上 下
1 / 2

1話 婚約破棄が認められない

しおりを挟む

「キックス様……私はどうしても我慢できません」

「またその話か、ネリア」


 私の名前はネリア・ハーピー。年齢は17歳だ。伯爵令嬢だけど、目の前にいるのは私の婚約者であるキックス・ボルト侯爵だった。本日は彼の部屋を訪れ、不満を口にしている。


「何度でも言います……第二夫人候補のシシリーナ様はお仕事をされません。第二夫人としての教育も適当にやっていると聞きます。どういうつもりなのですか?」

 シシリーナ様は侯爵令嬢に該当する。私よりも後にキックス様が婚約をした相手だ。第二夫人ということだったけれど、キックス様は明らかにシシリーナ様を甘やかしていた。このままでは私の負担が増えてしまいそうだ……だから、何度もキックス様に聞いているのだけれど。

 その度にのらりくらりと躱されてしまうのだ。しかし、今回ばかりはそうはいかない。ちゃんと、納得のいく答えを聞かせてもらう。


「五月蠅い奴だな……本当に五月蠅い」

「う、五月蠅い……? ど、どういう意味ですか!?」

「言葉の通りだ。まさか意味を知らないわけじゃないだろうな?」


 キックス様の態度が豹変したように思えた。今まではのらりくらりと躱すことはあっても、こんなにキツイ言葉を使って来たことはなかったのに……どうなっているの?


「シシリーナは私の愛人のようなポジションだ。だから、仕事なんてしなくて良いのだよ。全部、第一夫人候補のお前が居れば問題ないだろう?」

「……!!」


 信じられない言葉が返って来た……第二夫人候補のはずなのに、仕事をしなくても大丈夫? そんなことは許されるわけがない。しかも、全部私にさせようとしている。


「夫人としての仕事を私一人に押し付ける気だったんですか?」

「当然だろう? 第一夫人なんだから。お前が我が後継者を生んで大切に育てれば良いのだよ。シシリーナとのことは気にするな。なるべく避妊をして過ごさせるさ」

「それって……」


 浮気でしかないのでは? いや、確実にキックス様の中ではそうだろう。単に体裁を整えているだけに過ぎない。


「信じられません、キックス様……貴方様と婚約して数カ月になりますが、こんなことを言うお方だったなんて」

「ははは、今さら気付いても遅い。お前は既に夫人教育を大分受けているだろう? このまま、第一夫人になるのだな」

「いえ、そんなつもりは毛頭ありません。婚約破棄をしていただきます」

「なんだと……婚約破棄?」

「はい」


 私の数か月間を無駄にするわけにはいかない。こんな人の隣に立つなんて真っ平だ。夫人教育で学んだことは、他の大切な人の為に使いたい。身体だって捧げたいとは思わない。


「誰がそんな真似を許すか。私は絶対に認めないぞ、ネリア。お前は一生私の物なのだからな」

「なっ……ふざけないでください! 私は貴方の物ではありません!」

「同じことだよ、ネリア。何度もこの手の話をしてきて、いつかは言おうと思っていたのだ。婚約破棄など許さん、逆らえばどうなるか……お前のハーピー家がただでは済まないぞ?」

「き、キックス様……! 最低です、私の家族を巻き込もうとするなんて……!」

「はははは! なんとでも言うが良いわ! お前は私の第一夫人として、相応の働きをすることだけ考えていれば良いんだよ。楽なものだろう?」


 駄目だ……この人にはまともな会話が通じない。明らかに理不尽なことを言っているのに、悪いとすら感じていないのだから。私はどうすれば良いのだろうか……こんな人との結婚は絶対に避けたいところだけれど。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

処理中です...