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1話 婚約者と婚約解消いたしました

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「アーチェ、ニーナと君は本当に正反対の性格をしているね」

「ウォーレス? いきなりどうしたの?」


 婚約者であるウォーレス・ミリエーター伯爵令息は、急に私に話しかけて来た。いきなりのことだったので、私は少し戸惑っていた。ニーナがどうしたというのだろうか?

 ちなみにニーナというのは、私達の幼馴染だ。私達3人は幼馴染という関係でもあった。


「アーチェは明るくで活発なのが長所だけど、お淑やかさが足りていない。その点、ニーナはお淑やかで静かだ。貴族令嬢としては、ニーナを好きになる者は多いだろうね」

「なによそれ……まあ、分からなくはないけれど」


 ニーナ・オルスタイン伯爵令嬢は確かにお淑やかな美人。舞踏会でも毎回、他の貴族からダンスに誘われる程に人気がある。私もウォーレスと婚約する前まではダンスに誘われる時はあったけれど、ニーナ程ではなかったわね。


「ウォーレスは何が言いたいわけ?」

「私は婚約する相手を間違えたのかもしれないと思ってさ」

「なんですって……?」


 少しだけ聞き捨てならない言葉が、私の耳に届いて来た。冗談なのだとしても、かなり性質の悪い冗談だ。


「ウォーレス、聞き間違いではないわよね? 私との婚約が間違っていた、とも聞き取れるんだけれど……」

「そう言ったつもりだけど? 私はニーナと婚約をしておくべきだったと思うよ。君は明るくて美人ではあるけれど、私の趣味ではなかった……」

「ちょっと、何よいまさら……!」

 ウォーレスと婚約して3か月くらいが経過している。その間にも彼との仲は深まっていたと認識していたけれど、それはどうやら勘違いだったようだ。それにしても信じられない……ウォーレスがこんなことを言うなんて。

「そんなにニーナのことが好きなら、婚約解消でもしてみる?」

 半ば冗談と言うか、皮肉も交えて言った言葉だったけれど……ウォーレスは強く頷いていた。えっ、どういうこと……?

「ああ、それが良いと思うんだ。まさか、アーチェの方から言ってくれるとは思わなかったよ。非常に残念だけれど、婚約解消をしようか」

「……嘘でしょ?」

「嘘なんかじゃないさ、第一、君が今言ったんじゃないか」


 それは確かにそうだけれど、まさかこんなに簡単に承諾されるとは思っていなかった。ウォーレスの中では、私への愛情なんてとっくに消えていたのかしら……? もしもウォーレスが私と婚約解消をした場合、その後のことは簡単に予想が出来た。まだ、婚約者の居ないニーナに求婚するに決まっている。

「本当に残念だけれど……アーチェが婚約解消を望むなら、仕方がないね。私は君の想いを尊重することにするよ」

「ウォーレス……」

 話はどんどんと先に進んでいき、私とウォーレスの婚約解消は最早、避けられないところまで来てしまった。これは、ウォーレスが婚約解消を強く望んでいたことを意味する。

 こうして私は、幼馴染のウォーレスから捨てられることになってしまった。幼馴染なんて言えば聞こえは良いけれど、実際は他人同士と変わらない絆だったわけね。

 私の冗談を含めた言葉で婚約解消が成立してしまうなんて……とても想像出来なかったから。
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