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第五十話 期待と現実
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(あ、あの圭一郎さんがまさか優一さんを好きだなんて、そんなこと誰が思うだろうか…)
あのクールでダンディで、何も非の打ち所がない大物俳優の宮井圭一郎は、過去にも何度か、女性と歩いているところを撮られたりもしていた。その度に熱愛報道は否定していたが、それでも女性からモテモテなのは間違いないし相手にも困っていなかっただろうと思えた。
なのにそんな圭一郎が5年前に優一に告白していただなんて。
「ーーーやっぱり言わない方が良かった?」
優一は葵の驚いた顔にフッと笑みを零してそう言った。
いや確かに自分は圭一郎のファンだしなんでも受け入れると言ったが、それとこれとはまた話が違うだろう。
「け、圭一郎さんて女性と付き合ってるんじゃなかったんですか?」
「まあ、恋人はいたと思うよ。それに宮井さん自身は男を好きになったのは初めてって言ってたから。」
「そうなんですか。」
葵は窓の外に顔を向け、ふと空を見上げた。
満点の星空が視界に映り込む。
(あ、だからか……)
ふと慧矢が言っていたあの言葉を思い出した。
あんなに拒絶する意味はなんなのか、よく分からなかったけれど、慧矢は和樹からも教えて貰ったとおり本当に兄一筋で兄を尊敬している。
だからこそきっと兄が優一を好きだということ、そして告白して振られた事を知って苛立っていたのだ。
(それにしてもなぁ…そんなんじゃ先輩のは嫌いって言うよりはただ単に嫉妬みたいなもんなのかなぁ…)
国民的スターだし、この美貌だ。
それにファンクラブがあったという武勇伝や、栄人から聞いた学校での告白事件などもあるし、誰からもモテているのは今更不思議ではないけれど、それにしてもと改めて感心してしまう。
「ーーー優一さんて本当に誰からでもモテモテですよね。」
「そう?けど、ファンとして好かれているのと恋愛的に好かれているのとでは全く意味が違ってくるよ。」
「いやいや!ファンの中にも優一さんをガチで好きな人なんて沢山いますよ!クラスの女子とかこの前の優一さんの雑誌特集見ながら結婚したいってめっちゃ騒いでたし…」
(それにあの小牧さんだって最近は落ち着いてるけどやっぱり本気で優一さんを狙ってることには変わりないし…そう思うとやっぱ優一さんって本当の意味でモテてるっていうか…)
「……どうだろう。」
優一はそれでもあまり興味無さそうな面持ちのままだった。
(やっぱこういう話されても何も思わないよな。好きとか日頃から沢山言われてるだろうしもっと特別な相手じゃなくちゃそういう感情は……)
って、あれ?
「思ったんですけど優一さんは一体どんな人と付き合いたいって思うんですか?よく考えたら俺知らないなぁって…。あ、例えば好きな見た目とかタイプ……とか。」
葵が何気なくそう聞くと、優一は面白そうにニヤリと笑った。
「へぇ……気になるんだ?」
(え?)
優一のその表情に葵は一瞬なぜそんなにニヤニヤしているのか分からなかったが、暫くして自分がまるで相手を意識して気にしているような質問をしてしまったことに気付くと、カーッと顔を赤らめて急いで優一から目線を逸らした。
(な、何聞いちゃってんだ!?俺は!!!)
「…い、いや!その!別に俺は変な意味で聞いてるわけじゃないですからね!?た、ただ優一さんは芸歴長いのに熱愛報道とかも一切ないし、一体どういう人を好きになるんだろーみたいな感じのノリで…べ、別に言いたくなかったら全然大丈夫ですから!単純に俳優の優一さんはどんな人と付き合いたいのかなって疑問に思っただけですから!ほら!クラスの子達も知りたいだろうなって!!!」
葵は矢継ぎ早にそう言うと、窓の外に顔を半分出して冷たい風の中でぎゅっと思いきり目を瞑った。
(まあこんなこと聞いたところでどうしようもないのはわかってるけどさーーー)
それにどんな回答が来たって別に構わないはずだ。
ただ単純にどんな人を好きになるのか気になっただけであって自分がそれを聞いてどうこうする訳じゃないし、それに相手は国民的な俳優である。
だから自分が少しでも思い描くような、安心する回答なんて来ないのはわかっているーーー
(つーか安心する回答ってなんだよ?ひょっとして俺は優一さんに好きな人がいなければいいとか思ってんのか?そんなことは……)
ーーーそれなのに、この胸のドキドキと耳の体温はどんどん熱くなっている気がした。
そんなことは露知らず、優一は一呼吸置いた後にフっと軽く微笑むと何かを楽しむような口振りで言った。
「んー。それはーーー」
「それは…?」
優一の次の言葉を望むように葵はゆっくりと口を噤んだ。
何が来ても別に動揺はしない。はずだからーーー
だからーーー
「ーーー秘密。」
「…え?」
(ええええ!お、教えてくれないのかよ!!)
葵はそうわかると、ムスッとした表情で優一を見つめた。
そうだ、この人はいつも自分のことを濁すのだから、こんなのわかっていた事じゃないか。
なのにーーー結構気になっていただけに少し納得がいかなかった。
(これくらい教えてくれたっていいのに…!)
「ははは。葵くん、凄く知りたいって顔してる。」
「いや今のはだって教えてくれる感じだったじゃ……!い、いや別になんでもないですっ」
葵は言いかけた言葉を飲み込むとそう言ってシートベルトを握りしめた。
自分が今何を言ってしまうかわからない。けど、その優一の反応や顔見た瞬間、なぜか望んだ回答は来ないような気がしてしまったのだ。
だって前から知ってる。
自分は、優一の家に住まわせてもらってるだけの存在で優一がしてくることには全部特別な感情なんてないって事をーーー
「んーじゃあキス1回につき、一文字ヒントを与えるって言うのはどうかな?」
(こ、この野郎…)
「……。却下で。」
「あ。今ちょっと悩んだ?」
クスクスと余裕そうな笑みを浮かべる優一に、葵はなんとも言えない感情のまま少し強めに応えた。
「悩んでません!!却下で!」
「可愛いな。」
「か、可愛くねぇし…」
嬉しい、のに何故か寂しいと思ってしまうのは何故なのだろう。
こんな他愛もない些細な会話でさえも自分はドキドキしてしまうのに、相手にはそんな特別な意味が1つとして無いからだろうか。
そう思うとなんだか余計に切なくなってしまった。
迎えに来てくれた時、抱きしめてくれた時。
お祭りでも他のことでも、いつだって自分だけがいつもいちいちドキドキしているからその気持ちを悟られないようにしてきたけれど、やっぱり辛かった。
初めの時からきっともう好きだったんだ。
自分のためにしてくれる優しさを特別と思ってしまったあの日から、優しさに触れてしまったあの時から。
本当は優一の家族のことだってただ知りたいわけじゃない。
自分だけがちゃんとわかりたいと、そう思ってしまったのだ。
それに第一して健全な高校男児が男の体に反応してしまうなんて、もうそれは確実に変なことだ。
更にそれを優一本人にも知られてしまっているこの状況だ。
でも優一はいつだって普通に変なことをしてきてその次の日はまるで昨夜何事も無かったかのように接してきて、意識してるようにも全く見えない。
自分は凄く気にしてるのに。
(ってことはーーーつまりはそれって変なこととかそういう事は優一さんの中では全く別物で割り切ってるってことなのか?あれは家賃分の事だし感情には一切関係ないってことなのか…?何かそれ以上の事をしたからって恋愛感情になるってことがないとするならばーーー)
じゃあ今後自分はーーーどうしたらいいのだろう?
今後、このまま普通に気持ちを隠していけるんだろうか。
これから先何がわからないしもしかしたら気持ちがまたあの日みたいに爆発して、突然変な形で「好き」だとか言ってしまうかもしれない。
そうした時、小牧や栄人にバレたらどうするんだろうか。
そうじゃなくても問いただされたら言葉を失うし動揺する。
今までだってそれで、幾度となく焦ってきたのだ。
隠せる自信がいつまで持つか、わからない。
それに1番は優一本人の人との関係だ。
栄人に恋愛ができないやつだと言われているにしても、こんなにモテるんだしいずれは誰かと恋愛するだろう。
そうなった時、自分はーーー?
