬢の協力が相当に効いていましたので……」

「まさかそんなことが……」


 メリーナは確かに瞬間記憶の持ち主だった。文書作成に於いて役立っていたのは事実だろうが……あの者が居なくなっただけで、そこまでの影響が出るものなのか? 特に歴史書の制作は我が家にとっても重要な収入源となっているが……今までもかなりの販売部数を誇るのだからな。王家からの収益も期待できるものだった。

 何せ、過去の文献を元に分かりやすく歴史書を作る作業だからな。作成された歴史書は貴族院などを介して新たな教科書にもなるのだ。その作成が波に乗ることは、私達の収益として非常に重要なものだと言えた。


「申し上げるのは難しいのですが、メリーナ様の瞬間記憶がなければ、柔軟な歴史書等の作成に支障が出ると思われます」

「何を言っている!? 書斎にある数々の文献を参照すれば良いのではないか?」

「それが……最近はメリーナ様の瞬間記憶に頼っていましたので、書斎にある文献を探すだけでも一苦労でございまして……」

「な、なんということだ! 馬鹿者が!」

「も、申し訳ございません……ですが、メリーナ様を追い出したのはアンバス様ご自身では……」

「なんだと!? もう一度言ってみろ!」

「い、いえ……すみません……!」


 ぬう、確かにその通りではあるが、まさかそこまでメリーナの働きに頼っていたとは……改めて使用人達の無能さが分かった感じだな。

 執事のワールに怒っても仕方がないか。歴史書の作成を滞らせるわけにはいかない……王家への信頼を勝ち取る為にはな。メリーナには戻って来て貰う以外にはないか。

 問題はメリーナ自身が納得するかどうかだが、いざとなれば金で雇えば問題ない。それでも無理なら強引な手段に出ることもできるのだ。絶対に歴史書の作成作業はスムーズに展開してみせるぞ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

学院内でいきなり婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。 慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。 メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。 急速に二人の仲も進展していくが……?

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

幼馴染が好きなら幼馴染だけ愛せば?

新野乃花(大舟)
恋愛
フーレン伯爵はエレナとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるレベッカとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにフーレン伯爵はエレナに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む

リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。 悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。 そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。 果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか── ※全4話

本当の聖女が見つかったので私はお役御免だそうです

神々廻
恋愛
この国では聖女を探すべく年頃になると、国中の女聖女であるかのテストを受けることのなっていた。 「貴方は選ばれし、我が国の聖女でございます。これから国のため、国民のために我々をお導き下さい」 大神官が何を言っているのか分からなかった。しかし、理解出来たのは私を見る目がまるで神を見るかのような眼差しを向けていた。 その日、私の生活は一変した。

子爵令息だからと馬鹿にした元婚約者は最低です。私の新しい婚約者は彼ではありませんよ?

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のカミーユ・シャスカは婚約者であり、侯爵のクロッセ・エンブリオに婚約破棄されてしまう。 カミーユには幼馴染で王子殿下であるマークス・トルドイが居た。彼女は彼と婚約することになる。 マークスは子爵令息のゼラン・コルカストを常に付き人として同行させていた。それだけ信頼のある人物だということだ。 カミーユはマークスと出会う為の日時調整などで、ゼランと一緒に居ることが増えていき…… 現場を目撃したクロッセは新しい婚約者はゼランであると勘違いするのだった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...