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1話 言葉の暴力

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「デルタ様、私はもう我慢が出来ません……!」

「はっ? 何を言っているんだ、フラウ?」


 私の名前はフラウ・デリカース伯爵令嬢。セイロン王国の貴族である。目の前のソファに座っているのは、私の婚約者のデルタ・バレット侯爵様だ。私は彼に詰め寄るように話しかけていた。


「あなた様と婚約をして7カ月が経過しようとしていますが……あなた様の言葉の暴力には限界なのです」

「言葉の暴力だと? 私はお前に婚約者としての仕事をするように言っただけだと思うが?」

 デルタ様は悪びれる様子もなく言うけれど、決して普通の頼み方ではなかった。他の令嬢であればおそらく、1カ月と持たずに逃げ出してしまうのではないかと言うくらい、彼の恫喝は凄まじかったのだ。

『おい、フラウ! この書類に不備が幾つかあったぞ! 何をしているんだ!?』

『フラウ、お前はもっとお洒落に出来ないのか!? 次の舞踏会までにもっと美しくなっておけ!』

『フラウ! お前は一人で生きて行ける能力を身に付けろ!』

『フラウ! フラウ!』


 思い出しただけでも、恐怖が生まれてしまうくらい、彼の口調は強かった。それに……なんどか暴力も受けている。言っていること自体は正しいものもあったけれど、言い方の問題だ。あとは、明らかに理不尽な問題も彼は認めることはしなかった。

 デルタ様は自分に甘く他人に厳しい典型例だと言えるだろうか。私は彼の為に無理なダイエットなどをした結果、栄養失調になりかけたこともある。医者に言わせると、私の体格は正常範囲のものなので、それ以上のダイエットは身体に悪いとさえ言われていた。

「デルタ様は私に暴力を振るわれたこともありましたよね? 物理的な……」

「だからなんだと言うのだ? まったく、伯爵令嬢の分際でそんな小さなことをいつまでも根に持ちおって……!」

「小さなこと……? 私がどれほど精神をすり減らしていたか、お分かりではないのですか……? この数カ月間、私がどんな思いで過ごしていたか。デルタ様には決して分からないと思います」

「ふん、そんなこと分かりたくもないな……まあ良い。どのみち、その程度のことで根を上げるというのなら、私の将来の妻、失格ということだ。今すぐに婚約破棄といこうじゃないか」

「こ、婚約破棄……?」

「そうだ、婚約破棄だ。お前の顔など、二度と見るつもりはない……今すぐ、荷物をまとめて出て行くんだな」

「デルタ様……」


 いきなり言われた婚約破棄。私としても意外な言葉だったけれど、これは怪我の功名と言えるのかもしれない。私は予期せぬ形でデルタ様から解放されたのだから。これで精神を削られる生活を送る必要はなくなった。私は荷物をまとめ、そのまま馬車に乗せてもらい、自らの屋敷へと帰ることにする。

 デルタ様の言った通り、二度と彼と接触することはないだろう……。
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