10 / 12
1
9
しおりを挟む
いつまで寝ていただろうか。
気づけば列車は停車していた。
リアンは起き上がって急いで窓に張り付くように顔を向ける。
そこは知らない駅のホームだった。
背には石畳のお洒落なホームとは似合わない広い山々が広がっている。
(終点……?)
リアンはそろっと食器を端に寄せて片すと席を立ちこの場から離れようとした。
ーーーその瞬間だった。
何者かの気配がした。
「っ……!」
リアンがハッと顔を前に向けると、知らぬ間に足組をしてこちらを見つめるヴァーレンの姿があった。
「あっ…わっ…いっ」
リアンは驚きのあまり、色んな言葉が一気に頭を駆け巡り、意味不明な言葉を発してしまった。
いつからいたのか、人の気配というものが全くない。その事に少しゾッとする。
ヴァーレンはリアンをじっと見つめると、表情を変えずただ一言尋ねた。
「……食べたのか?」
「あっ…お菓子!はいっ……ご、ご馳走様でした」
(そうだ、この人がくれたんだ…)
リアンは慌てて一礼する。
「そうか」
(そうかって……)
ーーー一体この人は何を考えてるか全く分からない。
ただそのギラつく赤い瞳に先程のような恐怖感は無くなっていた。
「……目的地だ。降りるぞ」
ヴァーレンはそう言い立ち上がると黒いコートを翻し、白い手袋に収まった長い指でリアンに着いてこい、と合図した。
「はいっ」
リアンは軽く頷くと、慌ててヴァーレンのあとをついていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リアンは外に出てすぐ自分の乗っていた列車を見た。
列車は豪華な貴族が乗るような、都会を走るような立派なものだった。
少し廃れているが、素材もしっかりしていて良いものだろう。
自分なんか馬小屋で育てた馬にしか乗ったことがないのに、こんな高価なものに乗っていたなんて一体どういう扱いなのだろうーーー?
不思議に思うことばかりだった。
それにしてもここは何もないーーーーーー
鳥のさえずりが聞こえ、木々がさざめく大自然が広がる景色にリアンは目を奪われた。
この場所が目的地と言われても何処にも何かあるような雰囲気が無い。
ただ今はこの人ーーーヴァーレンに着いていくしかない。
リアンは必死にあとを追い、人の影すらない静かなゲートを抜けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(結構歩いたな……)
駅を出てから暫くというもの、リアンは沈黙の中でヴァーレンのあとをずっと追いかけていた。
なのに景色は変わらない。なんなら森の奥に入っているような気もする。
一体ここからどこへ向かうというのだろう?
あの郊外を思い返せば、ここは思った以上に長閑な場所だが、想像がつかないから少し怖い。
するとそんな困惑を読み取るかのようにヴァーレンは口を開いた。
「もうすぐ着く。」
「えっ…」
もうすぐと言われても、見渡す限りの自然の中で街が見えるわけでも建物が見える訳でもない。
(まさか森に捨てられるとか…獣の餌になるわけじゃ……)
リアンはゴクリと唾を飲み込んだ。
思わず悪いことを考えそうになってしまう。
ーーーその時だった。
「ここだ」
ピタッと立ち止まるとヴァーレンはそう言った。
「え……?」
そこはただの野原だった。
(やっぱり……)
ここに捨てられるんじゃないかーーーリアンは先程食べた甘いお菓子の味を思い出す。すっかり安心していたのにーーー
「目を瞑れ。」
「……はい。」
(仕方ないよね……)
リアンはグッと目を瞑った。
何かの怪物に喰われるとか、突然襲われるとか、そんなの元から覚悟していた。
(早かったな……)
でもイングランドに来れて良かった。
お母さんの好きな場所に来れてーーー
リアンは頭の中で今までの事を振り返った。
握りしめた手から汗が毀れる。
(早くーーー早くしてーーー)
リアンが震えていると、ザクッと葉を踏みしめる音が聞こえた。
(あー…ここで終わるーーー)
暫くの沈黙を切り裂いたのは、落ち着いたヴァーレンの声だった。
「ーーーもういい。目を開けろ」
(ーーーえ?)
その言葉に、リアンは力が一気に抜けた。
「も、もういいって…何が…」
「目を開けろと言ってる。分からないのか?」
「は、はいっ」
(でも、何も無かったけどーーー)
リアンは戸惑いつつも恐る恐る瞳を開けた。
するとーーー
「なっ………」
なんとそこには硬い門構えのしっかりとした御屋敷が建っていたのだ。
確かに先程まで野原しか無かったはずなのにその野原が見当たらない。
リアンの頭は追いつかなかった。
(どういうことなんだ…?)
