上 下
2 / 60

2話 弟と舞踏会へ

しおりを挟む
 アーチェ・ノーム伯爵令嬢と、ウォーレス・ミリエーター伯爵令息の婚約解消の噂は貴族の間で噂されるようになっていた。私は舞踏会に出席していたのだけれど、周囲の何名かは私を見ながらヒソヒソと囁いている。

 あの婚約破棄の日から10日程度……国民の間では噂話は75日は続くとか言われているから、まだまだかかりそうね。

「姉上……ウォーレス様との婚約解消は非常に残念かと思われますが、気持ちの切り替えも重要かと存じます」

「フォルセ……そう言って貰えると励みになるわ。ありがとう」

「いえ、勿体ないお言葉でございます」


 私と一緒に舞踏会に出席しているのは私より1つ年下の弟であるフォルセ・ノーム伯爵令息だ。今年で16歳になる。二枚目と武術の能力の高さで、貴族令嬢に人気があったりする。先ほども声を掛けられていたしね。

「私の心配をしてくれるのは有り難いけれど、あなたはあなたでお嫁さん候補を見つけなさいよ?」

「それは分かっております。しかし……自分程度では、なかなか女性を振り向かせることが叶わず……」

「……」

 どの口が言っているのだろうか……この弟は朴念仁と言っても良いくらいに、恋愛方面では察しが悪い。謙虚なことは魅力でもあるんだけれど……時にはトラブルの原因になるかもしれないわけで……。

「自分もアーチェ姉さまのように、異性に困らない人柄というものを身に付けたいものです」

「あのね、フォルセ……誰が異性に困らないって?」


 私は信頼していた幼馴染のウォーレスと婚約解消をしたばかりだ……とても異性に困らない生活が出来ているとは思えない。まったく、この弟は……自分が先ほども何名かの貴族令嬢に声を掛けられたことを忘れているのね。そう考えると、さっきの貴族令嬢数名は可哀想に思えてしまう……。

「あなたは知らないところで敵を作らないようにね」

「姉さま……?」


 フォルセは意味が分からないといったような表情をしていたけれど、とりあえず私の意見は話したから良しとしようかな。

「それにしても……フォルセ」

「はい、なんでしょうか? 姉さま」

「あなたが気分転換に、と連れて来てくれた舞踏会だけれど……」


 フォルセはこの舞踏会への参加を頑なに推奨していた。私も最初は断っていたけれど、弟のあまりの頼みに私も折れるしかなかったのだ。見たところ普通の舞踏会と変わりないように思える……なんでフォルセはあんなに推奨していたのか。

「あ……それは、ええと……」

「フォルセがあそこまで推奨してくるなんて、普段ならあり得ないわよね? 何かあると踏んではいたのだけれど……」

「ええとですね……実は……」


 フォルセはあからさまに言いにくそうにしていた。彼はその直後に舞踏会場の入り口付近を指差していた。私もそちらの方向に視線を合わせるけれど……。なんとそこには、信じられない人の姿が。

「嘘……あれって、ネプト・マクスレイ国王陛下!?」

「ええ、そのまさかです……」


 あまりのサプライズに舞踏会に参加していた全ての貴族がざわついていた。当たり前だ、いきなり国の最高権力者が姿を現したのだから。しかも、ネプト国王陛下は私にとってはそれだけの人物ではなかった。

「どうですか、姉さま……少し、元気になりませんか?」

「ま、まあ……そうかもしれないわね……でも、いきなり過ぎて……」


 ネプト国王陛下は現在、22歳という若さだ。私とはその……昔馴染みのような関係性があったりする。それだけに私の心臓の高鳴りは一段と増していた。
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

処理中です...