上 下
1 / 6

1話 婚約破棄と救い

しおりを挟む

 私はその日、婚約者のナバット・アレクセイ侯爵令息に呼び出されていた。


「失礼致します」

「ああ、メアルか……そちらのソファに座ってくれ」

「はい、畏まりました」


 私は言われた通りにソファに腰を掛ける。ナバット様は何か神妙な顔つきになっていた。


「ナバット様……用件はなんでしょうか?」

「ああ……実はメアルに話があったのだが」

「はい」

「私と婚約をしてどのくらいになるだろうか?」

「そうですね……そろそろ、半年くらいになると思いますけど」

「そうだったか……」

「?」


 妙な会話が続いている……ナバット様は一体、何が言いたいんだろうか。

「ナバット様、話の意図が見えて来ないのですが……」

「ああ、そうだったな。済まない。単刀直入に言うと私はお前との婚約を破棄したいのだ」

「えっ……? 婚約破棄?」

「そういうことだ」


 まさかのナバット様からの言葉……呼び出しを受けた時に大事な話にはなるだろうと思っていたけれど、まさか婚約破棄を言い渡されるなんて。

「な、なぜでございますか……!? なぜ婚約破棄を……」

「私は別に好きな女性が出来たのだ。その者と一生を過ごしたいと思っている。それが理由だよ、メアル」

「ナバット様……そんな理由で……」

「そんな理由とはなんだ、そんな理由とは。婚約破棄には十分な理由であろう?」


 そんなわけはない。他に好きな人が出来たという理由で婚約破棄出来れば、貴族の間で婚約破棄は物凄く横行しているだろう。でも、実際はそんなことはない。自制している人が多いということだ。

「ナバット様……それは浮気に近いのでは?」

「そんなことを知ってどうする? 現実を見てくれ、メアル。私は今後、お前を愛することは出来ないのだ。婚約破棄をしてもらう以外に解決策はあるまい」

「……そんな……」


 ナバット様の乾いた言葉からは、罪悪感の欠片も見えなかった。ただ、この人には何を言っても無駄たという直感が働くだけ……彼はおそらく以前から浮気をしていたに違いない。証拠はないけれど……。


「そういうわけだ、メアル。済まないが婚約破棄に同意して貰いたい」

「……」

 私は何も答えなかったけれど、その後の手続きは強引に進められてしまった。私は彼の住む屋敷から追い出され、書類なども後日、ウィンドウ伯爵家に送る手筈となったのだ。

 信じられない……まさか、こんなことが起きてしまうなんて。


--------------------------


「メアル、大変な目に遭ったな……だが、お前が気に病むことではないぞ?」

「そうよメアル。自分を責めたりしないでね」

「お父様、お母様……ありがとうございます……」


 屋敷に戻った私だけれど、お父様達は私を責めることはしなかった。身体はまだ差し出していなかったけれど、傷物令嬢になってしまったのに……。私は私室でうな垂れている。


「はあ……どうしたら良いのかしら、これから……」

「お嬢様……」


 メイド達も私の心配をしてくれているけれど、心が晴れなかった。今後、出席するであろうパーティーでも、しばらくは好奇な目で見られてしまうのだろうか。なんだか恐怖を感じてしまうわ。


「お嬢様、1つ朗報があるのですが……お聞きいただいてもよろしいですか?」

「どうかしたの?」

「はい、先日、リューガ・サンドフ公爵令息様と会うことが出来まして。お嬢様のことを気になさっておられました」

「リューガが……?」


 リューガ・サンドフ公爵令息と言えば、私と同じ17歳の公爵家の跡取りだ。幼馴染の関係にある。

「一度、お会いになられては如何ですか? 良い気分転換になるかと思われますが」

「なるほど……そうかもしれないわね」


 リューガと久しぶりに会う、か。それも良いかもしれない。私がナバット様と婚約してからは、会えない日々が続いたしね。今なら、気兼ねなく会えるのだし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奪われたものは、もう返さなくていいです

gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

元婚約者に泣きつかれて、仕方なく追い返すことにしましたが

ちょこ
恋愛
彼はしぶとく帰ってくれません。 「あなたはわたくしに何の恨みがあるのですか?」 「もちろん、君が僕から奪った全てに決まっているだろう」 わたくしは困惑していました。 元婚約者がここまで聞き分けがない人だったとは思いもしなかったのです。 そんなわたくしをあざ笑うように元婚約者は言いました。 「君から全てを奪ったら、次は君の大切な物を奪うとしよう」 (え? 大切なものってどういうことかしら?) わたくしは、元婚約者の言葉が理解できませんでした。 そして、わたくしは大切な物を奪われることになりました。 家族です。 「お爺様! お婆様! お父様とお母様!」 元婚約者が連れてきたのは、彼女を冷遇した家族でした。 彼らは泣き叫ぶ娘を冷たい視線で見下ろしました。 「見苦しいぞ」 「あなたなんて娘ではないわ」 「お前みたいな孫を持った覚えはない」 (何を言っているの? みんな) わたくしは呆然とするばかりです。 家族がそんなことを言うなんて、今まで一度も思ったことがなかったからです。 「じゃあな。僕は君と違って忙しいんだ」 元婚約者はそれだけ言うと帰ってしまいました。 わたくしは泣き叫び、暴れました。 ですが、屈強な男が二人がかりでわたくしを押さえつけるのです。 そのまま連れて行かれてしまいました。 (こんなひどいことをされるほど悪いことをしたかしら?) わたくしはただ、普通の生活がしたかっただけです。 でも、もうどこにもそんなことはできませんでした。 わたくしは泣くことしかできませんでした。 それからわたくしは家族に冷遇されながら過ごしました。 何も言わず、ただ毎日を泣いて過ごしました。 そんな生活が何年も続きました。 もう心はボロボロです。 (誰か助けて) わたくしは心の底から救いを求めましたが、誰も助けてくれません。 そして、ある日のことわたくしはとある人と出会います。 その人はわたくしに言います。 「よく頑張りましたね」 それはわたくしの幼なじみでした。 彼はずっと、わたくしを支えてくれていたのです。 「どうしてここに?」 「君が追放されたと聞いて、いてもたってもいられなかったんだ」 「でも、私はみんなに嫌われているわ」 「そんなことはないさ。僕はずっと君を愛していたよ」 (ああ!) わたくしは嬉しくて涙を流しました。 しかし、それでもふ安でした。 そんなわたくしを幼なじみは優しく抱きしめます。 「もう何も心配いらないさ。安心してくれ」 「本当に?」 「ああ、本当だとも。だから、ずっと僕の傍にいてくれるかい?」 「もちろんよ!」 こうしてわたくしは救われました。 (こんな幸せがあるなんて) わたくしはそれからずっと幸せに暮らしました。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

身勝手な婚約破棄をされたのですが、第一王子殿下がキレて下さいました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢であるエリーゼは、第ニ王子殿下であるジスタードに婚約破棄を言い渡された。 理由はジスタードが所帯をを持ちたくなく、まだまだ遊んでいたいからというものだ。 あまりに身勝手な婚約破棄だったが、エリーゼは身分の差から逆らうことは出来なかった。 逆らえないのはエリーゼの家系である、ラクドアリン伯爵家も同じであった。 しかし、エリーゼの交友関係の中で唯一の頼れる存在が居た。 それは兄のように慕っていた第一王子のアリューゼだ。 アリューゼの逆鱗に触れたジスタードは、それはもう大変な目に遭うのだった……。

政略結婚相手に本命がいるようなので婚約解消しようと思います。

ゆいまる
恋愛
公爵令嬢ミュランは王太子ハスライトの政略結婚の相手として選ばれた。 義務的なお茶会でしか会うこともない。 そして最近王太子に幼少期から好いている令嬢がいるという話を偶然聞いた。 それならその令嬢と婚約したらいいと思い、身を引くため婚約解消を申し出る。 二人の間に愛はないはずだったのに…。 本編は完結してますが、ハスライトSideのお話も完結まで予約投稿してます。 良ければそちらもご覧ください。 6/28 HOTランキング4位ありがとうございます

処理中です...