52 / 60
52話 閑話 フューリとレオーネ
しおりを挟む
「エドモンド様との対決……それを前にしてるのはいいんだけれど」
「なにか言ったか? レオーネ?」
「いいえ、なんでもないわ。フューリ……」
本日はフューリとのデートだった。いえ、それよりも少し進んだ関係というか……。私達は貴族街にある、とある宿に泊まっていた。貴族専用の宿屋だ。
「フューリ……こういう部屋に来るのは、流石にまずいんじゃないかしら……色々と……」
ビクティム侯爵やエドモンド様の一件が解決していない状況。息抜きとして、フューリと過ごすのはとても嬉しいことなんだけど……これは飛躍しすぎているというか。
「まあ、なにか間違いが起こるわけでもない。同じ部屋で寝泊りするだけじゃないか」
「えっ? 何もしないの……?」
「えっ……? レオーネ……?」
し、しまった……とんでもないことを口走ってしまった気がする。フューリは珍しく、呆気に取られている表情になっていた。ち、違うのよ……別に、望んでたとか期待していたとかじゃなくて……! そうよ、この雰囲気が全部悪いのよ……私の思考力を低下させているわ。
「ち、違うのよ……別に変な意味じゃなくて……!」
「そうか。レオーネは望んでいたのか……それは悪いことをしてしまったかな」
「あの~、フューリ? 聞いているかしら?」
ダメだ……フューリは私の話を聞いていない。彼としても緊張しているのか、まともな思考になっていない様子だった。もっとも、部屋に二人きりの状況で余裕の態度だったとしたら、それはそれで困るのだけれど。
「とりあえずレオーネ。シャワー浴びてきたらどうだい?」
「いえいえいえ、考え方がおかしいから!」
「ははは、大丈夫だよ。何もしないからさ」
「それはそれで、女性として沽券に関わるんだけど……」
シャワーを浴びてきてと言われて、それで何もされないという状況は……あんまり嫌かもしれない。でも、流石に正式に結婚してないのに、王太子殿下とそういう関係になるわけにはいかないし。
私はしばらくの間、モヤモヤした感情に囚われていた。
---------------------------------------------------
……緊張の瞬間は訪れていた。
「フューリ……流石に緊張を通り越してるんだけど……」
「嫌かな? こういうのは」
「そ、そんなことはないけれど……」
私達は食事やお風呂を済ませた後、寝間着に着替えて同じベッドに寝ていた。フューリの吐息が聞こえる時点で意識が朦朧としてしまいそうだ。しかも、お互いにお風呂上りで寝間着というのが……ちなみに、お風呂はそれぞれ個人で入った。
「……」
「……」
互いに無言の時間が続いている……何かのきっかけがあれば、そのまま最後までやってしまいそうな雰囲気だ。護衛達は室内には居ないので、完全に二人きりになっているのが怖いというか。
「ね、ねえ……フューリ!」
「な、なにかな……? レオーネ?」
フューリも緊張しているような態度だった。とりあえず無言状態が続くのはまずいので、私は話を続けることにする。
「エドモンド様との対決なんだけれど……」
「ああ」
この状況でエドモンド様の話は出したくない。せっかく、大好きなフューリと二人きりなんだし。でも、それ以上に私の精神が持ちそうになかったので、切り出すことにする。私の方がその気になって暴走しても大変だしね。
「レオーネは心配しているのか? 俺がエドモンド・デューイに負けるかもしれないと」
「いえ……そんなことは」
久しぶりに聞いた気がする。フューリの一人称「俺」という言葉を。彼が俺というのは私の前以外ではまずあり得ない。それだけで、幸せな気分になっていた。
「フューリのことだから、圧倒的に勝利すると信じているわ」
「そうか……それなら嬉しいよ。ご期待に添えるように努力するまでだ」
「ええ、期待しているわ」
肩の力が抜けた気がした。やっぱりフューリとは、こういう雰囲気で話すのが合っているわね。その日は特に何事もなく終了し、お互い寄り添いながら眠ることに成功した。
でも……本格的に彼と婚約し、結婚することになれば……そういうことが起こるのよね? 考えるだけで赤面してしまうわ。
「なにか言ったか? レオーネ?」
「いいえ、なんでもないわ。フューリ……」
本日はフューリとのデートだった。いえ、それよりも少し進んだ関係というか……。私達は貴族街にある、とある宿に泊まっていた。貴族専用の宿屋だ。
「フューリ……こういう部屋に来るのは、流石にまずいんじゃないかしら……色々と……」
ビクティム侯爵やエドモンド様の一件が解決していない状況。息抜きとして、フューリと過ごすのはとても嬉しいことなんだけど……これは飛躍しすぎているというか。
「まあ、なにか間違いが起こるわけでもない。同じ部屋で寝泊りするだけじゃないか」
「えっ? 何もしないの……?」
「えっ……? レオーネ……?」
し、しまった……とんでもないことを口走ってしまった気がする。フューリは珍しく、呆気に取られている表情になっていた。ち、違うのよ……別に、望んでたとか期待していたとかじゃなくて……! そうよ、この雰囲気が全部悪いのよ……私の思考力を低下させているわ。
「ち、違うのよ……別に変な意味じゃなくて……!」
「そうか。レオーネは望んでいたのか……それは悪いことをしてしまったかな」
「あの~、フューリ? 聞いているかしら?」
ダメだ……フューリは私の話を聞いていない。彼としても緊張しているのか、まともな思考になっていない様子だった。もっとも、部屋に二人きりの状況で余裕の態度だったとしたら、それはそれで困るのだけれど。
「とりあえずレオーネ。シャワー浴びてきたらどうだい?」
「いえいえいえ、考え方がおかしいから!」
「ははは、大丈夫だよ。何もしないからさ」
「それはそれで、女性として沽券に関わるんだけど……」
シャワーを浴びてきてと言われて、それで何もされないという状況は……あんまり嫌かもしれない。でも、流石に正式に結婚してないのに、王太子殿下とそういう関係になるわけにはいかないし。
私はしばらくの間、モヤモヤした感情に囚われていた。
---------------------------------------------------
……緊張の瞬間は訪れていた。
「フューリ……流石に緊張を通り越してるんだけど……」
「嫌かな? こういうのは」
「そ、そんなことはないけれど……」
私達は食事やお風呂を済ませた後、寝間着に着替えて同じベッドに寝ていた。フューリの吐息が聞こえる時点で意識が朦朧としてしまいそうだ。しかも、お互いにお風呂上りで寝間着というのが……ちなみに、お風呂はそれぞれ個人で入った。
「……」
「……」
互いに無言の時間が続いている……何かのきっかけがあれば、そのまま最後までやってしまいそうな雰囲気だ。護衛達は室内には居ないので、完全に二人きりになっているのが怖いというか。
「ね、ねえ……フューリ!」
「な、なにかな……? レオーネ?」
フューリも緊張しているような態度だった。とりあえず無言状態が続くのはまずいので、私は話を続けることにする。
「エドモンド様との対決なんだけれど……」
「ああ」
この状況でエドモンド様の話は出したくない。せっかく、大好きなフューリと二人きりなんだし。でも、それ以上に私の精神が持ちそうになかったので、切り出すことにする。私の方がその気になって暴走しても大変だしね。
「レオーネは心配しているのか? 俺がエドモンド・デューイに負けるかもしれないと」
「いえ……そんなことは」
久しぶりに聞いた気がする。フューリの一人称「俺」という言葉を。彼が俺というのは私の前以外ではまずあり得ない。それだけで、幸せな気分になっていた。
「フューリのことだから、圧倒的に勝利すると信じているわ」
「そうか……それなら嬉しいよ。ご期待に添えるように努力するまでだ」
「ええ、期待しているわ」
肩の力が抜けた気がした。やっぱりフューリとは、こういう雰囲気で話すのが合っているわね。その日は特に何事もなく終了し、お互い寄り添いながら眠ることに成功した。
でも……本格的に彼と婚約し、結婚することになれば……そういうことが起こるのよね? 考えるだけで赤面してしまうわ。
10
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる