侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね？

44話 ビクティムとエドモンド

(ビクティム侯爵視点)


「ビクティムよ……残念ではあるが、考えられる限りの最小の罰で済んだと言えよう」

「叔父上……何を言ってるんですか？　私は辺境地送りになったのですよ……？」


　私は現在、エドモンド・デューイ公爵の私室を訪れていた。外では兵士達が待機しており、逃げようものなら死刑になる可能性もある。私は現在、侯爵としての地位を失っている罪人扱いだからな。


「辺境地送りか……まあ、確かに納得いかないのも無理はないが、本来の罰からすればかなり軽いレベルと言えよう。父であるアーロン・クラウスへの暴力はクラウス家としても見過ごすことは難しいからな」

「くっ……」


　その通りだ……本来であれば、私は永続的な爵位はく奪となるはずだった。それを、エドモンド叔父上によって軽減されたのだ。しかし……。


「辺境地の開拓……これには納得出来ません。私は爵位をはく奪された身……他の働く者たちはこぞって私を責め立てるでしょう」


　貴族に不満を持っている一般人や罪人は多いはずだ。そこへ、爵位をはく奪された者が放り込まれればどのようになるかなど、容易に想像できる。人間らしく生き残るためには、屈辱にも耐えねばならないかもしれない。

「ああ、そのことに関しては心配することはない。既に手は打ってある」

「どういうことですか……？」

　私は叔父上の言葉の意味が理解できなかった。彼は何を言っているのだ……？


「お前は開拓地の管理者という立場に押し上げている」

「そ、それはつまり……？」

「うむ。お前は直接、開拓を行う必要はないということだ。周りにも信頼のおける護衛を配備している。管理棟で適当に楽しく生活するが良い。ほとぼりが冷めた頃を見計らって回収してやる」

「お、叔父上……！」


　なんということだ……流石は叔父上といったところか！　私の身に関しての手配も完了させ、さらに先の展開を見据えているとは。これほどまでに叔父上が頼もしく見えたのは、生まれて初めてかもしれない。


「叔父上……私が回収される先は……やはり」

「ふふ、この場で言われるな馬鹿者が」

「し、失礼いたしました……」

　そうだった……私たちの会話は聞かれていないかとは思うが、外には兵士たちが待機しているのだ。今回の叔父上との会話も、特別に許可されたものだったからな。


「ビクティムよ」

「はい、叔父上」

「お前は安心して務めを果たしてくるのだ。後の心配はせんでも良い。お前が戻ってくる頃には、すべてが変化しているだろうからな」

「はははははっ」


　私たちは互いに大笑いをしてしまった。すべてはエドモンド・デューイの手の内にあるのだ。レオーネやダンテ伯爵、フューリ王太子殿下にメリア王女はどういう表情をしてるだろうな！

　ふははははは、ここまで約束された未来が待っていようとは逆に想定外だったが……管理棟での生活か。まあ、仕方ないほとぼりが冷めるまでは、多少窮屈だろうがそちらで過ごすとするか。ほとぼりが冷めた時には……私は新国家の重鎮というポストになっているのだろう。

　私の明るい未来はすぐそこまで来ているのだ。