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第五十四話 お互いの気持ち2
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ーーー
ーーーーーー
葵達は一通り話を終えると、気分も落ち着いたところでカフェを出た。
その頃にはもう日が陰っていて街灯もチラホラついていた。
「葵、今日は本当にありがとうね。随分と話し込んでしまってごめんなさいね。」
麗奈は駐車場に向かう中、そう申し訳なさそうに謝った。
「いえいえ、とんでもないです。沢山話してくれてありがとうございました。俺、本当に何も知らなかったから…。」
「まあこんな話、優一からは絶対しないでしょうね。だからいつだって周りにはわかって貰えないのよ。あの子も子供な部分があるわ。もっと人を頼ればいいのに。」
(そうだよな。栄人さんに少しは頼っただろうけど、きっと相談とかはしなかったんだろうな。)
ーーーずっとひとりで、今も悩み続けてるとしたらーーー
「俺、本当はどうしたらいいかわからないままなんです…」
葵が俯くと、麗奈は慌てたように葵の肩にそっと手を乗せた。
「あ…何も葵が気に病むことは無いのよ?」
「それでも、言っていいことと悪いことがあるし、やっぱ頼って欲しいとか気持ちを吐いて欲しいって気持ちはあるけど、それを聞いたら傷つけるんじゃないかって怖くて。」
「そうね、あの子はどうやったら心開いてくれるのかしらね。」
麗奈はそう言いながら車のドアを開けた。
葵も助手席に乗り込み、車のエンジンがかかるとシートベルトを締めた。
「心を開くって自然なことだけど、意識しないとわからないこともあるのかもしれないわね。」
「そうですね。……付き合ってた人にはどう心を開いたんだろう…」
ふと葵はそう発言して、ハッと我に返った。
「え?」
(あ………)
葵が恐る恐る麗奈の方を向くと、麗奈は驚き顔でハンドルから手を離し、葵を見つめていた。
「優一が昔、付き合ってた子のことを知ってるの…?」
「え?あ、いや……えっと」
(やば…どうしよう…)
「葵、教えて。」
「そ、その…詳しくは分からないんですけど…」
「私、ーーー葵はてっきりそのことは知らないと思ってて…」
「すみません…。実は優一さんの友人から聞いていて…」
葵が申し訳なさそうに言うと、麗奈は「ああ、そうなのね……」と呟いてからため息をつくと、その後何かを吹っ切るように髪をかきあげてこちらに改めて向き直った。
「ーーーわかった。じゃあもう言うわね、全部。ーーー実は今日話したこと以外にも話していないことがあるの。」
(え、もしかして……)
ーーーそれは俺が知りたかったことなんじゃーーー
そう思うと葵の心臓の鼓動はだんだんと早くなった。
それから麗奈は過去を思い返すように前を見据えると、続けた。
「昔ーーー優一に付き合ってる子がいたのは私もわかってた。まあそれがどこの誰かは分からないけど。でもね、誰も応援しなかったし、私も反対してた。多分イギリスの転勤の時に出会った子だとは思うけど…。」
麗奈は少し顔を歪ませると震えた小さな声で続けた。
「それは全部、私のせいなのよ…」
「え?」
「私が全部悪いの。あの子の希望も幸せも奪っちゃったから。」
(それはどういうこと…?麗奈さんが、優一さんの幸せと希望を奪うって…)
葵は麗奈の次の言葉を待ちながら、静かに唾を飲み込んだ。
麗奈は呼吸を整えると、改めて話し始めた。
「優一は本当に家でも外でも孤独だったと思う。どんなことをしても母親に許して貰えなかったし、相談相手もいなかっただろうし、きっと父のことも心では許してないわ。ーーーーーーでもね、ある日を境に優一は変わったの。一人でいる時、苦しそうな顔をあまり見せなくなった。むしろ何かを思い出しては楽しそうにしてるみたいだった。あと、どこかにも出かけるようになってたわ。ーーーそして家に帰れば部屋に閉じこもってひたすら何かを書いてた。それを私は少し読んだことがあるの。内緒でね。」
(え、それって…)
