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40話 寂れた教会 その1
しおりを挟む「ネプト様、本当に申し訳ございませんでした……お付き合いいただいて……」
「気にすることはない、アーチェ。まあ、君の方から教会に付いて来て欲しいと言われた時は驚いたが……」
私とネプト様、フォルセの3人は馬車に乗って、例の寂れた教会に向かっていた。この7年間でスラム街周辺の治安はマシになっているとはいえ、出来るだけ目立たない格好で向かっている。馬車も王族御用達の物ではなく、一般的な馬車だ。それでも、スラム街に馬車が来るのはめずらしいと言えるだるか。
目立たない格好をしているのは、住んでいる人々に襲われることを懸念してとかそういったことではない。護衛もちゃんと付いているので、むしろその点に関しては万全だ。
「この数年で多少はマシになったとはいえ……やはり、スラム街はまだまだ差別的な印象がある場所だな」
「そうなんですね……」
「……」
差別的な場所……そんなネプト様の言葉に、フォルセは無言になりながら外を眺めていた。何か思うところがあるのだろうか。
「当時は王位継承を控えた時期でもあったからな。変装をして来たのは、懐かしい思い出だよ」
当時のネプト様は王子殿下であった。スラム街を救う目的で視察を繰り返していたようだけれど、それがバレてしまうと、ネプト様に敵対する貴族が騒ぐ可能性がある。汚れたスラム街にネプト様が向かっていたという風に言って……だからこそ、彼はジョンという一般人を演じていたわけね。
これは前にも聞いたけれど、王族にとって、スラム街に来るだけで当時は大変だったのだと、改めて分かった気がした。
馬車はそのままスラム街を進み続け、現在は進入禁止になっている寂れた教会が見えて来た。
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「寂れた教会、というよりは崩れた教会……ですね」
「そうだな、フォルセ。基本的には改修工事などは行われていないからな。進入禁止の札が立っているだけで、実質的には放置されているのが現状か」
私にとってはジョンと遊んだ思い出の聖地なのだけれど……崩落もあった為に、あの頃よりも風化しているようだった。でも、懐かしさは変わらない……あの時の楽しかった思い出が蘇るようだった……あの時は、ニーナやウォーレスとも仲が良かったのよね。
「……」
「フォルセ、どうかしたの?」
「お二人にとっては思い出の地なのかもしれませんが……私にとっては、とても思い出の地とは考えられません。申し訳ございませんが」
「……フォルセ?」
フォルセの変化にネプト様も気付いたようだ。一体、どうしたのかしら……? フォルセは寂れた教会を前にして豹変している雰囲気さえあったのだ。
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