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2話 王太子殿下 その2

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「入るぞ、シャルナック」

「こ、これは……兄上……如何なさいましたか?」


 少し焦っているようにも見えるシャルナック。それもそのはず、このタイミングで現れた人物がキニスン・ワーテルロー王太子殿下だったから。キニスン様の年齢は、現在は23歳だったかな? 17歳のシャルナック王子とは、腹違いの兄弟になるわね。

 キニスン様は王太子様、シャルナックは第7王位継承権の持ち主……その間に5人もご兄弟が居るのよね。腹違いとか色々あるみたいだけれど。


「いやなに、バートン家の令嬢……アンネリー殿がお前の部屋に入るのを見たのでな」

 私が入るのを見たから、王太子殿下が入って来たというの? どういうことだろう……話が見えて来なかった。それに、私のことをファーストネームで呼んでくれている……。キニスン・ワーテルロー様とは何度かお会いしたこともあるけれど……親しい仲というのは恐れ多い人物だと思っていた。


「……雰囲気だけで判断をして申し訳ないが、あまり芳しくない話しをしていたようだな?」

「……」


 キニスン様の言葉にシャルナックは返答をしない。ただ、額から汗を流すだけで……。本音で言えば、私の方から婚約破棄をされたことを言ってやりたかったけど、王家の人間を敵に回すのは得策ではないし……上手く言葉が出て来なかった。


「シャルナック? 汗が凄いようだが……大丈夫か?」

「は、はい……大丈夫ですが……」


 キニスン様に私達の会話が聞こえていたとは考え辛い。キニスン様は真相は知らないはずだけれど……天性の勘からくるものなのか、シャルナックを責めているようにも感じられた。キニスン様って超能力とか持っているのかしら?

 そして、キニスン様は私にも視線を合わせる。


「アンネリー殿、其方の顔色を見ていると、おおよその見当は付いてしまう。よろしければ、話しを聞かせてもらえないか?」

「王太子殿下……いえ、私の口からは……」


 シャルナック個人に対しては怨みしかないけれど、王家の人間を敵には回したくない……その考えが、キニスン様への打ちあけを邪魔していた。しかし、キニスン様はそんなことは分かり切っているかのように安心の言葉を掛けてくれる。


「心配には及ばん。私は一応は王太子の身だ……その身分に誓って、其方に不利益が被らないことは約束しよう」

「王太子殿下……」

「さあ、話してもらえるか?」


 キニスン様は、どうやらシャルナックのことを信用していないみたいね……。だからこそ、私に質問を投げかけたんだと思うけれど。不利益は被らない……私はシャルナックの驚いている表情を傍目に、婚約破棄の件について王太子殿下に話すことにした。
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