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第四十五話 苦手な先輩

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「やっーとテスト返しも終わったねー」

「だなー」

秋の夕暮れ、少し肌寒くなった帰り道。
葵は和樹と共に校門を抜けると駅の中にあるカフェ向かって歩きながら、配られたテストの結果を見て安堵を着いた。
テスト前、担任の先生が赤点を取ったらどうなるかーーーとわざとらしく脅してきたこともあってか、赤点がないかとヒヤヒヤしていたのだ。
けれど2人とも前回より成績が大いに上がっていた。

「美術の先生がさ、少し意地悪な問題出てきたからそこで迷って70点いけないんじゃないかって焦ったよ。ーーーほら、この問題。」

駅の中のカフェに着くと、和樹は向かい側の席に座って、注文したココアを飲みながらテストの解答用紙を指さした。

「美術の先生、無駄に厳しいよな。次は絶対クラスの平均点を85点以上にするように!とか言い出すし····」

そういう自分は70点で、でも自分的にはかなり良い点数を取れた方なのだと思うのだが、先生には「まだまだ努力が足りない!」と言われてしまった。

「それより大切なのは、四教科だよね。」

「だよな!数学落としたらまじやばい。」

「うん。あ、そういえばーーー英語どうだった?葵くん、テスト前ギリギリまで英語めっちゃ頑張ってたよね。」

「あーうん!上がってたよ!いや実はさ、一緒に住んでる人(?)に家庭教師みたいな感じで教えて貰っててさ。忙しいのに教えてくれたからそれなりに頑張らなきゃって気持ちで必死だったんだよ。」

(というかそもそもめっちゃわかり易かったしな····まあ、教えた後に毎回セクハラしてくるのだけはあれだったけど···)

「えー!そうなんだ。というかそういえば、シェアハウスしてる人って親戚とかじゃないんだっけ?」

「え····あ、うん。一応おばさんの知り合いの繋がりではあるんだろうけどそんな人がいるってことは全然知らなかったし、血は繋がってないよ。」

「そうなんだ····。大変だね。それってほぼ他人ってことでしょ?暮らしててもう嫌だー!とか、ならないの?」

「あーそれは少し思ったことはあるけど····でも悪い人じゃないし、結構変わってるし家事も全くできない不摂生が多いけど····。」

(あと家賃代わりに変なことしてくるけど···)

「え、その人本当に大丈夫なの!?何かあったら言ってね!?僕がなにかできるかはわからないけど···」

「あっ····だ、大丈夫大丈夫!そんな酷い人ってわけじゃないしそれに、性格は優しい人だしっ!」

「そうかなぁ。危ない人だったらと思うと怖いけど·····まあ僕がなにか言える立場でもないか」

「い、いやいや心配してくれてありがとな!」

(ああこれがあの国民的黒瀬優一の素顔だとは誰も思わないんだろうな虚しい····)

「そっかぁ····」

「····つ、つーかさ!正直そっちの方が大変だろ?」

「え?」

「双子の弟いて妹もまだ小さくて、共働きだからいつも迎えとか親の代わりに行ってるってこの前話してたじゃん?その方が尊敬だよ。俺兄弟いないからそういうのわかんないしさ。子育てとか気疲れしそうだし。」

「え、そうかな····?ありがとう。そう言って貰えることないから嬉しい。まあ確かに反抗されたりするとイライラしたりもするよ。なんたって言う事聞かないと拉致あかないし泣き出したら僕が怒られるし」

「うわ、大変そ····」

「でも、最後には結局は仕方ないって受け入れられるんだよね。だってーーー」

「なんだかんだ言っても家族だもん。」

(ーーーーーーーーーーーーあ·····。)

「そ、そっか!家族だもんな!結局反抗されても弟とか妹なら可愛いって思うよなぁー!あー俺、未だに兄貴欲しかったと思うし。」

(そっか、家族······家族だから受け入れられる、か。)

その言葉にふいに、葵は優一のこの前の言葉を思い出して何を言葉にすればいいか一瞬迷ってしまった。
別に和樹は変なことを言っている訳では無いのに何故か胸に引っかかってしまう。

「あー葵くん前も言ってたね!確かに兄弟いるとゲームする時とか超楽しいよー!」

「い、いいなぁ。」

(まあそんなこと考えても今はどうしようもないし仕方ないんだけどーーー)

「ていうかそれなら今度家に遊びにおいでよ!」

「え?」

「ゲーム機器沢山あるし絶対楽しいよ!僕友達とか家に呼んだことないからあれだけど、葵くんゲームにも詳しいし一緒にいて楽しいから、親が家呼んでもいいよって言ってくれてさ!葵くんが嫌じゃなければと思ってたんだ!」

「え、いいの····?」

(友達の家で遊ぶとかしたことないし、行きたい!!!)

「もちろんだよ!あ、でも三日後塾のテストあるからそれ以降で!」

「おう、わかった!ありがとう!」

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

それから2時間ほど和樹と話してからカフェを出るとすっかり日は落ちていた。
さっきまでまだ少し肌寒いくらいだったのが、今は結構寒いぐらいになっていて、改めて冬も近づいてきているのだと感じた。

「もうすっかり日が落ちるの早くなったよな。」

「だよねー。あ、そういえば天文学部の天体観測っていつになったの?夏から秋に変更したって言ってたけど。」

「あーあれはーーーえっとーーー·····」

(あ、そういえば連絡来てないなーーー)

「あ、まって!葵くん後ろから人がーーー」

「え?」

その時だった。
突然ドカッと後ろから人の肩がぶつかってきて、葵は前方に大きくよろけてしまった。

「あ、わりぃ」

「うわわわっお、俺こそすみません!って、あっ····」

葵がぶつかった人に慌てて謝って、体制を整えて顔をあげると、そこに居たのはなんとーーー!
天文学部の3人組ーーーではなくてその中でいつも孤立している無愛想な先輩ーーー宮井慧矢だった。
宮井慧矢はかけていたイヤフォンを外して、葵の顔を見るなりにギリッと尖ったような目をした。

「ああーーーお前か。」

(う、うわ·····よりによってこの感じ悪い先輩にぶつかるなんて最悪なんですけども····)

「ぁあ·····す、すみません···次から気をつけます····」

「ま、ちょうど良いわ。天体観測」

「え?」

「明明後日の夜になったって聞いてる?」

「えっき、聞いてないです····!」

「ん。そういうことだから。」

「あ、は、はい····」

(え、明明後日!?もうすぐじゃん!え、なぜか連絡来てなかったんだけど····ていうか相変わらずこの人無愛想だし目つき悪いなぁ········ま、とりあえず早く去ろうーーー)

「お、教えてくださってありがとうございます····で、では失礼しますっ!和樹くんーーー」

(よし、これでーーー)

葵が話を上手く終わらせて、一刻も早くこの場を去ろうと和樹の方に向いたその時だった。

「え、慧矢先輩じゃないですか!!お疲れ様です!」

(ーーーえ····?)

和樹が突然笑顔になってそんなことを先輩に言ったのだった。

葵がわからなくて驚いて固まると、宮井慧矢も和樹の方を向いて「おお。和樹か、お疲れ。」と普通の顔で挨拶したのだった。

そして、今度は慧矢の方から「あんま遅くに帰ると危ねぇから気をつけろよ。」という心配をしてきた。

そして和樹はそれに対して何も驚くことなく、「ありがとうございます!」とまるでいつもそんな感じで話しているかのように嬉しそうに笑ったのだった。

葵はその光景に目を見開いた。

(なっ!?なぜ·····!?お、俺には挨拶とかまともにしなかったしあんなに態度悪かったのに他の人にはこんな感じだったの!?てか、まさか俺·····あの先輩に一方的に嫌われてるのか·····!?)

「じゃ。」

「先輩また!」

それから慧矢はぱっと右手をあげると、それだけ言ってそそくさと横をとおりすぎていってしまった。

葵はその光景をマジマジと見つめながら、少し距離が離れたところで歩き出した和樹に早速聞いた。

「な、なぁ····今の先輩と····な、仲良いの?」

「え、なんで?」

「え、あ····いや····なんとなく仲良いのかなぁって。ていうのもあの先輩、実は天文学部で一緒なんだけどさ、最初から態度悪くてさすげぇ絡みづらいっていう感じで苦手でさーーー」

葵がそこまで言ったところで和樹が驚いたように声をあげた。

「え!葵くんもしかしてあの先輩のこと知らないの!?」

「·········えーーー?」

「あの先輩俳優の宮井圭一郎の弟だよ!?あと今はモデルやってて芸能事務所からスカウトも来てるぐらい学校では有名な人なんだよ!」

「え、あ、あの先輩が圭一郎さんの弟!?」

(み、宮井圭一郎って間違いなく大河ドラマとか数多く出てる優一さんに並んで人気沸騰中の俳優さんだよな!?昔おばさんがハマってたドラマでも出てたし俺も昔から好きな俳優さんなんだけどっ···うそ·····まさかあの俳優さんに弟がいて、それがあの先輩だなんて(色々な意味でショックが····)ていうかそれよりーーー)

「あの先輩モデルやってんの!?ぜ、全然そんな感じしなかったんだけど····むしろそういうの嫌いそうな感じだと思ってて····」

「あーまあ、極度の人見知りと好き嫌い激しい性格で知られてるよ。でもほら、僕はこの付近に住んでるし中学同じで結構話したりしてたから話せてるってだけだよ。」

「そ、そうなのか。あー俺上京してきた身だから全然わかんねぇ····。」

「あはは、まあ驚くよね。でもモデルって言っても雑誌とかだし、口止めされてることも結構多いらしいからあんまり騒げないだけで、この学校ではかなりモテてるんだよ。あと、最近の噂では演劇も個人で学んでるらしくて、高校卒業したら芸能の道行くんじゃないかーーーって囁かれてるよ。」

「そうなんだ!?」

「うん!二世の俳優になったら凄いよなぁ。圭一郎さんの演技も凄いし、その弟ってなると尚更期待しちゃうってお母さんが言ってた!というか凄い人が近くにいるってなんかこの学校の特権って改めて思うよねー。」

「まあ確かに凄い····。それに俺、普通に圭一郎さん昔から好きだからかなり驚いたし···」

(なんだかんだいって芸能には詳しくなかったけど、圭一郎さんのドラマ見てそれがきっかけで色々な俳優さん知ったようなもんだし····)

「え、そうなの!?じゃあ言ってくれたらさっき先輩に言ったのに。サインとか普通にくれるよ?」

「え、サイン!?それいいのかよ!?」

「うんうん!あの先輩、兄のファンを見たり兄を褒められると凄く嬉しくてついついあげちゃうんだってさ。それに、今も兄のために密かに頑張ってるみたい。そう聞くと、兄想いの良い弟だよね。」

「そ、そうなんだ。冷たそうな人だと思ったけどかなり意外かも····」


「まああれは人見知りなだけだと思うから怖い顔されてもあの先輩のことならあんまり気にしなくていいと思うよー!」

「そっか。」

(人は見かけによらないとはこのことなのか····。なんか凄い苦手意識持ってたけど、それなら今度圭一郎さんのことで話しかけてみようかな····仲良くできなさそうと思ってたけどこれなら·····つーか普通にサイン欲しいかも··。)

「うん!ーーーあ、じゃそろそろここで!おつかれー!」

「おう!おつかれさまー!」


ーーーーーー

ーーーーーーーーー

その夜ーーーーーー
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