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1話 婚約破棄が認められない
しおりを挟む「キックス様……私はどうしても我慢できません」
「またその話か、ネリア」
私の名前はネリア・ハーピー。年齢は17歳だ。伯爵令嬢だけど、目の前にいるのは私の婚約者であるキックス・ボルト侯爵だった。本日は彼の部屋を訪れ、不満を口にしている。
「何度でも言います……第二夫人候補のシシリーナ様はお仕事をされません。第二夫人としての教育も適当にやっていると聞きます。どういうつもりなのですか?」
シシリーナ様は侯爵令嬢に該当する。私よりも後にキックス様が婚約をした相手だ。第二夫人ということだったけれど、キックス様は明らかにシシリーナ様を甘やかしていた。このままでは私の負担が増えてしまいそうだ……だから、何度もキックス様に聞いているのだけれど。
その度にのらりくらりと躱されてしまうのだ。しかし、今回ばかりはそうはいかない。ちゃんと、納得のいく答えを聞かせてもらう。
「五月蠅い奴だな……本当に五月蠅い」
「う、五月蠅い……? ど、どういう意味ですか!?」
「言葉の通りだ。まさか意味を知らないわけじゃないだろうな?」
キックス様の態度が豹変したように思えた。今まではのらりくらりと躱すことはあっても、こんなにキツイ言葉を使って来たことはなかったのに……どうなっているの?
「シシリーナは私の愛人のようなポジションだ。だから、仕事なんてしなくて良いのだよ。全部、第一夫人候補のお前が居れば問題ないだろう?」
「……!!」
信じられない言葉が返って来た……第二夫人候補のはずなのに、仕事をしなくても大丈夫? そんなことは許されるわけがない。しかも、全部私にさせようとしている。
「夫人としての仕事を私一人に押し付ける気だったんですか?」
「当然だろう? 第一夫人なんだから。お前が我が後継者を生んで大切に育てれば良いのだよ。シシリーナとのことは気にするな。なるべく避妊をして過ごさせるさ」
「それって……」
浮気でしかないのでは? いや、確実にキックス様の中ではそうだろう。単に体裁を整えているだけに過ぎない。
「信じられません、キックス様……貴方様と婚約して数カ月になりますが、こんなことを言うお方だったなんて」
「ははは、今さら気付いても遅い。お前は既に夫人教育を大分受けているだろう? このまま、第一夫人になるのだな」
「いえ、そんなつもりは毛頭ありません。婚約破棄をしていただきます」
「なんだと……婚約破棄?」
「はい」
私の数か月間を無駄にするわけにはいかない。こんな人の隣に立つなんて真っ平だ。夫人教育で学んだことは、他の大切な人の為に使いたい。身体だって捧げたいとは思わない。
「誰がそんな真似を許すか。私は絶対に認めないぞ、ネリア。お前は一生私の物なのだからな」
「なっ……ふざけないでください! 私は貴方の物ではありません!」
「同じことだよ、ネリア。何度もこの手の話をしてきて、いつかは言おうと思っていたのだ。婚約破棄など許さん、逆らえばどうなるか……お前のハーピー家がただでは済まないぞ?」
「き、キックス様……! 最低です、私の家族を巻き込もうとするなんて……!」
「はははは! なんとでも言うが良いわ! お前は私の第一夫人として、相応の働きをすることだけ考えていれば良いんだよ。楽なものだろう?」
駄目だ……この人にはまともな会話が通じない。明らかに理不尽なことを言っているのに、悪いとすら感じていないのだから。私はどうすれば良いのだろうか……こんな人との結婚は絶対に避けたいところだけれど。
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