1 / 15
1話 言葉の暴力
しおりを挟む「デルタ様、私はもう我慢が出来ません……!」
「はっ? 何を言っているんだ、フラウ?」
私の名前はフラウ・デリカース伯爵令嬢。セイロン王国の貴族である。目の前のソファに座っているのは、私の婚約者のデルタ・バレット侯爵様だ。私は彼に詰め寄るように話しかけていた。
「あなた様と婚約をして7カ月が経過しようとしていますが……あなた様の言葉の暴力には限界なのです」
「言葉の暴力だと? 私はお前に婚約者としての仕事をするように言っただけだと思うが?」
デルタ様は悪びれる様子もなく言うけれど、決して普通の頼み方ではなかった。他の令嬢であればおそらく、1カ月と持たずに逃げ出してしまうのではないかと言うくらい、彼の恫喝は凄まじかったのだ。
『おい、フラウ! この書類に不備が幾つかあったぞ! 何をしているんだ!?』
『フラウ、お前はもっとお洒落に出来ないのか!? 次の舞踏会までにもっと美しくなっておけ!』
『フラウ! お前は一人で生きて行ける能力を身に付けろ!』
『フラウ! フラウ!』
思い出しただけでも、恐怖が生まれてしまうくらい、彼の口調は強かった。それに……なんどか暴力も受けている。言っていること自体は正しいものもあったけれど、言い方の問題だ。あとは、明らかに理不尽な問題も彼は認めることはしなかった。
デルタ様は自分に甘く他人に厳しい典型例だと言えるだろうか。私は彼の為に無理なダイエットなどをした結果、栄養失調になりかけたこともある。医者に言わせると、私の体格は正常範囲のものなので、それ以上のダイエットは身体に悪いとさえ言われていた。
「デルタ様は私に暴力を振るわれたこともありましたよね? 物理的な……」
「だからなんだと言うのだ? まったく、伯爵令嬢の分際でそんな小さなことをいつまでも根に持ちおって……!」
「小さなこと……? 私がどれほど精神をすり減らしていたか、お分かりではないのですか……? この数カ月間、私がどんな思いで過ごしていたか。デルタ様には決して分からないと思います」
「ふん、そんなこと分かりたくもないな……まあ良い。どのみち、その程度のことで根を上げるというのなら、私の将来の妻、失格ということだ。今すぐに婚約破棄といこうじゃないか」
「こ、婚約破棄……?」
「そうだ、婚約破棄だ。お前の顔など、二度と見るつもりはない……今すぐ、荷物をまとめて出て行くんだな」
「デルタ様……」
いきなり言われた婚約破棄。私としても意外な言葉だったけれど、これは怪我の功名と言えるのかもしれない。私は予期せぬ形でデルタ様から解放されたのだから。これで精神を削られる生活を送る必要はなくなった。私は荷物をまとめ、そのまま馬車に乗せてもらい、自らの屋敷へと帰ることにする。
デルタ様の言った通り、二度と彼と接触することはないだろう……。
30
お気に入りに追加
966
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された公爵令嬢は監禁されました
oro
恋愛
「リリー・アークライト。すまないが私には他に愛する人が出来た。だから婚約破棄してくれ。」
本日、学園の会場で行われていたパーティを静止させた私の婚約者、ディオン国第2王子シーザー・コリンの言葉に、私は意識が遠のくのを感じたー。
婚約破棄された公爵令嬢が幼馴染に監禁されて溺愛されるお話です。
手のひら返しが凄すぎて引くんですけど
マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。
地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。
悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。
新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。
その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。
婚約者が幼馴染のことが好きだとか言い出しました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のテレーズは学園内で第6王子殿下のビスタに振られてしまった。
その理由は彼が幼馴染と結婚したいと言い出したからだ。
ビスタはテレーズと別れる為に最悪の嫌がらせを彼女に仕出かすのだが……。
えっ?これって王妃教育の一環じゃなかったんですか?~天然令嬢は虐められていた事に気付かない
真理亜
恋愛
王妃教育だと思って頑張っていたら...どうも違ったみたいです。
悪役令嬢の悪意に気付かない天然令嬢と、勘違い王子が巻き起こす騒動を描いた軽いコメディです。
良かったら読んでみて下さい
長編版 王太子に婚約破棄されましたが幼馴染からの愛に気付いたので問題ありません
天田れおぽん
恋愛
頑張れば愛されると、いつから錯覚していた?
18歳のアリシア・ダナン侯爵令嬢は、長年婚約関係にあった王太子ペドロに婚約破棄を宣言される。
今までの努力は一体何のためだったの?
燃え尽きたようなアリシアの元に幼馴染の青年レアンが現れ、彼女の知らなかった事実と共にふたりの愛が動き出す。
私は私のまま、アナタに愛されたい ――――――。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
他サイトでも掲載中
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
HOTランキング入りできました。
ありがとうございます。m(_ _)m
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
初書籍
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
ピンクブロンド男爵令嬢の逆ざまあ
アソビのココロ
恋愛
ピンクブロンドの男爵令嬢スマイリーをお姫様抱っこして真実の愛を宣言、婚約者に婚約破棄を言い渡した第一王子ブライアン。ブライアンと話すらしたことのないスマイリーは、降って湧いた悪役令嬢ポジションに大慌て。そりゃ悪役令嬢といえばピンクブロンドの男爵令嬢が定番ですけれども!しかしこの婚約破棄劇には意外な裏があったのでした。
他サイトでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる