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1話 婚約者の心の声は酷過ぎた

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 私の名前はレミリム・ナーヴァ。コルド王国のナーヴァ家の伯爵令嬢だ。

 私は幼い頃から特殊な能力に目覚めていた……それは、対象にした人物の心の声が読めるというものだ。と言っても全て読めるわけではないので、私と話している間にどんなことを考えているのか程度しか分からないけれど。

 この能力はナーヴァの一族には稀に生まれるのだという……姉さまも同じような能力を持っているし。統計的には女性に発現する可能性が圧倒的に高いようだった。

 私は伯爵令嬢として生まれ、17歳になる今まで、生活面で苦労することはなかった。これは非常に恵まれた立場なのだと思う。そのことは常に忘れるな、お父様から幼少から教わっていた。自分の立場を常に忘れないことが国民達に対する敬意なのだというのが、お父様の持論だったのだ。

 確かに私達貴族は、国民の税金で贅沢な暮らしが出来ている……国民への敬意と謙り過ぎない態度を見せることが重要だということも、姉さまや兄さまから教わって来た。今の私にとって、とても大きな教訓になっている。

「ん? どうかしたのか、レミリム?」

 私の顔色を不自然に思ったのか、婚約者のフィリップ・ハウゼン侯爵が私に話しかけて来た。

「いえ……」


 私は適当にフィリップ様の言葉を受け流す。彼は半年前に婚約した愛すべき人物なのだけれど……私の能力でその本性が嫌と言うほど分かってしまったのだ。

「フィリップ様……お伺いしても、よろしいですか?」

「なんだい、レミリム?」

「フィリップ様は私だけを見てくださっている……そう考えて、よろしいのですよね?」


 確信に迫る質問を私はフィリップ様に行った。こうすることで、より彼の心の中を読み取れるからだ。

「当然だろ、レミリム? 私はお前以外の女性に興味なんかないよ」

 (まあ、レイチェルは別だけどな……この女はレイチェルの存在を知らない。まったく、馬鹿な女だよ、ははははは)

「……」


 レイチェル……何度か読み取ったことのある女性の名前だ。おそらくはレイチェル・カミング侯爵令嬢のことを言っているのだろうけど……フィリップ様は浮気を平然としているのだ。私より8歳も歳上の人が行うことだとは到底、考えられない……。

 レイチェル嬢は確か23歳だったはず……貴族としては、二人とも行き遅れている理由がなんとなく分かった瞬間でもあった。

 心の声を聞けるというのは何も、便利なことではない……残酷な現実を見せられることだってあるのだから。

「フィリップ様……レイチェル様と浮気をなさっていますよね?」

「なっ、なんだと……!? 何を言っているんだ……?」

「その態度だけで十分でございます……」


 私の特殊能力について、フィリップ様に話す必要なんかない。彼は浮気以外にも、私の日頃の言動について、相当な不満を持っているようだったし。フィリップ・ハウゼン侯爵の屋敷に常駐している使用人に聞いてみても、私の言動が特別悪いとは思えないという意見しか出て来ない。

 これはつまり、フィリップ様がレイチェル嬢と比べて、身勝手な不満を漏らしていることを意味するのだろう。

「とっくに分かっていることでございます。私はこの半年間、フィリップ様に仕えて来たつもりでしたが……そろそろ、限界に近付いております」

「レミリム、お前……」


 私の言葉にフィリップ様は真剣な顔つきになった。

 真剣な顔つきと言っても、謝罪をする様子はなかった。しかし、ここまでは想定内だ……後は彼がどういう決断を下すのかに掛かっていると思う。

 個人的には彼を信じたい気持ちはあるのだけれど……。

「調べはついていた、ということか……」

「はい、そうですね。私としましては、とても悲しいことでございます」


 心の声が読めたからそれを知れたとは言わない……あくまでも、綿密な調査を行ったことを示唆してみせる。


「まあ、これも仕方ないのかもしれないな……」

「フィリップ様……?」

「レミリム、お前とは婚約破棄だ。二度と私の前には現れるな」

「えっ?」


 淡々と彼は婚約破棄という言葉を口にした……想定していなかったわけではないけれど、まさかこんなに素早く婚約破棄、という言葉が出て来るなんて。

 フィリップ様の人格を疑った方が良いのかもしれない……。

 (どこでバレたのかしらんが、元々、レイチェルを愛人に据える予定だったのだ……まあ、多少予定は狂ったが、大丈夫だろう)


 あ、そういうことだったのね……元々、愛人には据える予定だったんだ。それなら、別れた方が良かったわね。

「婚約破棄……本気でございますか?」

「当たり前だ、レミリム。私はレイチェルと婚約することにする。彼女の方が身分は高いのだからな……お前とは婚約破棄だ」

「そうですか……残念です……」


 私は大袈裟に肩を落としてみたけれど、心の中はやはり相当にショックだったと言わざるを得ない。フィリップ様との婚約は私にとってプラスの要素はあったのだろうか?

 そんな思いが生まれてしまったからだ……。
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