ただ住んでるだけです、とか言い続けられるんだろうか。
(って俺、何こんなこと考えてんだろ……)
まだまだ先の話かもしれないのに。
それでも不安はやはり常に心の片隅にあるのだ。
「ーーー葵くん、大丈夫?」
ふいに優一に呼びかけられ、葵はビクリと体を揺すった。
「ふぇっ?!お、俺今なんか言ってました!?」
葵は慌てて自分の口元を押さえた。今のことを口に出していたとしたら大変だ。
けれど優一のキョトンとした顔を見た瞬間、バレていないと言うことがわかって葵はホッと息をついた。
「いや、何も言ってない。でも、言ってなくても顔見ればわかるよ。何か、考え事?」
「あ……いや何も……」
(優一さんは……やっぱり凄い。いつだって相手の些細なことでもそうやって気づいてくれるし心配してくれるから。だけどーーー)
「や、やっぱ何度観ても星が綺麗だなぁって。」
(こんな気持ち、口が裂けても言えるわけないじゃんか。)
「そうだね。流れ星とかも見れたらいいのに。ーーーあ、そうだ。葵くん、今日は疲れてるだろうし、なにか食べてから帰る?」
「え?あ、大丈夫です。俺、作りますよ。」
「え、本当?疲れているんじゃないの?」
「大丈夫です!そう思ってもう既に材料は昼に買い揃えてあるんで。」
「ありがとう。疲れてる時こそ美味しいご飯が食べたくなるから嬉しいよ。」
「い、いやいやそれは、出かけて食べた方が確実に美味しいと思うけどっ…」
「そんな事ない。今まで食べたご飯の中で1番美味しい。」
(ほ、ほらまたそうやって言う…)
そういうお世辞、軽く口にするなよ。ドキドキさせんなよ。
そう思うのに、目を見てしまえばそれがただのお世辞じゃないことが分かってしまうくらいに透き通っていて真剣でーーー
ーーーほんと、困るーーー
「じゃあ今日は、ちょっと凄いものを作ります。」
「へぇ、気になるなぁ。」
「勿論、帰ってからのお楽しみです。」
「はーい。」
(よし、頑張るか。)
葵は、スマホにリストで付けたレシピを開きつつまた車窓から空を見上げた。
今日はーーー本当に星が綺麗だった。
望遠鏡で見た星も隅々まで見えて美しかった。
でもそれ以上に優一と見る星空はもっと綺麗なのかもしれない。
ーーーいつか優一さんと2人で、今度は今よりももっと綺麗な場所で星を見れたらいいなーーー
なんてそんなことを思いながら、葵は自分の気持ちをそっと胸に抑え込んだのだった。
あのクールでダンディで、何も非の打ち所がない大物俳優の宮井圭一郎は、過去にも何度か、女性と歩いているところを撮られたりもしていた。その度に熱愛報道は否定していたが、それでも女性からモテモテなのは間違いないし相手にも困っていなかっただろうと思えた。
なのにそんな圭一郎が5年前に優一に告白していただなんて。
「ーーーやっぱり言わない方が良かった?」
優一は葵の驚いた顔にフッと笑みを零してそう言った。
いや確かに自分は圭一郎のファンだしなんでも受け入れると言ったが、それとこれとはまた話が違うだろう。
「け、圭一郎さんて女性と付き合ってるんじゃなかったんですか?」
「まあ、恋人はいたと思うよ。それに宮井さん自身は男を好きになったのは初めてって言ってたから。」
「そうなんですか。」
葵は窓の外に顔を向け、ふと空を見上げた。
満点の星空が視界に映り込む。
(あ、だからか……)
ふと慧矢が言っていたあの言葉を思い出した。
あんなに拒絶する意味はなんなのか、よく分からなかったけれど、慧矢は和樹からも教えて貰ったとおり本当に兄一筋で兄を尊敬している。
だからこそきっと兄が優一を好きだということ、そして告白して振られた事を知って苛立っていたのだ。
(それにしてもなぁ…そんなんじゃ先輩のは嫌いって言うよりはただ単に嫉妬みたいなもんなのかなぁ…)
国民的スターだし、この美貌だ。
それにファンクラブがあったという武勇伝や、栄人から聞いた学校での告白事件などもあるし、誰からもモテているのは今更不思議ではないけれど、それにしてもと改めて感心してしまう。
「ーーー優一さんて本当に誰からでもモテモテですよね。」
「そう?けど、ファンとして好かれているのと恋愛的に好かれているのとでは全く意味が違ってくるよ。」
「いやいや!ファンの中にも優一さんをガチで好きな人なんて沢山いますよ!クラスの女子とかこの前の優一さんの雑誌特集見ながら結婚したいってめっちゃ騒いでたし…」
(それにあの小牧さんだって最近は落ち着いてるけどやっぱり本気で優一さんを狙ってることには変わりないし…そう思うとやっぱ優一さんって本当の意味でモテてるっていうか…)
「……どうだろう。」
優一はそれでもあまり興味無さそうな面持ちのままだった。
(やっぱこういう話されても何も思わないよな。好きとか日頃から沢山言われてるだろうしもっと特別な相手じゃなくちゃそういう感情は……)
って、あれ?
