60 / 62
1
第五十六話 裏計画
しおりを挟む「おーい、優一」
「優一ちゃーん、起きてるー?」
もうかれこれ、何時間呑んでいただろうか。
気づけば時刻は24時を上回っていた。
もうそろそろ帰らなくてはーーーーーーーーしかし、そう思った矢先に優一が酔いに酔いすぎてしまったのかカウンター席で寝てしまったのだった。
栄人ははぁと大きなため息をついた。
「なあ、栄人、どーするんだよ?」
「ただでさえ寝たら起きないんだ、酔って眠ってたら何しても無駄だろう」
「まあなー。にしても、相変わらず優一はお酒弱いな」
「だな」
栄人はそう返事しながら、瞳を閉じて、静かな寝息を立てる優一を暫く眺めた。
この姿が栄人はなんとなく好きだった。
寝ている時の優一は、演技をする時の大人びた表情をする俳優とは違い、とても幼い純粋無垢な子供のように見えてしまう。
それは懐かしい光景だった。
学生時代、いつも自分を頼りにしてくれていた優一。
1人のために身を削ってまで、なにかしようとする姿に栄人は自然に心動かされていた。
でも違うーーーーーーそんな距離感じゃ足りなかったのだ。 もしもあのとき、自分がもっと優一のことを守ってやれたらーーーーーー今頃こんなに苦しい思いはさせていなかったのだろうか。
もしもあのとき、もっとそばに居たらーーーーーー
「付き合えてたのか……?」
ポロッと口に出してから、栄人はハッと敬浩の方を見た。
敬浩は一瞬驚いた表情を向けたが、そのうち何かを理解したように大きく息を吸い込んでから口を開いた。
「ほんと、お前も素直じゃないな。付き合いたくてたまらないくせに」
「……んなこと」
カラン……と小さくウイスキーの氷が音を立てる。
ああ、今ならーーーーーー
優一が寝ている今しかーーーーーー
「あ、あのさ……」
「おん」
「葵と優一って、付き合ってんのかな」
ああーーーーーー聞いてしまった。
栄人が恐る恐る敬浩の表情を窺うと、敬浩は今度こそ驚いたように目を見開いていた。
「……は?葵ちゃんと優一が?さすがにないだろ!?だって、葵ちゃんはただ優一の家に居候してーーーーーー」
「ああ、俺も最初はそう思ってたんだよ。でも違ったのかもしれない。というか、絶対に違う。あいつが全員に平等に向ける優しさじゃなくて、葵に対してはこう…特別扱いしてる気がするんだよな」
「ほほう、なるほどねぇ。栄人はそれが気になってて距離を詰められなかったわけか」
「別に無理に詰めようだなんてしてないが……」
「んー、まあさすがに付き合ってるとは俺は思わなかったけど、優一が葵ちゃんを好きで大切に思ってるってのはすごく伝わったからなぁ。葵ちゃんも優一優一って感じだし」
「やっぱり…おかしいよな。おかしいんだよ。絶対…優一がそんな、まさか」
そんなことが起きてたらーーーーーー
「なあ栄人」
「……ん、なんだよ……?」
「もし、優一と葵が両想いだったらお前どーすんだ?応援すんの?」
「それは……」
「栄人さ、そんなこと俺にわざわざ聞いたってことはよっぽど頼みたいことがあったんだろ?この際だからもう素直に言ったらどうだ?」
(そうだな。もうここまで言ってるんだし、引き下がれないよな……)
栄人は意を決すると、静かに頷いた。
「……ああ、今回ばかりは頼む」
それからオーナーが奥に入ったのを見計らうと、敬浩は早速話を切り出した。
「ーで、どうすんだ?」
「どうするって、言われたってな……」
「あー俺が葵ちゃんと優一の心引き離せばいいな!」
「はっ?ちょ、おい。んなことしたら、葵が困るだろ。居候してるんだから仲悪くなったりなんかしたら……」
「ははは、安心しろ。そんな嫌なやり方じゃないさ」
「じゃあどんなやり方だよ?」
(第一してそんなやり方あるのかよ……?)