「ーーー優一の日記だったわ。そこには、「その子を幸せにするために僕に何が出来るのか」って英語で書かれてた。それに田舎町の電車の時刻表と、泊まる場所も。私はすぐわかった。優一は内緒で恋愛してるんだって。」
(ああ、間違いなく栄人さんが言ってた子だろうな…)
「だから私はーーー執事と母親にそのことを言ってしまったの。」
「え…」
「そしたら…もちろん母親は怒ったわ。「愛人の子供の分際であなたが誰かに愛されるわけがない。存在が不謹慎だ!」って。そして優一の日記を全て破り捨てた。その子から貰ったのかわからないけど、お花が部屋に飾ってあったからそれも踏みつけたの。何もかもを燃やして。」
「酷い……な、なんでそんなことを…」
「私もあれはやりすぎだって思ったわ。でも母親の事だからやりかねないって思ってたのに、止めなかった私も私よね……。それでも優一は泣かずに家を飛び出すだけだった。時間がないって確か言ってたわ。でもその後執事にすぐ引き戻されて、そこからはもういつもの暮らしが始まったけどーーーその後暫くして優一は荷物をまとめて出ていったの。それからは私も連絡を絶たれて、父親とは連絡をとってるみたいだし誕生日の時もプレゼントをあげたらしいけど、母親とはもう全くよ。多分何年も顔も合わせてないんじゃないかしら…。」
(そんな……あまりにも酷い…)
「だから、私のせいなのよ。優一に嫌われても仕方ないのよ。当たり前なのよ…。」
麗奈の言葉に葵はなんていえばいいのか分からなかった。
ただ、自分が知ってることは素直に言おうーーーそう思った。
「お、俺が兎角言える訳では無いけど……少し知ってることがあるんです。」
「え?」
「優一さんが時間がないって言ってたのは、きっと、優一さんのその好きな人が体が弱くて命が長くなかったからだと…… 。」
葵が静かにそう言うと、麗奈は目を見開いて、「そんな……」と小さな震えた声で呟いた。
そして、その後大粒の涙を流し始めた。
「ああ…ごめんなさい。ごめんなさい…私なんてことをしたの。こんなの、許して貰えるわけないわ…」
葵はそれに慌てて応えた。
「あ、れ、麗奈さんっ!変な事言ってごめんなさい。でも俺、麗奈さんのこと嫌いになったりしないですよ!?それに悪いことしたのってその母親じゃないですか。執事だって頼みとはいえ、なんでそんなことを………」
「いいえ、あの頃の私は気づかなかったの。あの子がどんなに孤独なのか。悔しかったし、母親にもっといい子に思われたかったから教えただけなのよ。酷いでしょう?」
「それは……でも、過ちは誰にだってありますから…」
葵はそう言ったけれど、正直、相手の心の傷はきっと癒えないだろうなと思った。
ただ分かるのはーーー今も優一が1人で苦しんでいるということだけだ。たったひとりで、誰にも頼らずに隠してきたということだけだ。
(ああ、だからーーー)
「僕を好きになるなんてありえない」
あの言葉はきっと、母親に言われたその言葉を引きづっていたからだろう。
愛されるわけがない、本物じゃない。
そう思って今まで生きてきたのだろう。
ならば優一の本心や本当の気持ちは少しずつ零れていたのだ。
でもーーー気づかなかった。
(そうだったんだ…)
ああーーー今まで一体、どんな気持ちでこの事を隠してきたんだろう。
どんな気持ちであの時、葵と麗奈が話すことを許したのだろう。
考えるだけで胸がギシリと歪む。
「ねぇ、葵……私折角、優一に会えたのに許して貰えなかったらどうしよう……どうしたらいいの…?」
「麗奈さん…」
でもーーーどちらの気持ちもわかる。
分かってしまう。
「俺が、何とかしますから…。いや、何とかしたいんです。だから泣かないでください。」
「本当…?」
「本当です。」
麗奈の潤んだ瞳を葵は真っ直ぐ見つめた。
この人も優一さんも救わなきゃーーー葵はそんな気持ちになった。
「できることが何かわからないけど、少しずつでいいなら…」
「……ありがとう。」
麗奈は葵にぎゅっと抱きついてから涙を拭くと、「ごめんなさい」と言ってからハンドルを握った。
「こんなに話してると、遅くなってしまうわね。」
「大丈夫です。優一さんの帰りは21時くらいだって言ってたので。」
「そうなのね。でも万が一の事があるから。」
「そうですね…」
(二人でいるのがバレたら大変だ…。もしかしたら俺も嫌われてしまうかもしれない…)
「ただ本当にーーー葵に会えて、話せてよかった。」
「俺もです。ここまで話が聞けると思ってなかったので…」
「そうね。でも私は優一が一緒に誰かと住んでるって聞いた時点で、もうその人に言うつもりだったから。これで良かったのよ。」
ーーー
ーーーーーーーーー
車が最寄りの駅に到着すると、麗奈は車から降りずにロータリーの前で葵をおろした。
「ここまで乗せてくださってありがとうございます!気をつけて帰ってください。」
「ええ。いいのよ。思いの外遅くなってしまってごめんなさいね。葵も気をつけーーー……え。」
その時ふと葵の後ろに視線を外した麗奈がなにかを見つけたように目を見開いて話を辞めたので、葵も思わず振り返る。
「え?え、どうしましたか?」
麗奈の目に、葵はひたりと嫌な予感を感じた。
しかし数秒経ってすぐ麗奈は「いや」と首を振ると、呟いた。
「たんなる人違いたと思うわ…。大丈夫、大丈夫よね…?」
その様子に葵は一気に不安になる。
「も、もしかして優一さんが…?」
「いや、ただ、……似てる人がいたから…でも、多分違うわ。だって優一は遅いんでしょう?」
「そう言ってましたけど…… 早めに帰ってくる可能性もあるので、今日はもうこの辺で…」
「そうね、ここにずっと居たら危ないものね。じゃあ。ーーーまた今度会えるかしら。」
「はい!多分、今年は難しいかもですけど。」
「いいわ、また時間ある時にね。」
麗奈はそう言うと、そそくさと扉を閉め軽く手を振ってから車を走らせて行った。
葵はそれを見送ってからひとつため息をつくと、後ろをもう一度振り向く。
(本当にいない……よな?)
その次にスマホを取り出して確認する。
(うん、連絡は入ってきてない…大丈夫だ。)
葵はスマホをポケットにしまうと、家に帰ったのだった。
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葵達は一通り話を終えると、気分も落ち着いたところでカフェを出た。
その頃にはもう日が陰っていて街灯もチラホラついていた。
「葵、今日は本当にありがとうね。随分と話し込んでしまってごめんなさいね。」
麗奈は駐車場に向かう中、そう申し訳なさそうに謝った。
「いえいえ、とんでもないです。沢山話してくれてありがとうございました。俺、本当に何も知らなかったから…。」
「まあこんな話、優一からは絶対しないでしょうね。だからいつだって周りにはわかって貰えないのよ。あの子も子供な部分があるわ。もっと人を頼ればいいのに。」
(そうだよな。栄人さんに少しは頼っただろうけど、きっと相談とかはしなかったんだろうな。)
ーーーずっとひとりで、今も悩み続けてるとしたらーーー
「俺、本当はどうしたらいいかわからないままなんです…」
葵が俯くと、麗奈は慌てたように葵の肩にそっと手を乗せた。
「あ…何も葵が気に病むことは無いのよ?」
「それでも、言っていいことと悪いことがあるし、やっぱ頼って欲しいとか気持ちを吐いて欲しいって気持ちはあるけど、それを聞いたら傷つけるんじゃないかって怖くて。」
「そうね、あの子はどうやったら心開いてくれるのかしらね。」
麗奈はそう言いながら車のドアを開けた。
葵も助手席に乗り込み、車のエンジンがかかるとシートベルトを締めた。
「心を開くって自然なことだけど、意識しないとわからないこともあるのかもしれないわね。」
「そうですね。……付き合ってた人にはどう心を開いたんだろう…」
ふと葵はそう発言して、ハッと我に返った。
「え?」
(あ………)
葵が恐る恐る麗奈の方を向くと、麗奈は驚き顔でハンドルから手を離し、葵を見つめていた。
「優一が昔、付き合ってた子のことを知ってるの…?」
「え?あ、いや……えっと」
(やば…どうしよう…)
「葵、教えて。」
「そ、その…詳しくは分からないんですけど…」
「私、ーーー葵はてっきりそのことは知らないと思ってて…」
「すみません…。実は優一さんの友人から聞いていて…」
葵が申し訳なさそうに言うと、麗奈は「ああ、そうなのね……」と呟いてからため息をつくと、その後何かを吹っ切るように髪をかきあげてこちらに改めて向き直った。
「ーーーわかった。じゃあもう言うわね、全部。ーーー実は今日話したこと以外にも話していないことがあるの。」
(え、もしかして……)
ーーーそれは俺が知りたかったことなんじゃーーー
そう思うと葵の心臓の鼓動はだんだんと早くなった。
それから麗奈は過去を思い返すように前を見据えると、続けた。
「昔ーーー優一に付き合ってる子がいたのは私もわかってた。まあそれがどこの誰かは分からないけど。でもね、誰も応援しなかったし、私も反対してた。多分イギリスの転勤の時に出会った子だとは思うけど…。」
麗奈は少し顔を歪ませると震えた小さな声で続けた。
「それは全部、私のせいなのよ…」
「え?」
「私が全部悪いの。あの子の希望も幸せも奪っちゃったから。」
(それはどういうこと…?麗奈さんが、優一さんの幸せと希望を奪うって…)
葵は麗奈の次の言葉を待ちながら、静かに唾を飲み込んだ。
麗奈は呼吸を整えると、改めて話し始めた。
「優一は本当に家でも外でも孤独だったと思う。どんなことをしても母親に許して貰えなかったし、相談相手もいなかっただろうし、きっと父のことも心では許してないわ。ーーーーーーでもね、ある日を境に優一は変わったの。一人でいる時、苦しそうな顔をあまり見せなくなった。むしろ何かを思い出しては楽しそうにしてるみたいだった。あと、どこかにも出かけるようになってたわ。ーーーそして家に帰れば部屋に閉じこもってひたすら何かを書いてた。それを私は少し読んだことがあるの。内緒でね。」
(え、それって…)
「ーーー優一の日記だったわ。そこには、「その子を幸せにするために僕に何が出来るのか」って英語で書かれてた。それに田舎町の電車の時刻表と、泊まる場所も。私はすぐわかった。優一は内緒で恋愛してるんだって。」
(ああ、間違いなく栄人さんが言ってた子だろうな…)
「だから私はーーー執事と母親にそのことを言ってしまったの。」
「え…」
「そしたら…もちろん母親は怒ったわ。「愛人の子供の分際であなたが誰かに愛されるわけがない。存在が不謹慎だ!」って。そして優一の日記を全て破り捨てた。その子から貰ったのかわからないけど、お花が部屋に飾ってあったからそれも踏みつけたの。何もかもを燃やして。」
「酷い……な、なんでそんなことを…」
「私もあれはやりすぎだって思ったわ。でも母親の事だからやりかねないって思ってたのに、止めなかった私も私よね……。それでも優一は泣かずに家を飛び出すだけだった。時間がないって確か言ってたわ。でもその後執事にすぐ引き戻されて、そこからはもういつもの暮らしが始まったけどーーーその後暫くして優一は荷物をまとめて出ていったの。それからは私も連絡を絶たれて、父親とは連絡をとってるみたいだし誕生日の時もプレゼントをあげたらしいけど、母親とはもう全くよ。多分何年も顔も合わせてないんじゃないかしら…。」
(そんな……あまりにも酷い…)
「だから、私のせいなのよ。優一に嫌われても仕方ないのよ。当たり前なのよ…。」
麗奈の言葉に葵はなんていえばいいのか分からなかった。
ただ、自分が知ってることは素直に言おうーーーそう思った。
「お、俺が兎角言える訳では無いけど……少し知ってることがあるんです。」
「え?」
「優一さんが時間がないって言ってたのは、きっと、優一さんのその好きな人が体が弱くて命が長くなかったからだと…… 。」
葵が静かにそう言うと、麗奈は目を見開いて、「そんな……」と小さな震えた声で呟いた。
そして、その後大粒の涙を流し始めた。
「ああ…ごめんなさい。ごめんなさい…私なんてことをしたの。こんなの、許して貰えるわけないわ…」
葵はそれに慌てて応えた。
「あ、れ、麗奈さんっ!変な事言ってごめんなさい。でも俺、麗奈さんのこと嫌いになったりしないですよ!?それに悪いことしたのってその母親じゃないですか。執事だって頼みとはいえ、なんでそんなことを………」
「いいえ、あの頃の私は気づかなかったの。あの子がどんなに孤独なのか。悔しかったし、母親にもっといい子に思われたかったから教えただけなのよ。酷いでしょう?」
「それは……でも、過ちは誰にだってありますから…」
葵はそう言ったけれど、正直、相手の心の傷はきっと癒えないだろうなと思った。
ただ分かるのはーーー今も優一が1人で苦しんでいるということだけだ。たったひとりで、誰にも頼らずに隠してきたということだけだ。
(ああ、だからーーー)
「僕を好きになるなんてありえない」
あの言葉はきっと、母親に言われたその言葉を引きづっていたからだろう。
愛されるわけがない、本物じゃない。
そう思って今まで生きてきたのだろう。
ならば優一の本心や本当の気持ちは少しずつ零れていたのだ。
でもーーー気づかなかった。
(そうだったんだ…)
ああーーー今まで一体、どんな気持ちでこの事を隠してきたんだろう。
どんな気持ちであの時、葵と麗奈が話すことを許したのだろう。
考えるだけで胸がギシリと歪む。
「ねぇ、葵……私折角、優一に会えたのに許して貰えなかったらどうしよう……どうしたらいいの…?」
「麗奈さん…」
でもーーーどちらの気持ちもわかる。
分かってしまう。
「俺が、何とかしますから…。いや、何とかしたいんです。だから泣かないでください。」
「本当…?」
「本当です。」
麗奈の潤んだ瞳を葵は真っ直ぐ見つめた。
この人も優一さんも救わなきゃーーー葵はそんな気持ちになった。
「できることが何かわからないけど、少しずつでいいなら…」
「……ありがとう。」
麗奈は葵にぎゅっと抱きついてから涙を拭くと、「ごめんなさい」と言ってからハンドルを握った。
「こんなに話してると、遅くなってしまうわね。」
「大丈夫です。優一さんの帰りは21時くらいだって言ってたので。」
「そうなのね。でも万が一の事があるから。」
「そうですね…」
(二人でいるのがバレたら大変だ…。もしかしたら俺も嫌われてしまうかもしれない…)
「ただ本当にーーー葵に会えて、話せてよかった。」
「俺もです。ここまで話が聞けると思ってなかったので…」
「そうね。でも私は優一が一緒に誰かと住んでるって聞いた時点で、もうその人に言うつもりだったから。これで良かったのよ。」
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車が最寄りの駅に到着すると、麗奈は車から降りずにロータリーの前で葵をおろした。
「ここまで乗せてくださってありがとうございます!気をつけて帰ってください。」
「ええ。いいのよ。思いの外遅くなってしまってごめんなさいね。葵も気をつけーーー……え。」
その時ふと葵の後ろに視線を外した麗奈がなにかを見つけたように目を見開いて話を辞めたので、葵も思わず振り返る。
「え?え、どうしましたか?」
麗奈の目に、葵はひたりと嫌な予感を感じた。
しかし数秒経ってすぐ麗奈は「いや」と首を振ると、呟いた。
「たんなる人違いたと思うわ…。大丈夫、大丈夫よね…?」
その様子に葵は一気に不安になる。
「も、もしかして優一さんが…?」
「いや、ただ、……似てる人がいたから…でも、多分違うわ。だって優一は遅いんでしょう?」
「そう言ってましたけど…… 早めに帰ってくる可能性もあるので、今日はもうこの辺で…」
「そうね、ここにずっと居たら危ないものね。じゃあ。ーーーまた今度会えるかしら。」
「はい!多分、今年は難しいかもですけど。」
「いいわ、また時間ある時にね。」
麗奈はそう言うと、そそくさと扉を閉め軽く手を振ってから車を走らせて行った。
葵はそれを見送ってからひとつため息をつくと、後ろをもう一度振り向く。
(本当にいない……よな?)
その次にスマホを取り出して確認する。
(うん、連絡は入ってきてない…大丈夫だ。)
葵はスマホをポケットにしまうと、家に帰ったのだった。
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