「思ったんですけど優一さんは一体どんな人と付き合いたいって思うんですか?よく考えたら俺知らないなぁって…。あ、例えば好きな見た目とかタイプ……とか。」
葵が何気なくそう聞くと、優一は面白そうにニヤリと笑った。
「へぇ……気になるんだ?」
(え?)
優一のその表情に葵は一瞬なぜそんなにニヤニヤしているのか分からなかったが、暫くして自分がまるで相手を意識して気にしているような質問をしてしまったことに気付くと、カーッと顔を赤らめて急いで優一から目線を逸らした。
(な、何聞いちゃってんだ!?俺は!!!)
「…い、いや!その!別に俺は変な意味で聞いてるわけじゃないですからね!?た、ただ優一さんは芸歴長いのに熱愛報道とかも一切ないし、一体どういう人を好きになるんだろーみたいな感じのノリで…べ、別に言いたくなかったら全然大丈夫ですから!単純に俳優の優一さんはどんな人と付き合いたいのかなって疑問に思っただけですから!ほら!クラスの子達も知りたいだろうなって!!!」
葵は矢継ぎ早にそう言うと、窓の外に顔を半分出して冷たい風の中でぎゅっと思いきり目を瞑った。
(まあこんなこと聞いたところでどうしようもないのはわかってるけどさーーー)
それにどんな回答が来たって別に構わないはずだ。
ただ単純にどんな人を好きになるのか気になっただけであって自分がそれを聞いてどうこうする訳じゃないし、それに相手は国民的な俳優である。
だから自分が少しでも思い描くような、安心する回答なんて来ないのはわかっているーーー
(つーか安心する回答ってなんだよ?ひょっとして俺は優一さんに好きな人がいなければいいとか思ってんのか?そんなことは……)
ーーーそれなのに、この胸のドキドキと耳の体温はどんどん熱くなっている気がした。
そんなことは露知らず、優一は一呼吸置いた後にフっと軽く微笑むと何かを楽しむような口振りで言った。
「んー。それはーーー」
「それは…?」
優一の次の言葉を望むように葵はゆっくりと口を噤んだ。
何が来ても別に動揺はしない。はずだからーーー
だからーーー
「ーーー秘密。」
「…え?」
(ええええ!お、教えてくれないのかよ!!)
葵はそうわかると、ムスッとした表情で優一を見つめた。
そうだ、この人はいつも自分のことを濁すのだから、こんなのわかっていた事じゃないか。
なのにーーー結構気になっていただけに少し納得がいかなかった。
(これくらい教えてくれたっていいのに…!)
「ははは。葵くん、凄く知りたいって顔してる。」
「いや今のはだって教えてくれる感じだったじゃ……!い、いや別になんでもないですっ」
葵は言いかけた言葉を飲み込むとそう言ってシートベルトを握りしめた。
自分が今何を言ってしまうかわからない。けど、その優一の反応や顔見た瞬間、なぜか望んだ回答は来ないような気がしてしまったのだ。
だって前から知ってる。
自分は、優一の家に住まわせてもらってるだけの存在で優一がしてくることには全部特別な感情なんてないって事をーーー
「んーじゃあキス1回につき、一文字ヒントを与えるって言うのはどうかな?」
(こ、この野郎…)
「……。却下で。」
「あ。今ちょっと悩んだ?」
クスクスと余裕そうな笑みを浮かべる優一に、葵はなんとも言えない感情のまま少し強めに応えた。
「悩んでません!!却下で!」
「可愛いな。」
「か、可愛くねぇし…」
嬉しい、のに何故か寂しいと思ってしまうのは何故なのだろう。
こんな他愛もない些細な会話でさえも自分はドキドキしてしまうのに、相手にはそんな特別な意味が1つとして無いからだろうか。
そう思うとなんだか余計に切なくなってしまった。
迎えに来てくれた時、抱きしめてくれた時。
お祭りでも他のことでも、いつだって自分だけがいつもいちいちドキドキしているからその気持ちを悟られないようにしてきたけれど、やっぱり辛かった。
初めの時からきっともう好きだったんだ。
自分のためにしてくれる優しさを特別と思ってしまったあの日から、優しさに触れてしまったあの時から。
本当は優一の家族のことだってただ知りたいわけじゃない。
自分だけがちゃんとわかりたいと、そう思ってしまったのだ。
それに第一して健全な高校男児が男の体に反応してしまうなんて、もうそれは確実に変なことだ。
更にそれを優一本人にも知られてしまっているこの状況だ。
でも優一はいつだって普通に変なことをしてきてその次の日はまるで昨夜何事も無かったかのように接してきて、意識してるようにも全く見えない。
自分は凄く気にしてるのに。
(ってことはーーーつまりはそれって変なこととかそういう事は優一さんの中では全く別物で割り切ってるってことなのか?あれは家賃分の事だし感情には一切関係ないってことなのか…?何かそれ以上の事をしたからって恋愛感情になるってことがないとするならばーーー)
じゃあ今後自分はーーーどうしたらいいのだろう?