不安げな面持ちの栄人に敬浩は怪しげに微笑むと、ウイスキーの瓶を優一のグラスにカンっと当てた。
「そりゃー簡単さ。葵ちゃんに好きになってもらうんだよ」
俺をーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
「よーし、テスト終わったぞぉ!!」
「よっしゃぁあ!!」
期末テスト最終日の最後の科目のテストの終わりを告げるチャイムが鳴ると、先程まで筆を走らせる音と誰かの寝息が聞こえていた静かな教室は一変して賑やかになった。
後ろの席の人が順に裏返したテスト用紙を集めて回収すると、そのまま帰りのホームルームの流れとなった。
もうこれで今年の授業ない。あとはテスト返しと冬休みをただ待つだけであるーーーああ、そう思うとなんと気が楽なことか。
(疲れたぁあ……)
葵はそんなことを思いつつ、筆記用具を素早く鞄の中にしまうと、とりあえず優一に学校が終わったことを連絡してスマホをポケットの中へとしまった。
でも今回のテストには少なからず心残りがあった。
栄人の話だったり、麗奈の事もあったりで前回のテストよりはあまり集中は出来なかった気がしたのだ。
いやそれどころか、回答できない問題が何ヶ所かあった。
こんなことならもう少し復習をすれば良かったなーーーとは思ったものの、今回ばかりは仕方がない。
(だめだ。麗奈さんの話がぐるぐるしてる……)
優一の家庭のこと、その過去のこと、色んなことが段々とわかってきていている。けれど一方で優一が心を開くような素振りは全くなくなってしまった。
寧ろ余計に何を考えているのかわからないままになってしまっているーーーーーー
(とりあえず帰るか……)
葵は騒がしい教室を抜けると、足早に駅へと向おうとした。
しかし、門を出たその時だった。
突然目の前に男が立ちはだかり、葵の行くてを阻んだ。
「えっ?」
葵が恐る恐る見上げると、なんとそこにはあの高本敬浩がこちらに向かってにこりと微笑んでいたのだった。
(な、なんで!?)
「葵ちゃんお疲れ様」
「た、敬浩さんなぜここに……?」
(しかもこんな門の前で…学校の人に怪しまれちゃうじゃんか!)
葵がそんなことを気にし周りの様子を窺っていると、敬浩に突然手を掴まれ、門の横に止めてあった車に乗らされてしまった。
「ちょっ……俺これから帰るんですけど!?」
「ほら、早くここ去らないと怪しまれちゃうぞ?」
「うっ……」
葵は仕方なく助手席に座ると、ドアを閉めた。
「いやあ実は今日暇でさぁ、葵ちゃんと出掛けたいと思って迎え来ちゃったんだよねぇ。テスト終わったならいいだろう?それとも予定ある?」
「な、ないですけど……」
「おお、じゃあいーじゃん!あ、優一のことなら心配しないでな?優一にはちゃーんと、葵ちゃんとデートしたいって言ってあるから?」
「え……?」
(そ、そんなこと言ったのか!?でも優一さんに止められてないってことは…優一さんは俺と敬浩さんがデートするのを許可したってこと……?)
ーーーーーーなんで。敬浩さんが家きた時はあんなに俺と敬浩さんが話すの嫌がっていたのに。
「うん?なんか気になることでもあるか?」
「あ、いや……じゃ、じゃあ一応連絡だけはしておきます」
「え、優一に?」
「はい。帰る時間はいつも伝えていて……」
「ほーん……。でもさー、葵ちゃんもう高校生だろー?ましてや同棲してるカップルじゃないんだし、そんないちいち連絡しなくてもねぇ。……あれ、それとも本当に付き合ったとか?」
敬浩の悪戯な笑みに、葵はキョドりながらも咄嗟に否定をした。
「なっ、何言ってるんですか!そんなわけないじゃないですか……」
(な、なんだよ……急に。)
「じゃあ、いいよな?あー腹減った。甘いもんでも食いに行くかー!」
敬浩はそう言うと、戸惑いの表情を浮かべつつシートベルトを仕方なく締める葵の姿を確認してから車を発進させた。
しかし葵の心の中では不安や疑問ばかりが浮かんで、普通に食べに行くだなんてそれどころではなかった。
(なんだなんだ、一体なんなんだ…?テストが終わってやっと冷静にあの事を考えられると思ったのに敬浩さんが急に誘ってくるなんて…どういうことなんだ?)
ーーーーーーしかも連絡もするなって……
「なに?そんなに困らなくてもいいじゃんか?」
「えっあ、いや…なんで急に俺なんかを誘ったのかなって、家に来るならまだしも、学校まで……」
「んー?俺が葵ちゃんと出かけたいって思ったらダメなの?」
「……」
(ずっとこの人の事へんだと思ってたけど、やっぱりへんだ。なにかおかしいーーーーーーいちいち気になるような言い回しばかりしてくるし……)
ああ、また……なにか起きてしまう予感がするーーーーーー
0
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる