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第四十話 思わぬ再会
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「ゆ、優一さんありがとうございます!やっと謎が解けました!学校の先生よりわかりやすいです!」
9月も下旬、あれから葵は優一に毎日英語を1時間教えてもらえることになり、わかりやすい優一の解説によって、なんとかテスト範囲の所まで理解に追いつくことが出来たのだ。
「それは良かった。テスト、頑張ってね。」
優一はそう言うとキッチンに置いてある葵が淹れたコーヒーを一口啜った。
窓からはまだ陽が出ていて明るい。
今日は日曜日だったので2人とも休みだったのだ。
「やっぱ英語できるって良いなぁ…」
葵はノートを片付けながら改めて羨ましそうに呟いた。
この前は楽しい思い出が何一つないと言われてやってしまった、と反省したものの、やはり英語ができるというのは今の世の中的に特権でもある。
「そんなに?まあ……でも、話せたら便利だよね。」
「そうですよ!今は日本もかなり国際化してるし……あ、そういえば優一さん」
「うん?」
「あの、10月辺りに天文部の天体観測会があって…ちょっと山の方行くんですけど良いですか?場所はここなんですけど。」
優一に資料を手渡すと、優一はその資料にサッと目を通した。
「帰りは何時になりそうなの?」
「うーん、22時ぐらいかな…」
「遅いね。」
(あ、あれ?もしかしてダメ…?)
「いいよ。帰りは電話して、迎えに行くから。」
「え!あ、ありがとうございます。」
(あ、良かった…って)
「む、迎えに!?俺は大丈夫ですよ!!それに栄人さんから優一さんの10月は忙しいって聞いたし…」
「夜道は危ないでしょう。遠慮しなくていいよ。」
「あ、じゃあ…お言葉に甘えて…」
「うん。」
(あ、相変わらず優しいよな……)
ドキドキ…
(って、ドキドキじゃねぇし!!)
「あー…そうだ。今日、折角休みだし良い天気だからどこかに出掛けようか。」
「え?お出掛けですか?」
「うん。葵くん、どこに行きたい?どこでもいいよ。」
優一は休みを満喫しているのか上機嫌にそう言った。
「え?あ、あっ…」
葵は突然話を振られて戸惑いつつも、必死に考えた。
(んー…ど、どこ行こう…?)
「っていきなり言われても困るか。それともテスト前だから勉強する?」
(っ!てそれは嫌だっ)
「あっっ…あの!」
「ん?」
「じゃあ…近くでもいいので食べに…行きたいですっ…」
(だって折角優一さんとお出かけできるんだし!!)
「はは、わかった。」
こうしてテスト前の休日、葵は優一と共に出掛けることになったのだった。
高級マンションの地下から車を走らせた優一が「それにしても」と言った。
「ーーーーー近くって何処がいいの?」
「え、えーっと……」
(とりあえず出掛けたかったから何も考えてなかった……)
「ーーーーーまあ、なんでもいいなら僕が選んじゃうけど。」
「あ、じ、じゃあお願いします!」
それから車は大きな交差点を曲がり、学校とは反対方向のあまり行かない場所へと向かっていった。
ーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
着いたのは、少し高級っぽいレストランだった。
ホテル内部にあって、ホテル利用客も一般の人も入れるようになっていた。
「こ、こんな高そうなとこいいんですかっ!」
(おいおいメニューがっ!めっちゃ長い名前ばっかり!なんだこれ!)
「葵くんテスト頑張っていたしね。それに、家事もいつも頑張ってくれているし。」
「ありがとうございますっっ」
(わぁぁあ!なんて寛大なんだ…!)