「驚いてる暇はない。行くぞ。」
ヴァーレンはリアンの顔を振り返ることなく、門の前までゆっくりと歩みを進め始めた。
気づけば列車は停車していた。
リアンは起き上がって急いで窓に張り付くように顔を向ける。
そこは知らない駅のホームだった。
背には石畳のお洒落なホームとは似合わない広い山々が広がっている。
(終点……?)
リアンはそろっと食器を端に寄せて片すと席を立ちこの場から離れようとした。
ーーーその瞬間だった。
何者かの気配がした。
「っ……!」
リアンがハッと顔を前に向けると、知らぬ間に足組をしてこちらを見つめるヴァーレンの姿があった。
「あっ…わっ…いっ」
リアンは驚きのあまり、色んな言葉が一気に頭を駆け巡り、意味不明な言葉を発してしまった。
いつからいたのか、人の気配というものが全くない。その事に少しゾッとする。
ヴァーレンはリアンをじっと見つめると、表情を変えずただ一言尋ねた。
「……食べたのか?」
「あっ…お菓子!はいっ……ご、ご馳走様でした」
(そうだ、この人がくれたんだ…)
リアンは慌てて一礼する。
「そうか」
(そうかって……)
ーーー一体この人は何を考えてるか全く分からない。
ただそのギラつく赤い瞳に先程のような恐怖感は無くなっていた。
「……目的地だ。降りるぞ」
ヴァーレンはそう言い立ち上がると黒いコートを翻し、白い手袋に収まった長い指でリアンに着いてこい、と合図した。
「はいっ」
リアンは軽く頷くと、慌ててヴァーレンのあとをついていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リアンは外に出てすぐ自分の乗っていた列車を見た。
列車は豪華な貴族が乗るような、都会を走るような立派なものだった。
少し廃れているが、素材もしっかりしていて良いものだろう。
自分なんか馬小屋で育てた馬にしか乗ったことがないのに、こんな高価なものに乗っていたなんて一体どういう扱いなのだろうーーー?
不思議に思うことばかりだった。
それにしてもここは何もないーーーーーー
鳥のさえずりが聞こえ、木々がさざめく大自然が広がる景色にリアンは目を奪われた。
この場所が目的地と言われても何処にも何かあるような雰囲気が無い。
ただ今はこの人ーーーヴァーレンに着いていくしかない。
リアンは必死にあとを追い、人の影すらない静かなゲートを抜けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(結構歩いたな……)
駅を出てから暫くというもの、リアンは沈黙の中でヴァーレンのあとをずっと追いかけていた。
なのに景色は変わらない。なんなら森の奥に入っているような気もする。
一体ここからどこへ向かうというのだろう?
あの郊外を思い返せば、ここは思った以上に長閑な場所だが、想像がつかないから少し怖い。
するとそんな困惑を読み取るかのようにヴァーレンは口を開いた。
「もうすぐ着く。」
「えっ…」
もうすぐと言われても、見渡す限りの自然の中で街が見えるわけでも建物が見える訳でもない。
(まさか森に捨てられるとか…獣の餌になるわけじゃ……)
リアンはゴクリと唾を飲み込んだ。
思わず悪いことを考えそうになってしまう。
ーーーその時だった。
「ここだ」
ピタッと立ち止まるとヴァーレンはそう言った。
「え……?」
そこはただの野原だった。
(やっぱり……)
ここに捨てられるんじゃないかーーーリアンは先程食べた甘いお菓子の味を思い出す。すっかり安心していたのにーーー
「目を瞑れ。」
「……はい。」
(仕方ないよね……)
リアンはグッと目を瞑った。
何かの怪物に喰われるとか、突然襲われるとか、そんなの元から覚悟していた。
(早かったな……)
でもイングランドに来れて良かった。
お母さんの好きな場所に来れてーーー
リアンは頭の中で今までの事を振り返った。
握りしめた手から汗が毀れる。
(早くーーー早くしてーーー)
リアンが震えていると、ザクッと葉を踏みしめる音が聞こえた。
(あー…ここで終わるーーー)
暫くの沈黙を切り裂いたのは、落ち着いたヴァーレンの声だった。
「ーーーもういい。目を開けろ」
(ーーーえ?)
その言葉に、リアンは力が一気に抜けた。
「も、もういいって…何が…」
「目を開けろと言ってる。分からないのか?」
「は、はいっ」
(でも、何も無かったけどーーー)
リアンは戸惑いつつも恐る恐る瞳を開けた。
するとーーー
「なっ………」
なんとそこには硬い門構えのしっかりとした御屋敷が建っていたのだ。
確かに先程まで野原しか無かったはずなのにその野原が見当たらない。
リアンの頭は追いつかなかった。
(どういうことなんだ…?)
「驚いてる暇はない。行くぞ。」
ヴァーレンはリアンの顔を振り返ることなく、門の前までゆっくりと歩みを進め始めた。
9
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説


うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる