47 / 60
47話 しゃべり過ぎた男 その1
しおりを挟む
(ビクティム侯爵視点)
「あははははは、なるほどなるほど、それは面白いですね……!」
「そうだろう? ふははははははっ」
私たちはその日、酒を飲みながらチェスを続けていた。気分が良くなった私はついつい、ザイールに事情を話してしまう。まあ、他に誰が聞いているわけでもない。特に問題はないだろう。
「エドモンド・デューイ殿……なるほど、あなたの叔父上の権力で管理者になれ、あなたは爵位をはく奪された身でありながら、事実上は自由の身と変わらない。特に労役も課されることはない、という仕組みですね」
「大まかな流れとしては、そんなところだな」
「なるほど……ふむふむ。非常に興味深い話ですね」
ザイールはかなり頭の回転が早い人物のようだ。一度しか言っていない私の話を上手く整理し、直後に道筋を正確に追うように話しているのだから。なるほど、こんな辺境地の管理人で終わる人間ではないようだな。まさに、私の片腕に相応しい人物かもしれない。話も合うしチェスという共通の趣味もある。
「しかし、エドモンド様の権力はとてつもないですね。ビクティム殿の罪を実質的に失くしたようなものですから」
「それは……確かにその通りかもしれんな」
婿養子という立場ではあったが、確かに叔父上の権力は相当に高いという認識だ。流石は公爵といったところかもしれないな。叔父上のおかげで現在の私の立場がある……全く、感謝してもし切れないとはまさにこのことだろうな。
爵位をはく奪されると地下牢で聞かされた時はどうしようかと思ったものだが……侯爵であったこの私が、そんな惨めな人生を送るはずはないのだ。神は私を見てくれているのだろう。いや、違うな……私こそが神なのかもしれん。
「どうかしましたか、ビクティム殿?」
「いや、なんでもない。少し神の話を思い出したまでだ……」
「神……ですか?」
「ああ、爵位をはく奪された私ではあるが、成功の道は約束されている……地下牢で無礼を働いた兵士どもはさぞや、悔しがっているだろうと思ってな」
「なるほど……つまりは、あなたが神にも等しい存在だった、と?」
「まあ、そんなところだ……おっと、臭かったかな」
「いえいえ。ビクティム殿にしか言えないセリフかと思われます」
ふふふふ……しかし、ザイールは若いのに私を持ち上げる技量も申し分ないと完璧かもしれないな。これで女であれば……惜しい。私はそっち方面の気はないので、非常に惜しいとしかいいようがない。
「ん?」
と、そんな時だった……なにやら、管理棟が騒がしくなっていた。なんだ? 今、何時だと思っている……私の護衛をしている叔父上の配下たちも休んでいるはずだが。
「なんなのだ、一体?」
「さて……なんでしょうかね……?」
その騒がしさは、私たちに近づくように大きくなっていった。そして……扉が開かれる。
「ビクティム・クラウスか……久しぶりだな」
「馬鹿な……フューリ王太子殿下……!? それに、レオーネも……!」
「お久しぶりです、ビクティム様」
わざとらしく、深々と挨拶をするレオーネだった。その表情は勝ち誇ったような……そんな忌々しい表情になっている。馬鹿な……いくら王太子殿下といえども、この辺境地に簡単に乗り込むことは出来ないはず。私には何がなんだか分からなかった……。
「あははははは、なるほどなるほど、それは面白いですね……!」
「そうだろう? ふははははははっ」
私たちはその日、酒を飲みながらチェスを続けていた。気分が良くなった私はついつい、ザイールに事情を話してしまう。まあ、他に誰が聞いているわけでもない。特に問題はないだろう。
「エドモンド・デューイ殿……なるほど、あなたの叔父上の権力で管理者になれ、あなたは爵位をはく奪された身でありながら、事実上は自由の身と変わらない。特に労役も課されることはない、という仕組みですね」
「大まかな流れとしては、そんなところだな」
「なるほど……ふむふむ。非常に興味深い話ですね」
ザイールはかなり頭の回転が早い人物のようだ。一度しか言っていない私の話を上手く整理し、直後に道筋を正確に追うように話しているのだから。なるほど、こんな辺境地の管理人で終わる人間ではないようだな。まさに、私の片腕に相応しい人物かもしれない。話も合うしチェスという共通の趣味もある。
「しかし、エドモンド様の権力はとてつもないですね。ビクティム殿の罪を実質的に失くしたようなものですから」
「それは……確かにその通りかもしれんな」
婿養子という立場ではあったが、確かに叔父上の権力は相当に高いという認識だ。流石は公爵といったところかもしれないな。叔父上のおかげで現在の私の立場がある……全く、感謝してもし切れないとはまさにこのことだろうな。
爵位をはく奪されると地下牢で聞かされた時はどうしようかと思ったものだが……侯爵であったこの私が、そんな惨めな人生を送るはずはないのだ。神は私を見てくれているのだろう。いや、違うな……私こそが神なのかもしれん。
「どうかしましたか、ビクティム殿?」
「いや、なんでもない。少し神の話を思い出したまでだ……」
「神……ですか?」
「ああ、爵位をはく奪された私ではあるが、成功の道は約束されている……地下牢で無礼を働いた兵士どもはさぞや、悔しがっているだろうと思ってな」
「なるほど……つまりは、あなたが神にも等しい存在だった、と?」
「まあ、そんなところだ……おっと、臭かったかな」
「いえいえ。ビクティム殿にしか言えないセリフかと思われます」
ふふふふ……しかし、ザイールは若いのに私を持ち上げる技量も申し分ないと完璧かもしれないな。これで女であれば……惜しい。私はそっち方面の気はないので、非常に惜しいとしかいいようがない。
「ん?」
と、そんな時だった……なにやら、管理棟が騒がしくなっていた。なんだ? 今、何時だと思っている……私の護衛をしている叔父上の配下たちも休んでいるはずだが。
「なんなのだ、一体?」
「さて……なんでしょうかね……?」
その騒がしさは、私たちに近づくように大きくなっていった。そして……扉が開かれる。
「ビクティム・クラウスか……久しぶりだな」
「馬鹿な……フューリ王太子殿下……!? それに、レオーネも……!」
「お久しぶりです、ビクティム様」
わざとらしく、深々と挨拶をするレオーネだった。その表情は勝ち誇ったような……そんな忌々しい表情になっている。馬鹿な……いくら王太子殿下といえども、この辺境地に簡単に乗り込むことは出来ないはず。私には何がなんだか分からなかった……。
11
お気に入りに追加
4,205
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい
よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。
王子の答えはこうだった。
「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」
え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?!
思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。
ショックを受けたリリアーナは……。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる