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13話 嫌な奴がやってきた その3
しおりを挟む私の店の前での騒動を聞きつけたのか、ボイドさんが酒場から、物凄い剣幕で現れた。その視線はカシムに向いている。
「てめぇ……」
「カシム、いい加減にしろよ? これ以上、この場所で因縁つけて暴れるようなら、ギルドへの報告が必要になるな」
「……」
ギルドという言葉が出て来た瞬間、カシムもミカエラも黙ってしまった。先ほどの勢いが嘘のように。ギルドは冒険者登録を行うところでもあり、依頼を受ける場所でもある。いくら傍若無人なカシムといえども、冒険者で生計を立てているわけだから、下手にギルドに報告されたくないって考えかしら。
振り上げそうになっていた拳も、いつの間にか下がっていたわ。
「はっ、こっちも暇じゃねぇんだよ。これからダンジョンへ向かう必要もあるからな」
「ちょ、ちょっと、カシム? どうするの?」
「このままで済ますつもりはねぇが……今日のところは退散してやる」
「それはありがたい」
大きく舌打ちをしながら、カシムとミカエラは去って行った。完全に絡まれていたエルドは、最後まで冷静だったのは凄いと思う。私が同じ立場だったら、もっとキレていたでしょうね……。
「ふう、行ったか」
「あんたは確か……エルド・マーカスだな? 内容は大体は聞いていたが、災難だったな」
「いえ、とんでもない。リーシャが無事で良かったですよ。元々は彼女に因縁をつけていたようですからね」
「まあ、俺が言うのもなんだが……リーシャを助けてくれて感謝する。今度、酒場に来てくれたら奢るぜ?」
「よろしいんですか? それはとても光栄です」
なんだかボイドさんは、娘を助けられた親のような表情になっていた。いえ、実際、私のことをそういう風に見てくれてるんだと思うけどさ。なんだかちょっと、照れ臭いわ……。
「リーシャ、また彼らは来るかもしれないな」
「は、はい……そうですね……」
カシムの執念深さ……最後の捨て台詞からも、絶対にまた来るでしょうね。どうしようかしら?
「その時は、ギルドの名前を出すといいかもしれない。それから、私も出来るだけこの店を訪れることにするよ」
「エルドさん、いえ、そこまでは……」
「乗り掛かった船だからね。君が迷惑でなければだが」
「いえ、もちろん迷惑なんかじゃありませんけど」
エルドが来てくれることに無意識の内に喜んでいる自分が居た。だから、迷惑だなんてことは全くなかったりする。とはいえ、無理のない範囲で来て欲しいけど。
「ここはポーション屋だからね。どのみち、足を運ぶ機会は多くなると思っていたから丁度いいよ」
「ありがとうございます、エルドさん。特別製のポーションを用意して待ってますね」
「ははは。では、よろしくお願いしようかな」
「はい」
特別製のポーションていうのはないけれど、まあ気持ちを込めて作るポーションということにしておこう。なんだかいい雰囲気が流れている気がする……。
「オホン、お前ら、そういうことは二人きりの時にした方がいいぞ……」
「あっ……」
「あっ……」
私とエルドの声は見事にハモってしまった。ボイドさんの居心地の悪そうな視線を見て、私達二人は顔を赤くしてしまう。と、年頃の二人だしね……! こういうこともあるわよ……!
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