今後、このまま普通に気持ちを隠していけるんだろうか。
これから先何がわからないしもしかしたら気持ちがまたあの日みたいに爆発して、突然変な形で「好き」だとか言ってしまうかもしれない。
そうした時、小牧や栄人にバレたらどうするんだろうか。
そうじゃなくても問いただされたら言葉を失うし動揺する。
今までだってそれで、幾度となく焦ってきたのだ。
隠せる自信がいつまで持つか、わからない。
それに1番は優一本人の人との関係だ。
栄人に恋愛ができないやつだと言われているにしても、こんなにモテるんだしいずれは誰かと恋愛するだろう。
そうなった時、自分はーーー?
ただ住んでるだけです、とか言い続けられるんだろうか。
(って俺、何こんなこと考えてんだろ……)
まだまだ先の話かもしれないのに。
それでも不安はやはり常に心の片隅にあるのだ。
「ーーー葵くん、大丈夫?」
ふいに優一に呼びかけられ、葵はビクリと体を揺すった。
「ふぇっ?!お、俺今なんか言ってました!?」
葵は慌てて自分の口元を押さえた。今のことを口に出していたとしたら大変だ。
けれど優一のキョトンとした顔を見た瞬間、バレていないと言うことがわかって葵はホッと息をついた。
「いや、何も言ってない。でも、言ってなくても顔見ればわかるよ。何か、考え事?」
「あ……いや何も……」
(優一さんは……やっぱり凄い。いつだって相手の些細なことでもそうやって気づいてくれるし心配してくれるから。だけどーーー)
「や、やっぱ何度観ても星が綺麗だなぁって。」
(こんな気持ち、口が裂けても言えるわけないじゃんか。)
「そうだね。流れ星とかも見れたらいいのに。ーーーあ、そうだ。葵くん、今日は疲れてるだろうし、なにか食べてから帰る?」
「え?あ、大丈夫です。俺、作りますよ。」
「え、本当?疲れているんじゃないの?」
「大丈夫です!そう思ってもう既に材料は昼に買い揃えてあるんで。」
「ありがとう。疲れてる時こそ美味しいご飯が食べたくなるから嬉しいよ。」
「い、いやいやそれは、出かけて食べた方が確実に美味しいと思うけどっ…」
「そんな事ない。今まで食べたご飯の中で1番美味しい。」
(ほ、ほらまたそうやって言う…)
そういうお世辞、軽く口にするなよ。ドキドキさせんなよ。
そう思うのに、目を見てしまえばそれがただのお世辞じゃないことが分かってしまうくらいに透き通っていて真剣でーーー
ーーーほんと、困るーーー
「じゃあ今日は、ちょっと凄いものを作ります。」
「へぇ、気になるなぁ。」
「勿論、帰ってからのお楽しみです。」
「はーい。」
(よし、頑張るか。)
葵は、スマホにリストで付けたレシピを開きつつまた車窓から空を見上げた。
今日はーーー本当に星が綺麗だった。
望遠鏡で見た星も隅々まで見えて美しかった。
でもそれ以上に優一と見る星空はもっと綺麗なのかもしれない。
ーーーいつか優一さんと2人で、今度は今よりももっと綺麗な場所で星を見れたらいいなーーー
なんてそんなことを思いながら、葵は自分の気持ちをそっと胸に抑え込んだのだった。
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