葵は神を拝むような眼差しを優一に向けて、この空間に暫くひたっていた。
食べたいものは多すぎて決まらなかったが、結局優一がオススメだと教えてくれたものを頼むことにした。
そして、目の前にとても美味しそうなハンバーグが登場したと同時に葵は一口ぱくりと食べた。
「美味しい?」
「お、美味しいです!!」
(うわぁあ!なにこのふわふわのハンバーグ!!よおおし!これでテストもっと頑張らなきゃなぁ…!ーーーーーあっ…)
しかしその時だった。
ふと、葵が顔を上げると、奥のテーブルに一人で座る女性と目が合ったのだ。
そして、とても綺麗な茶髪で、高いヒールを履いて露出度高めな服装をしていて、少し日本人離れした風格を持つその彼女に、葵は思わず「あ。」と呟いてしまった。
だが、それはただ単に特別綺麗だったからとか、一目惚れとかではない。
なんとその女性は少し前にスーパーの調味料コーナーでぶつかったあの綺麗な女性だったからだ。
「ん?」
「あ、いや…」
その女性も葵には気づいているらしく、丁寧に会釈をしたので葵も会釈をし返す。
「うん?葵くんどうしたの?知り合いでもいた?」
「あ、ちょっと…知り合いというよりは全く他人なんですけど…この前スーパーでぶつかっちゃった人がいました…」
「そうか。ん?スーパーでぶつかったの?怪我はなかった?」
「あ、お、俺は大丈夫でした…けど…」
(あ、あれ?なんかあの女性…よく見ると今度は優一さんの方を見ているようなーーーーー)
その瞬間だった。
「あっ!!!」
女性が声をあげて、高いヒールをカツカツと鳴らしながらこちらに向かってきたのだ。
「ふぇっ!?」
葵が思わず声を上げて身を引くと、優一も振り向く。
「優一!!!やーーーっと見つけた!!!こんな所にいたのね!?」
(え…!?)
「なんで君がここに?フランスに行ってたんじゃ…」
「馬鹿ね!あんたを探しに来たんでしょうがっ!!」
女性は柔らかく綺麗な顔に似合わない尖った声で言うと、今度はこちらに目を向けた。
その眼光に葵は何もしていないというのに思わず謝りたくなった。
(え?こ、この人確かに芸能人みたいに綺麗だと思ったけどもしかして…芸能関係の人だったの!?ていうか、優一って呼び捨て……)
「てか、あんたこの子は一体誰?友達?あんたの子供?」
(こ、子供って…!)
「結婚もしていないのに子供がいるわけないだろう。この子は同居しているだけだ。」
優一は女性にはなるべく目を合わせないようにして面倒くさそうにそう答えた。
なんだか嫌な空気だ。
「え、同居!?はっ!?えっ!?」
女性はその言葉を聞いて、2倍速で交互に優一と葵を見る。
(あーーまって、その言い方は誤解され……)
「あなた?それは本当なの?というか、前にスーパーで会った子よね?」
「あっ…は、はいっ…。えっと、あの時は本当にすみません…」
「いいや、全然大丈夫よ?でもそれにしたって…優一が同居ねぇ……へぇ。」
女性は意味深に頷くと、大きな瞳で葵の全身を舐めるように見渡した。
(えっ、な、なんか品定めされているような…)
葵は緊張して思わず唾を飲み込んだ。
「んん?でも……見た感じ普通の子ね…?優一、そんな子と同居って、あんたどうしちゃったの?」
「はい…?僕は別にどうもしていない。それに僕がどうしようが君には関係ないだろう?」
「なにそれ!相変わらず素っ気ないやつね。」
「というかそんなことより、なんで君が日本にいるのか説明してくれない?」
「はぁ?何も言わずに出てってなんでじゃないわよ!!」
(こ、こわ…ていうか本当にこの人と優一さんはどういう関係なんだろ……はっ…も、もしかして…)
「あ、あのー…」
「ん?」
「なに?」
ドクン…
「あっ…ふ、二人はどういう関係の……」
ドクン…
葵は耐えかねず恐る恐るそう聞いてしまった。
すると優一は黙ったが、女性の方がニヤリと口角を上げて答えた。
ドクン…
(もしかして優一さんの元カーーーーー)
「ふふっ、私は優一の姉よ。」
「え。」
(ええええ!??ゆ、優一さんのお姉さんっ!?…てことは…優一さんの家族!?)
