上 下
12 / 12

12話 時は流れて

しおりを挟む
「そういえば、アルヴィド様はあれからどうなったのでしょうか……少しだけ気になりますね」

「ん、シルヴィア嬢。気になりますか?」

「ええ、まあ」


 バルク・キリストール辺境伯と趣味の料理研究を行いながら、私はふとアルヴィド様のことを思い出していた。この屋敷で彼を一刀両断にしたのは、今では良い思い出だ。あれから、1カ月ほどの時間が経過している。

 私達はオムライスと呼ばれる庶民的な料理に変化を加える方法を考えていた。なので、アルヴィド様の話は片手間の暇つぶしに過ぎない。でも、バルク様は知っているような素振りを見せていたので、聞いてみることにする。

「なにかご存知なのですか?」

「ライナ嬢とも別れたようです。それから……彼は当主としての地位を剥奪される恐れがあるとか」

「まあ、そんなことが……」


 ということは、1カ月前の件が響いているのは間違いなさそうね……あれだけのことをやらしかたのだから、マーカス侯爵家からの制裁があったとしても驚かないけれど。

「アルヴィド様は自業自得ですけど、ライナ様もこれから大変かもしれないですね……色々と噂も流れるでしょうし」

「まあ、彼女に関しても自業自得なので、仕方がないでしょう」

「そうですね」


 今はオムライスに何をかけるかの方が重要だった。フライパンで焦げ目をつけ始めている段階だ。

「私は今度は、後悔しない婚約をしたいと思っています」

「なるほど、後悔しない……ですか」

「バルク様?」


 私は一瞬、会話が止まったので彼の顔を見据えていた。その間、フライパンからは目が離れる。


「私は……こうして、料理研究を共にする仲以上の関係になりたいと思っていますよ、シルヴィア嬢」

「ば、バルク様……!?」

 私は彼の情熱的な言葉に、思わずフライパンを落としてしまいそうになっていた。危なかった……火傷しそうになっちゃったわ。

「ええと、バルク様……? どういうことでしょうか?」

「ただの告白に過ぎませんよ、シルヴィア嬢。こういうシチュエーションでの告白はお嫌いですか?」

「あ、いえ……そんなことはありませんが……いきなりのことだったので、驚いてしまって」

「それは申し訳ありませんでした。ただし、私の言葉に嘘はありません、それを知っていただければ結構でございます」


 バルク様は軽く頭を下げている。同じ料理研究を趣味に持つお方……私としても彼の気持ちは嬉しい。貴族としてはあまり必要のないスキルだけに、運命的な出会いであるとも言えるし。何よりも、アルヴィド様を追い返した際には非常に助けになってくれた。

「ありがとうございます、バルク様。私も気持ちは同じです……バルク様と、これからも親密な関係を築いていきたいと思っています」

「それはとてもありがたいお返事です。それではまず、二人の時は敬語を省くところから始めましょうか」

「畏まりました、努力いたします」

「よろしくお願いいたします……」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします……」


 まだまだぎこちない二人と言えるだろうか? でも、将来は分からない。このままバルク様との仲が深まっていき、婚約という流れだって十分にある。私達は今、最初の一歩を踏み始めたと言えるだろうか。

 私の本音としては、バルク様といつか結婚出来れば良いと考えている。心の中は既に彼で満たされているのだ。


                                           おわり

 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(23件)

太真
2021.06.12 太真

をや❓完結おめでとうございます🎉とりあえずお馬鹿は撃退出来たし新しい恋も芽生えたしシルヴィアちゃんの未来は明るい💡恋人で仲間と一緒に生活出来るのが市場てすね( ^ω^ )

ルイス
2021.06.13 ルイス

最後まで見て頂いてありがとうございます!

解除
。
2021.06.11

5話の主催は、主食ですか?主菜ですか?
それとも別の意味があるんですか?

ルイス
2021.06.13 ルイス

すいませんでした……主菜の間違いです

解除
沙吉紫苑
2021.06.10 沙吉紫苑
ネタバレ含む
ルイス
2021.06.11 ルイス

すみません、この作品はこれで終わりです
最後まで読んでいただきありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

【完結】忌子と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢、追放され『野獣』と呼ばれる顔も知らない辺境伯に嫁ぎました

葉桜鹿乃
恋愛
「よくもぬけぬけと……今まで隠していたのだな」 昨日まで優しく微笑みかけてくれていた王太子はもういない。 双子の妹として産まれ、忌子、とされ、王家に嫁がせ発言力を高めるための『道具』として育てられた私、メルクール。 一つ上の姉として生きてきたブレンダが、王太子に私たちが本当は双子でという話をしてしまった。 この国では双子の妹ないしは弟は忌子として嫌われる。産まれたその場で殺されることもある。 それを隠して『道具』として育てられ、教育を施された私はまだ幸せだったかもしれないが、姉が王太子妃の座を妬んで真実を明かしてしまった。 王太子妃教育も厳しかったけれど耐えてきたのは、王宮に嫁ぎさえすればもうこの嘘を忘れて新しく生きることができると思ったからだったのに…。 両親、そして婚約していた事すら恥とした王室により、私は独身で社交性の無い、顔も知らない『野獣』と呼ばれる辺境伯の元に厄介払い、もとい、嫁ぐ事となったのだが、辺境伯領にいたのは淡い金髪に青い瞳の儚げに見える美青年で……? ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義にて掲載予定です。

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。

弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。 浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。 婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。 そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった―― ※物語の後半は視点変更が多いです。 ※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。 ※短めのお話です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい

たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。 王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。 しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。