上 下
42 / 60

42話 ネプトの想い

しおりを挟む
「フォルセ……お前の言いたいことはよく分かった」

「はい、ネプト様……それで如何でございますでしょうか?」


 フォルセは本当にネプト様が断ってくれることを望んでいるようだ。彼からしても、ネプト様は昔から兄のように映っていたはずだけれど……それでも、先ほどの言葉を曲げるつもりはないということか。

 何よりもフォルセのここまで真剣な表情は、今まで見たことがなかったから。


「私が意見を変えることは簡単だ、前の告白はなしにして欲しいというだけで終わりだからな」

「左様でございますね、ネプト様。それでは、それを実行に移していただけませんでしょうか?」

「フォルセ……」


 ネプト様は無言になっていた。私への告白をなしにするのを躊躇っているのだろうと思うけれど……。


「あの、ネプト様……よろしいでしょうか?」

「どうかしたのか、アーチェ?」

「ネプト様は……その、告白の件について、破棄するお考えはあるのでしょうか?」

「そうだな……私も自分の我が儘を押し通し過ぎたかもしれない、と反省しているところだ」


 私はネプト様をフォローするつもりで割り込んだのだけれど、意外にもネプト様はフォルセの意見に賛同しているようだった。

「で、では……私を側室として迎えるという話は……」


 なしになってしまうのだろうか? 私はまだ、あの時の告白の答えを出したわけではないけれど。私の心の中では大きな胸騒ぎがしていた。


「寂れた教会に来れたタイミングだったのだし……側室の件を改めるには本当に丁度良い機会なのかもしれないな」

「ネプト様……そんな……」


 私は正直に言って、彼と一緒になる選択肢を選ぶつもりだった。スザンヌ様とも会話が出来たのも大きいけれど、側室としてのルールに則り、共に過ごして行こうと……。

 でも、ネプト様はフォルセの意見を聞いて考えを改めつつあるようだ。寂れた教会を背景として見ているのも、その選択に拍車を掛けているのかもしれない。


「アーチェ、私の方から告白しておいて、誠に申し訳ないのだが……側室の件は一旦、白紙に戻してくれないか?」


 ネプト様からの無慈悲な言葉と言えるだろうか……国王陛下である彼からの言葉を否定することは、私には出来なかった。自然と涙が私の頬から流れ出てしまう……ネプト様には見られたくなかったけれど、こればかりはどうしようもなかった。

 ウォーレスやニーナに引き続き、ネプト様までも私の元から去ってしまうのだろうか……それは想像以上に悲しいことだった。でも、伯爵令嬢でしかない私では、どうすることも出来ないだろう。

 と、そんな風に考えていると……ネプト様が言葉を続けた。


「もう一度、初めから開始していこう。この寂れた教会で出会った時の私と君みたいに……側室の話はまた、時間を置いてからでも問題はないだろうしね」

「……ネプト様?」


 悲しみからの光明が見えた瞬間だった。


「最初から始めるというのは、お言葉の通りと受け取ってもよろしいのでしょうか?」

「もちろんだよ、アーチェ。君さえ良ければだが……お互いに親交を深めていこうじゃないか」

「はい! よろしくお願いいたします……!」

「こちらこそ」


 私の涙はいつの間にか、嬉し涙に変わっっていた。何年先になるか分からないけれど、ネプト様と一緒になるチャンスがあるということなのだから。それだけでも本当に喜ばしいことだったのだ。

「こんな落としどころでどうだろうか、フォルセ?」

「概ね問題ないかとは思いますが……お二人が親交を重ねている間に、アーチェ姉さまに貴族の恋人が出来たとしても仕方がない、という考えでよろしいでしょうか?」

「ああ、それで構わないよ」

「畏まりました、ネプト様。そういうことであれば、納得いたします」


 フォルセの最後の質問がやや不穏ではあったけれど、ネプト様の言うようにいい感じの落としどころだったのではないだろうか? 寂れた教会の前でのリセット宣言というのも、運命を感じてしまうわ。

 あとは……ジョンの墓参りに行かないとね。本人は死亡していないので、張りぼてのお墓になるんだろうけれど。
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

盲目の公爵令嬢に転生しました

波湖 真
恋愛
2021年4月27日より青神香月先生によるコミカライズ版が始まりました。 とっても素敵な作品です! 是非コミカライズ版もご覧ください! ------------- 2020年10月第二巻で完結しました。 11月21日よりお礼番外編をアップいたします。 ーーーーーー 2020年3月に刊行いたしました。 書籍化あたり、該当部分を下げさせていただきました。 よろしくお願いします 書籍化のお礼にSSを追加しました。 本当にありがとうございました! -------------- 十八歳で病気で死ぬ直前に転生したいと願ったら出来ました。ただし盲目でした。少しずつ前世の常識とのギャップを感じる中アリシアの婚約者を狙う令嬢が現れてしまいました。そんな公爵令嬢の転生物語。 二日に一度の更新です。 宜しくお願いします。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...