悪魔の公爵

月野犬猫先生

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 屋敷は大きな門を構えており、その奥には赤い薔薇の中庭が広がっていた。
ヴァーレンは、石畳の道を歩み、人間が十数人ほどいてもビクともしないような大きな鉄製の扉の前で頭蓋骨が真ん中に描かれた分厚いノッカーを2回叩きつけた。
  暫くの沈黙の後、何やら奥からタッタッタッと階段を駆け下りるような音がしてからそのドアがギィ…と音を立てた。

「ヴァーレン様、おかえりなさいませ!まあ随分遅いお帰りではありませんか」

そう嬉しそうな声をあげて出てきたのはーーー片眼鏡をかけた蛇顔の人間だった。
執事なのか、服装はきちんとしたスーツを身に纏っているが、袖に忍ばせた指には長い爪が光って見える。

「ひっ…」
リアンは反射的に声を上げてしまい咄嗟に口を抑えた。
オークションで見たあの化け物が頭をよぎる。
リアンはヴァーレンの背に隠れるように身を縮こませた。
ここまで酷いことは何もされてないとはいえまだ油断はできないらしいーーーー
 すると、蛇男はリアンを見るな否やまるで自分など5秒しないうちに飲み込んでしまいそうな太い喉を鳴らした。
「おや…?ヴァーレン様。まさかそちらの人間…お連れ様ですか?」
ーーー怖い。目を逸らす。
「ああ。」
ヴァーレンの返事に蛇は目を光らせてリアンを撫で回すように見つめる。
「ほぉ…こんな若い人間どうやって見つけたんですか?まだ傷もそこまでないし歩けていますが、まさか人質でも?」
「買った。ーーー八百ポンドだ。」
「はぇっ!?」
蛇男は目をマン丸くする。
「そ、そんな!ヴァーレン様ほどの魔術を持っていれば、人間の子供など容易く手に入れるだろうに。またなんでお金なんかを…」
蛇男の不満気な吐露にヴァーレンは一呼吸置いて、淡々と答えた。
「食べるためでは無いーーー」
ヴァーレンの言葉に、蛇男もリアンも反射的に首を傾げたが、蛇男がふと何かを気づいたように「まさかそれは……」と呟く。
蛇男はそれ以上の言葉を飲み込む。
(なんだろう…?)
リアンはヴァーレンの顔色を伺おうとしたが、背丈がありすぎて見えない。
何かあるのだろうが、リアンはまだ知ることも出来ないのだろうかーーー
(でも食べるためでは無いって……)
リアンは小走りだった動悸が少しだけ落ち着くのを感じた。
「まあそういうことならーーーとりあえずお上がりください。久々のご帰宅を皆で楽しみに待っていたんですからね。この屋敷はヴァーレン様がいないとまるでダメになってしまう…!」
蛇男は一人でなにかを解決したかのように声色を変えると建物の中へと2人を案内した。
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