「あら、やあね。優一ったらそんな顔しなくてもいいじゃない。」
「っとに…。もう無駄話は終わらせてくれないか。僕達は食べたら他に用事があるから…」
「あら、この子と一日中デートするの?」
(で、で、デート!?)
や、やっぱお姉さん勘違いしてるんじゃ…!?
「っていうか、あなたなんてお名前なのか聞いてもいいかしら?」
「えっ…あっ…お、俺は葵って言います!」
「ふーん。葵ね。」
(はぁ…それにしても優一さんのお姉さんこんなに綺麗な人だったんだ…誰かに似た面影を感じたけどそれは優一さんだったんだ…)
てっきり元カノとかかと…
(ってなんでそんなこと思ってんだよ俺!!)
「ねぇ葵。そのデート私も同行してもいいかしら?」
「えっ?」
「はぁ。全く…冗談はやめてくれ。僕はまた明日から仕事だし葵くんもテスト前でそんな長く出掛けるつもりはーーーーー…」
「なに?私は葵に聞いてるのよ?」
長い睫毛の下で優一の姉はギリッと優一を睨みつけると、今度は柔らかい笑顔で葵の方に向き直る。
すると優一は腕を組んで押し黙ってしまった。
(ひっ……まるで別人だ…)
「勿論良いわよね?優一の姉として、優一と暮らしているっていう貴方のお話も聞きたいの。」
「あっ…ーーーーーは、はいっ」
(こ、こんな優一さんのお姉さんの頼みを…断れるわけがない…)
「ふっ…。ていうことだから優一、レストラン出たら連絡してよね。あ、あとあんた番号変えた?」
「とっくの昔に変えているけど…」
「そう、なら今すぐ教えなさい。」
「はぁ…?一体なんでこうなるんだか…」
「グチグチ言うんじゃないわよ。貸しなさい。」
優一は不機嫌そうにスマホを取り出して姉に渡した。
(あー…な、なんか仲悪いのかな…?姉って言ってたからそれなりに話したりしてるのかなって思ったけど、今まで連絡取り合ってなかったみたい…?でもそれじゃ尚更俺さっきの断った方が良かっ…って今更考えても無駄だけど。)
「ーーーーーあ、ちなみに私は麗奈って名前だから、好きに呼んでね?」
「あっ…わかりましたっ」
(麗奈さんって言うんだ…)
「それじゃ、私出る支度してくるからそっち食べ終わったらすぐ連絡しなさいよ。」
麗奈はそう言うとツカツカと先程の奥のテーブルに戻っていった。
そして急に辺りが静かになったように感じ、葵は思わず食べていた手が止まった。
「はぁ…」
優一はなんだか凄くだるそうな、不機嫌そうな表情を浮かべている。寝起きの悪い時の優一より遥かにこれは、やばい。
(ど、どうしよう…優一さん一気に不機嫌になっちゃった…。折角こんな美味しいとこ連れてってもらったのに…。でも、まさか優一さんの家族?に会えるなんて…)
優一が過去にどんな生活をしていたのか、それはファンや栄人さえも知らないことで、気になっても絶対に聞けるようなことではないと思っていた。
だからなのかわからないけど今俺はーーーーー
思わぬ出会いをしたような?
