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5話 周囲の反応 その2

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 私は幼馴染のリューガと一緒にパーティーに参加していた。最初は私への視線が集中すると思っていたけれど……実際、参加してみるとそうでもなかった。何か理由があるのかしら?


「メアル、どうかな? 周囲の視線は感じるかい?」

「いえ……そこまでは感じないわね」

「それなら良かった」


 リューガはこうなることを予想していたようだ。彼が事前に気を利かせてくれたのかしら? リューガは公爵令息なので、不可能ではないと思うけれど……今のリューガの反応から見ても、忖度をしたようには見えない。


「リューガ」

「なんだい、メアル?」

「あなたが何かしたというわけではないようね……」

「ああ、そうだな。私が公爵令息という地位を使って、何かをしたわけではないさ」

「ふ~ん」


 やっぱり、彼が何かしたわけではないのか……それならば、なぜ私への周囲の関心がないのだろうか? 貴族間では、噂話というのは物凄く伝わりやすいはずなのに……。

「ここまで視線を感じないのは予想外だったわ」

「私も予想外だったな。もう少し、視線が集中するかと思っていたが……」

 リューガとしても予想外だったようだ。彼はもう少し、注目されると思っていたようね。


「あの……メアル・ウィンドウ伯爵令嬢ですよね?」

「えっ……? はい、そうですが……」

 ふと見知らぬ貴族の方に声を掛けられた。私は軽く戸惑ってしまう。


「なるほど、やはりそうでしたか。リューガ様と一緒の時点で想像はついていましたが……」

「は、はあ……」

「この度は大変な目に遭われましたね。心より同情させていただきます!」


 ええと……彼が言っているのは、私の婚約破棄についてかしら? 同情してくれるということは、哀れみの目で見られているということよね。

「あ、ありがとうございます……あの、ええと……」

「申し遅れました。私はエアルヴィス家の嫡男であるクロス・エアルヴィスと申します」

「さ、左様でございましたか……エアルヴィス家のお方だったのですね」

「はい、左様でございます」


 エアルヴィス家と言えば、私と同じ伯爵家に該当する。私は彼に改めて挨拶をした。

「よろしくお願い致します、クロス様」

「こちらこそ、よろしくお願いしたします」


 いきなり声を掛けられていたけれど、悪い気分ではなかった。むしろ、変な噂話をされないだけ嬉しいまである。


「あの方が……」

「ああ、そうだな……」

「……?」


 でも、パーティー会場には噂話をしている雰囲気が流れていた。私やリューガに対するものではないようだけれど。私は不意にその対象へと視線を動かす。

「……あれは」

 視線の先にはナバット様の姿が見て取れた。その隣には彼の新しい婚約者であるレイラ・ウォーン侯爵令嬢の姿がある。どうやら噂話の矛先は彼らに向かっているようね。
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