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38話 見えてくるモノ その1
しおりを挟む「さてと……国王陛下の側室になる可能性のある者に対して、建前で話すのは失礼だったわね」
「す、スザンヌ様……?」
側近であるウィンスタートさんに言われた影響もあるのだろうけれど、彼女の雰囲気は先ほどまでとは明らかに違っていた。なんというのか……王妃様の貫禄が出ているというか。
本当に22歳なの、このお方は……?
「王室、王家、王族……様々な呼び方はあるけれど、いわゆる王家というものは決して一枚岩ではないわ」
「は、はい……様々な派閥や、味方になっている貴族も、王子殿下ごとに違うというのは存じております」
「そうね。アーチェの言っているのは王子同士の王位継承争いのことだろうから、今は少し違うけれどね」
「そ、そうでしたね……申し訳ございません」
そうだった……王位継承争いは今は起きようはずもないことだった。ネプト様が22歳という若さで即位されているのだから。起こり得るとすれば……私やスザンヌ様の子供が生まれた時だろうか?
「私にも今は陛下……ネプトとの子供は生まれていないけれど、もしも私とあなたで男の子が生まれた場合、王位継承争いの火種にはなるでしょうね」
「い、いえ……でも、通常は王妃様であるスザンヌ様のお子様が選ばれるはずではございませんか?」
「ふふ、まだまだ考えが甘いわねアーチェ。そう簡単にはいかないからこその王家なのでしょう? 後ろ盾など、様々な要素がそこには絡んでくるわ」
「あ、そういえば……」
当り前の話だけれど、順当に子供が生まれた場合でも第一王子殿下が国王陛下になるとは限らないわけだ。それに、もしかしたら私の方が先に子供を産んでしまうかもしれないのだし。
「もしも、私のネプト様の間に子供が生まれたとしても……王位継承権を与えない方法も考えられるのではないでしょうか?」
「その方法はこの王国では慣例とは言えないわ。王家の一夫多妻制を重んじている国でもあるのだし。これは私達の世代よりはるか昔からの慣例ね。マクスレイ王家を1000年以上存続させるというご先祖様の悲願から始まったのよ」
「1000年以上……」
マクスレイ王国は建国して200年程度しか経っていない。まだまだ先は長いということね……。
「まあ、細かいことは良いとして。ネプトの心はあなたに向いているのは間違いないわ。それに対して、私は嫉妬をしている……でも、あなたが覚悟を決めて側室になる、あの人と一緒になると言うのなら、私は全力でサポートをするわよ? 様々な派閥からの介入などもあるだろうけれど……その辺りは使用人からの教育も含めて万全にやっていくわ」
「スザンヌ様……」
「アーチェ、あなたはあなたが幸せになれる最善手を考えた方が良いと思うの。ネプトと一緒になること……愛を全てに優先することは果たして、あなたの今後の幸せに繋がるかしら?」
「……」
私は即答できなかった。スザンヌ様がおっしゃった内容はほんの一部でしかないはずだ。私が王家に入る場合、色々な覚悟が必要になるだろう。それらを全て背負ってネプト様……初恋の相手であるジョンと一緒になる。
私はもう一度よく、考える必要がある気がしてしまった。お父様やフォルセへの相談……フォルセは反対しそうだけれどね。それから……あの、寂れた教会へも行ってみた方が良いのかもしれない。原点へと戻り、精査する。それが今の私の課題だ。
「アーチェ……あなたはこの7年間、色々と大変な目に遭ったでしょう? ノーム伯爵家と懇意にしている家の者との婚約を考えても良いと思うの。もちろん、例の幼馴染ではなくてね。あなたが少しでもその方面を望むのなら、私が探してあげても良いわよ?」
スザンヌ様は本心で言っているのか、それともネプト様を取られたくないだけなのか、判断が出来なかった。いえ、そんな言い方は失礼ね。もしも私が望んだ場合、相手を探してくれるというのは事実だろうから。
私はスザンヌ様を見据える……現状での想いを、そしてネプト様に対する愛情を彼女に伝えなければならない。
私は大きく深呼吸をして────。
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