なんだかお姉さんから知らない話を聞ける気がして。
(優一さんには申し訳ないけどちょっと俺、ワクワクしてるかも…)
「ゆ、優一さん…大丈夫ですか?」
「あぁ…まあ。ごめんね。驚かしちゃって。」
「あ…お、俺は全然大丈夫ですよ。」
「そう、なんか変な事聞いてくるかもしれないけど、答えなくていいからね。」
「あっ…は、はいっ…」
(な、なんかそんなこと言われると怖いんですけどーーーーー)
それから優一と葵は昼を食べ終えると、優一の姉の麗奈と共に出掛けることになったのだったーーーーー
9月も下旬、あれから葵は優一に毎日英語を1時間教えてもらえることになり、わかりやすい優一の解説によって、なんとかテスト範囲の所まで理解に追いつくことが出来たのだ。
「それは良かった。テスト、頑張ってね。」
優一はそう言うとキッチンに置いてある葵が淹れたコーヒーを一口啜った。
窓からはまだ陽が出ていて明るい。
今日は日曜日だったので2人とも休みだったのだ。
「やっぱ英語できるって良いなぁ…」
葵はノートを片付けながら改めて羨ましそうに呟いた。
この前は楽しい思い出が何一つないと言われてやってしまった、と反省したものの、やはり英語ができるというのは今の世の中的に特権でもある。
「そんなに?まあ……でも、話せたら便利だよね。」
「そうですよ!今は日本もかなり国際化してるし……あ、そういえば優一さん」
「うん?」
「あの、10月辺りに天文部の天体観測会があって…ちょっと山の方行くんですけど良いですか?場所はここなんですけど。」
優一に資料を手渡すと、優一はその資料にサッと目を通した。
「帰りは何時になりそうなの?」
「うーん、22時ぐらいかな…」
「遅いね。」
(あ、あれ?もしかしてダメ…?)
「いいよ。帰りは電話して、迎えに行くから。」
「え!あ、ありがとうございます。」
(あ、良かった…って)
「む、迎えに!?俺は大丈夫ですよ!!それに栄人さんから優一さんの10月は忙しいって聞いたし…」
「夜道は危ないでしょう。遠慮しなくていいよ。」
「あ、じゃあ…お言葉に甘えて…」
「うん。」
(あ、相変わらず優しいよな……)
ドキドキ…
(って、ドキドキじゃねぇし!!)
「あー…そうだ。今日、折角休みだし良い天気だからどこかに出掛けようか。」
「え?お出掛けですか?」
「うん。葵くん、どこに行きたい?どこでもいいよ。」
優一は休みを満喫しているのか上機嫌にそう言った。
「え?あ、あっ…」
葵は突然話を振られて戸惑いつつも、必死に考えた。
(んー…ど、どこ行こう…?)
「っていきなり言われても困るか。それともテスト前だから勉強する?」
(っ!てそれは嫌だっ)
「あっっ…あの!」
「ん?」
「じゃあ…近くでもいいので食べに…行きたいですっ…」
(だって折角優一さんとお出かけできるんだし!!)
「はは、わかった。」
こうしてテスト前の休日、葵は優一と共に出掛けることになったのだった。
高級マンションの地下から車を走らせた優一が「それにしても」と言った。
「ーーーーー近くって何処がいいの?」
「え、えーっと……」
(とりあえず出掛けたかったから何も考えてなかった……)
「ーーーーーまあ、なんでもいいなら僕が選んじゃうけど。」
「あ、じ、じゃあお願いします!」
それから車は大きな交差点を曲がり、学校とは反対方向のあまり行かない場所へと向かっていった。
ーーーーー
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着いたのは、少し高級っぽいレストランだった。
ホテル内部にあって、ホテル利用客も一般の人も入れるようになっていた。
「こ、こんな高そうなとこいいんですかっ!」
(おいおいメニューがっ!めっちゃ長い名前ばっかり!なんだこれ!)
「葵くんテスト頑張っていたしね。それに、家事もいつも頑張ってくれているし。」
「ありがとうございますっっ」
(わぁぁあ!なんて寛大なんだ…!)
葵は神を拝むような眼差しを優一に向けて、この空間に暫くひたっていた。
食べたいものは多すぎて決まらなかったが、結局優一がオススメだと教えてくれたものを頼むことにした。
そして、目の前にとても美味しそうなハンバーグが登場したと同時に葵は一口ぱくりと食べた。
「美味しい?」
「お、美味しいです!!」
(うわぁあ!なにこのふわふわのハンバーグ!!よおおし!これでテストもっと頑張らなきゃなぁ…!ーーーーーあっ…)
しかしその時だった。
ふと、葵が顔を上げると、奥のテーブルに一人で座る女性と目が合ったのだ。
そして、とても綺麗な茶髪で、高いヒールを履いて露出度高めな服装をしていて、少し日本人離れした風格を持つその彼女に、葵は思わず「あ。」と呟いてしまった。
だが、それはただ単に特別綺麗だったからとか、一目惚れとかではない。
なんとその女性は少し前にスーパーの調味料コーナーでぶつかったあの綺麗な女性だったからだ。
「ん?」
「あ、いや…」
その女性も葵には気づいているらしく、丁寧に会釈をしたので葵も会釈をし返す。
「うん?葵くんどうしたの?知り合いでもいた?」
「あ、ちょっと…知り合いというよりは全く他人なんですけど…この前スーパーでぶつかっちゃった人がいました…」
「そうか。ん?スーパーでぶつかったの?怪我はなかった?」
「あ、お、俺は大丈夫でした…けど…」
(あ、あれ?なんかあの女性…よく見ると今度は優一さんの方を見ているようなーーーーー)
その瞬間だった。
「あっ!!!」
女性が声をあげて、高いヒールをカツカツと鳴らしながらこちらに向かってきたのだ。
「ふぇっ!?」
葵が思わず声を上げて身を引くと、優一も振り向く。
「優一!!!やーーーっと見つけた!!!こんな所にいたのね!?」
(え…!?)
「なんで君がここに?フランスに行ってたんじゃ…」
「馬鹿ね!あんたを探しに来たんでしょうがっ!!」
女性は柔らかく綺麗な顔に似合わない尖った声で言うと、今度はこちらに目を向けた。
その眼光に葵は何もしていないというのに思わず謝りたくなった。
(え?こ、この人確かに芸能人みたいに綺麗だと思ったけどもしかして…芸能関係の人だったの!?ていうか、優一って呼び捨て……)
「てか、あんたこの子は一体誰?友達?あんたの子供?」
(こ、子供って…!)
「結婚もしていないのに子供がいるわけないだろう。この子は同居しているだけだ。」
優一は女性にはなるべく目を合わせないようにして面倒くさそうにそう答えた。
なんだか嫌な空気だ。
「え、同居!?はっ!?えっ!?」
女性はその言葉を聞いて、2倍速で交互に優一と葵を見る。
(あーーまって、その言い方は誤解され……)
「あなた?それは本当なの?というか、前にスーパーで会った子よね?」
「あっ…は、はいっ…。えっと、あの時は本当にすみません…」
「いいや、全然大丈夫よ?でもそれにしたって…優一が同居ねぇ……へぇ。」
女性は意味深に頷くと、大きな瞳で葵の全身を舐めるように見渡した。
(えっ、な、なんか品定めされているような…)
葵は緊張して思わず唾を飲み込んだ。
「んん?でも……見た感じ普通の子ね…?優一、そんな子と同居って、あんたどうしちゃったの?」
「はい…?僕は別にどうもしていない。それに僕がどうしようが君には関係ないだろう?」
「なにそれ!相変わらず素っ気ないやつね。」
「というかそんなことより、なんで君が日本にいるのか説明してくれない?」
「はぁ?何も言わずに出てってなんでじゃないわよ!!」
(こ、こわ…ていうか本当にこの人と優一さんはどういう関係なんだろ……はっ…も、もしかして…)
「あ、あのー…」
「ん?」
「なに?」
ドクン…
「あっ…ふ、二人はどういう関係の……」
ドクン…
葵は耐えかねず恐る恐るそう聞いてしまった。
すると優一は黙ったが、女性の方がニヤリと口角を上げて答えた。
ドクン…
(もしかして優一さんの元カーーーーー)
「ふふっ、私は優一の姉よ。」
「え。」
(ええええ!??ゆ、優一さんのお姉さんっ!?…てことは…優一さんの家族!?)
「あら、やあね。優一ったらそんな顔しなくてもいいじゃない。」
「っとに…。もう無駄話は終わらせてくれないか。僕達は食べたら他に用事があるから…」
「あら、この子と一日中デートするの?」
(で、で、デート!?)
や、やっぱお姉さん勘違いしてるんじゃ…!?
「っていうか、あなたなんてお名前なのか聞いてもいいかしら?」
「えっ…あっ…お、俺は葵って言います!」
「ふーん。葵ね。」
(はぁ…それにしても優一さんのお姉さんこんなに綺麗な人だったんだ…誰かに似た面影を感じたけどそれは優一さんだったんだ…)
てっきり元カノとかかと…
(ってなんでそんなこと思ってんだよ俺!!)
「ねぇ葵。そのデート私も同行してもいいかしら?」
「えっ?」
「はぁ。全く…冗談はやめてくれ。僕はまた明日から仕事だし葵くんもテスト前でそんな長く出掛けるつもりはーーーーー…」
「なに?私は葵に聞いてるのよ?」
長い睫毛の下で優一の姉はギリッと優一を睨みつけると、今度は柔らかい笑顔で葵の方に向き直る。
すると優一は腕を組んで押し黙ってしまった。
(ひっ……まるで別人だ…)
「勿論良いわよね?優一の姉として、優一と暮らしているっていう貴方のお話も聞きたいの。」
「あっ…ーーーーーは、はいっ」
(こ、こんな優一さんのお姉さんの頼みを…断れるわけがない…)
「ふっ…。ていうことだから優一、レストラン出たら連絡してよね。あ、あとあんた番号変えた?」
「とっくの昔に変えているけど…」
「そう、なら今すぐ教えなさい。」
「はぁ…?一体なんでこうなるんだか…」
「グチグチ言うんじゃないわよ。貸しなさい。」
優一は不機嫌そうにスマホを取り出して姉に渡した。
(あー…な、なんか仲悪いのかな…?姉って言ってたからそれなりに話したりしてるのかなって思ったけど、今まで連絡取り合ってなかったみたい…?でもそれじゃ尚更俺さっきの断った方が良かっ…って今更考えても無駄だけど。)
「ーーーーーあ、ちなみに私は麗奈って名前だから、好きに呼んでね?」
「あっ…わかりましたっ」
(麗奈さんって言うんだ…)
「それじゃ、私出る支度してくるからそっち食べ終わったらすぐ連絡しなさいよ。」
麗奈はそう言うとツカツカと先程の奥のテーブルに戻っていった。
そして急に辺りが静かになったように感じ、葵は思わず食べていた手が止まった。
「はぁ…」
優一はなんだか凄くだるそうな、不機嫌そうな表情を浮かべている。寝起きの悪い時の優一より遥かにこれは、やばい。
(ど、どうしよう…優一さん一気に不機嫌になっちゃった…。折角こんな美味しいとこ連れてってもらったのに…。でも、まさか優一さんの家族?に会えるなんて…)
優一が過去にどんな生活をしていたのか、それはファンや栄人さえも知らないことで、気になっても絶対に聞けるようなことではないと思っていた。
だからなのかわからないけど今俺はーーーーー
思わぬ出会いをしたような?
なんだかお姉さんから知らない話を聞ける気がして。
(優一さんには申し訳ないけどちょっと俺、ワクワクしてるかも…)
「ゆ、優一さん…大丈夫ですか?」
「あぁ…まあ。ごめんね。驚かしちゃって。」
「あ…お、俺は全然大丈夫ですよ。」
「そう、なんか変な事聞いてくるかもしれないけど、答えなくていいからね。」
「あっ…は、はいっ…」
(な、なんかそんなこと言われると怖いんですけどーーーーー)
それから優一と葵は昼を食べ終えると、優一の姉の麗奈と共に出掛けることになったのだったーーーーー
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