54 / 60
54話 スザンヌとウィンスタート その1
しおりを挟む
(スザンヌ視点)
「スザンヌ様……ご無礼をお許しください」
「いきなりどうしたの、ウィンスタート?」
相変わらず、彼は影のように私の前に現れた。素早い行動は流石だけれど、少し驚かされることもある。
「私と逃げませんか?」
「……!? どういう意味かしら?」
ウィンスタート・ドルチェは淡々と……そして、ハッキリと言った。ここが誰も居ない書斎でなければ大問題になっていた一言かもしれない。
「失礼致しました。アーチェ様がネプト国王陛下の側室になるという話を聞いて、どうしてもこの話をしておきたかったのです」
「一緒に逃げる、というのは穏やかな話ではないわね」
どういう意味かは理解しているつもりだ。彼が……ウィンスタートが私を一人の女性として愛していることは、以前から分かっていたことだから。それが今、自惚れなんかではないことが分かったのだ。
「私はネプト様とアーチェ様の世界にスザンヌ様が入ることを受け入れることが出来ません。きっと、ネプト様はアーチェ様のみを愛するでしょうから」
「それは元々分かっていたでしょう? 相手がアーチェでなくても変わらないわ。私とネプトは仮面夫婦でなければならなかったのだから……それを若さゆえに破ってしまった。ネプトが側室を招き入れる現状はおかしなことではないのよ。むしろ、私との恋愛を封印するという意味では正しいことね」
「慣習……ということですか」
「ええ、そういうことね。過去にも側室の立場の者を一番愛した国王が居たらしいし」
「私はそれを納得するわけにはいきません……」
「ウィンスタート……」
彼は……ウィンスタートは私を憐れんでいるのかもしれない。決して逃れることの出来ない王妃という呪縛からの解放……それを与えようとしているのだ。
「スザンヌ様……私と逃げていただけませんか? 王族と言う肩書きが消えたとしても、あなた様を幸せに出来る甲斐性はあると自負しております!」
これはおそらく事実だ。周辺国家を超えた遠くの国に行けば、正体がバレることはまずないだろう。私とウィンスタートの二人であれば、暮らしていけるだろうし。特にウィンスタートの能力があれば大金の獲得も夢ではないはず。
「そうね、ウィンスタート……それは決して、悪くないことだと思うわ。ネプトには振られたも同然なのだし。アーチェとネプトの二人の間には、私は不要だったのよ」
争いの火種になりかねない者は消えた方が良い……それは間違いがなかった。私が姿を隠せば、アーチェがおそらくは正妃として迎え入れられるだろう。それとも、本当の意味での仮面夫婦として適当な貴族が正妃として宛がわれるか。
贅沢な暮らしが目的で、対外的な対応だけはしっかりとこなせる貴族令嬢は多いはず。本来ならばそういう者が正妃になるのが理想的だ。私はそう言う意味で理想的な正妃にはなれなかった。彼に恋をしてしまったばかりに。自分の中に呪縛を生んでしまったのだ。
「いいかもしれないわね、ウィンスタート。あなたとどこまででも逃げるのも……」
「スザンヌ様……! それでは……!」
「夜逃げ……ふふふ、しばらくマクスレイ王国は混乱するでしょうけれど……面白そうね」
私はこの時、深く考えることを止めていた。ウィンスタートと二人で逃亡し、人並みの幸せを手にしたい。それだけを考えていたのだから。そのくらいの願いは許されるはず……それだけを考え、私達は行動を移すことになる。
「スザンヌ様……ご無礼をお許しください」
「いきなりどうしたの、ウィンスタート?」
相変わらず、彼は影のように私の前に現れた。素早い行動は流石だけれど、少し驚かされることもある。
「私と逃げませんか?」
「……!? どういう意味かしら?」
ウィンスタート・ドルチェは淡々と……そして、ハッキリと言った。ここが誰も居ない書斎でなければ大問題になっていた一言かもしれない。
「失礼致しました。アーチェ様がネプト国王陛下の側室になるという話を聞いて、どうしてもこの話をしておきたかったのです」
「一緒に逃げる、というのは穏やかな話ではないわね」
どういう意味かは理解しているつもりだ。彼が……ウィンスタートが私を一人の女性として愛していることは、以前から分かっていたことだから。それが今、自惚れなんかではないことが分かったのだ。
「私はネプト様とアーチェ様の世界にスザンヌ様が入ることを受け入れることが出来ません。きっと、ネプト様はアーチェ様のみを愛するでしょうから」
「それは元々分かっていたでしょう? 相手がアーチェでなくても変わらないわ。私とネプトは仮面夫婦でなければならなかったのだから……それを若さゆえに破ってしまった。ネプトが側室を招き入れる現状はおかしなことではないのよ。むしろ、私との恋愛を封印するという意味では正しいことね」
「慣習……ということですか」
「ええ、そういうことね。過去にも側室の立場の者を一番愛した国王が居たらしいし」
「私はそれを納得するわけにはいきません……」
「ウィンスタート……」
彼は……ウィンスタートは私を憐れんでいるのかもしれない。決して逃れることの出来ない王妃という呪縛からの解放……それを与えようとしているのだ。
「スザンヌ様……私と逃げていただけませんか? 王族と言う肩書きが消えたとしても、あなた様を幸せに出来る甲斐性はあると自負しております!」
これはおそらく事実だ。周辺国家を超えた遠くの国に行けば、正体がバレることはまずないだろう。私とウィンスタートの二人であれば、暮らしていけるだろうし。特にウィンスタートの能力があれば大金の獲得も夢ではないはず。
「そうね、ウィンスタート……それは決して、悪くないことだと思うわ。ネプトには振られたも同然なのだし。アーチェとネプトの二人の間には、私は不要だったのよ」
争いの火種になりかねない者は消えた方が良い……それは間違いがなかった。私が姿を隠せば、アーチェがおそらくは正妃として迎え入れられるだろう。それとも、本当の意味での仮面夫婦として適当な貴族が正妃として宛がわれるか。
贅沢な暮らしが目的で、対外的な対応だけはしっかりとこなせる貴族令嬢は多いはず。本来ならばそういう者が正妃になるのが理想的だ。私はそう言う意味で理想的な正妃にはなれなかった。彼に恋をしてしまったばかりに。自分の中に呪縛を生んでしまったのだ。
「いいかもしれないわね、ウィンスタート。あなたとどこまででも逃げるのも……」
「スザンヌ様……! それでは……!」
「夜逃げ……ふふふ、しばらくマクスレイ王国は混乱するでしょうけれど……面白そうね」
私はこの時、深く考えることを止めていた。ウィンスタートと二人で逃亡し、人並みの幸せを手にしたい。それだけを考えていたのだから。そのくらいの願いは許されるはず……それだけを考え、私達は行動を移すことになる。
5
お気に入りに追加
3,625
あなたにおすすめの小説
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる