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8話 尊大なアルヴィド その2

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「今更、我が妹のシルヴィアを迎え入れたいなどと……どういうおつもりですか?」

「今、言ってやっただろう? シルヴィアは私に心底惚れていたのだ。私も婚約破棄をした当時は疎ましさも感じていたが……やはり、それは間違いなんだと思い知らされた」

「よくそんな言葉が出てきますね……アルヴィド様」

「当然だ、ユグド殿には経験がないのだろうが、私程の地位の者になると別なんだよ。私を慕っていたと、いうわけでシルヴィア。もう一度、私と婚約をしてもらいたい」

 心底惚れていた……まさか、自分からそんな恥ずかしい言葉を言う人が居るなんて。しかも、自分が惚れていたわけじゃなくて、私がアルヴィド様に惚れていたという意味合いで。

 確かに婚約当初は誠心誠意、お仕えしようと思っていたし、彼に憧れの念を抱いていた。政略結婚の様相を呈した婚約だったけれど、私はそれでも幸せを感じていたのだ。


「お断り申し上げます、アルヴィド様」

「なぜだ? 私がライナを選んだことをまだ根に持っているのか?」

「普通はそうなるでしょう? 身勝手な浮気で私のことを捨てておいて、いきなり屋敷を訪れてはヨリを戻さないかと告げてくる。そんな侯爵様が他にいらっしゃるでしょうか?」

「ふん、私は他の貴族とは一線を画しているのだよ」


 あまり堪えている様子はない。皮肉を交えて話したつもりなんだけど……。この人には恥というものがないのかもしれないわね。恥とという感情を持っていれば、あれだけ盛大に振った貴族令嬢の屋敷を訪ねるはずはないのだから。

「馬鹿馬鹿しい……! マーカス侯爵家との関係は、あなたの慰謝料の支払いを持って完了しているはずです! これ以上、私の妹にちょっかいをかけるというのであれば……!」

「おや、何をするというのかな? こちらは慰謝料を支払った身だ。関係性が無くなったというのであれば、何も遠慮する必要がない、ということにもなるな。何なら追加の慰謝料を支払っても構わん」

「追加の慰謝料ですか……?」

「その通りだ、お前には何としてでも戻って来てもらいたいのでな」


 そこまで私に拘る理由が分からなかった……しかし、まったく信用する気にはなれない。あれだけ私のことを不要だと言ってのけた人だ。いつまた気が変わるか分からないし。それに……。

 と、その時だった。応接室のドアがノックされたのは。

「なんだ、来訪者か?」

「……どうぞ」


 誰がノックしたのか分からなかったけれど、お父様の可能性があると感じたのか、ユグド兄さまは入室の許可を出していた。


「失礼いたします、ユグド殿、シルヴィア嬢。お久しぶりですね、アルヴィド殿」

「あなたは……バルク・キリストール辺境伯?」

 応接室のドアが開かれ、中に入って来たのは厨房に居たはずのバルク様の姿……明らかに怒気の籠った表情をしていた。もしかして、さっきまでの話は彼に伝わっているのかもしれない。
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