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第三十九話 気にかかること

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9月も中旬に差し掛かり、すっかり空気は涼しくなった今日。
葵は一人部屋の中で黙々と勉強をしていた。

ーーーーーあれから文化祭は2日目も無事に終わり、後夜祭も無事に終えたことで、実行委員としての役割を立派に終えた葵は次に最優先すべきものを全うするために気持ちをとっとと切り替えたのである。

その優先すべきものとはーーーーー

みんな大嫌いな二学期の前期期末テストである!(ニッコリ!!)
一学期までは中学の頃の復習をしておけば良かったものの、二学期に入る前辺りから一気に学ぶことが増えてしまい、危うくなってきているのだ。

「よし!今度こそオール5!ぜってー目指す!!!」

受験でもないのに人一倍気合を自分の中に叩き込むと、葵はもう一度机の上に置かれた教科書の中の問題集とにらめっこを始めた。(いや、この気合いはいつもの事だ。)

「文化祭が終わってまだ2日しか経ってないのに、随分とやる気だね。いい事だけど」

そんな様子を開け放たれたドアの向こうから見ていた優一が関心げに言う。
優一は今日仕事の休みを丁度貰っているらしく、朝からパソコンと向き合いながらのんびりと過ごしていた。

「やっぱ良い大学に入りたいんで、成績は今のうちに良くしとかないと…って。」

「あーそれはとてもいい心構えだと思うよ。」

そういえば、あれから優一とは特に変わった内容の話はしていなかった。
文化祭1日目のお化け屋敷で優一にをされてしまったにも関わらず、優一は至って普通に接してきていたので葵も何故かその事について話しにくいと感じてしまい、結局は言えなかったのだ。
だが、もうそんなことを気にしている場合ではなかった。
文化祭の振替休日というものを利用して、今のうち復習しておくことで後々楽になるのだから!(と、言い聞かせている。)

「まあでも、少しは気分転換もした方がいいんじゃない?それに、今日は栄人が来るから。」

「え?そうなんですか。」

「うん。まあ、来るって言っても少し仕事の事を話に来るだけだけどね。」

(そうなんだ…。って、それにしても優一さん、パソコン打ち込むの早いな…)

気合いだけ充分ですぐ集中力の溶けた葵が勉強そっちのけでそんなことを考えていると、インターフォンが一回、鳴り響いた。

優一は「早いな。」と言いながら玄関の方へと向かった。

(ってちゃんと集中しなきゃいけないのにっ!集中できねぇ…特に英語…)

時計の音が静かに鳴り響くだけで一向に問題用紙に書き込まないでいるとーーーーー

「葵くん、栄人が来たからお茶にしよう。」

優一に呼ばれた。

(あ、勉強…ま、いっか。)

「はいっ!あ、俺お茶入れます!」


そんなこんなで葵もリビングのソファに座って、優一と栄人と3人で話すことになったのだった。

ーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー


「はぇー勉強してたのか。普通振替休日って遊ぶもんだと思ってたけど、偉いな。」

「文化祭が終わるまで勉強あまり出来なかったので頑張らないとって…。」

「なぁ、思ったんだけど優一に教えてもらったりとかしないの?」

「えっ?ゆ、優一さんに?」

「そうそう。だってこいつ学生時代から満点の常連だし、いつも学年トップだった気がするけどな。」

「そ、そうなんですかっっ!?」

葵が驚くも、優一はさも当たり前のようにコーヒーを口に運びつつ応えた。

「まあ……問題自体が簡単だったからしょうがないよ。」

(うん。今全世界の勉強に悩める子達を敵に回した気がするよ。)

「だから優一も教えてやりゃー良いのに。特に英語とかペラペラだろ?」

「えっ、え、英語ペラペラなんですか!?」

(英語!!!苦手科目!!!!)

「あれ?優一、もしかしてそれも葵に言ってないのか?」

「え、何をですか…?」

「こいつ、日本とフランスとイギリスのクォーターで3歳から10歳までイギリスとフランス行き来してたようなやつで、3ヶ国語ぐらい話せるんだよ。」

「えええ!!!」

(く、黒瀬優一さんてクォーターだったの!?ていうかそんな話、テレビでもネットでも取り上げられてなかったような…)

「まあでも、国籍は日本だし日本の学校と国際学校二つ通っていたからずっと日本にいたって思われても仕方ないか。それにこいつはテレビで自慢したりするようなやつじゃないし。」

「まあ日本のドラマで英語を話すことはあまりないしね。バラエティーには出るけど、そういう事を話す気もなかったから知らない人が殆どなのは確か。」

「そ、そうですよね…!」

(それにしても栄人さんって優一さんに本当に詳しいなぁ…まあ10年以上の付き合いなんだから当たり前か…)

でも……そういうのって。

(なんか羨ましい…とか思っちゃうかも……)

「まあとりあえずその話はここまでにして。栄人は仕事の話って言っていたけど、どうせ台本の打ち合わせだろう?それなら早めに終わらせたいんだけど。」

「あーそうだったそうだった!んじゃ葵も悪ぃな。ちょっと優一と話してくるわ。」

「あ、はい!俺も勉強してきますっ」

「おう。頑張ってなー」

それから優一と栄人は部屋に話に行って、葵は自分の部屋に戻って、とりあえず英語以外の勉強をすることにした。
けれどその間も先程の話が頭をぐるぐるとしていた。

(優一さんってフランスとイギリス行き来してたんだ…。親が金持ちだっていってたから何か凄い国際的な人だったのかな…。)

カチカチカチカチ…

(ただ、優一さんってどんな生活送ってきたのか全然わからないんだよなぁ。最近でも親と食べに行ってたとか言ってたけど…。でも、高校時代は栄人さんの家にしょっちゅう来てたって言ってたけどそれならやっぱり家庭問題はーーーーー)

カチカチカチカチ…

カチカチカチカチカチカチ…

ってーーーーー

(うわぁぁん!!!全然勉強が進まないよおおおお!!!!!)

過去最高級に集中出来ないーーーーーこれは大問題だ。

(とりあえず甘いものでも食べて血糖値を上げて集中力を高めなきゃ…このままだとシャーペンカチカチ選手権出れちゃうよ…)

葵は部屋を抜けると、キッチンに置いてある箱のチョコレートを開け、銀紙に包まれたチョコレートを一口、口に含んだ。
思えばこのチョコレートも冷蔵庫に入っている、ネットで頼んだと言っていたアイスも、外国産のような気がした。
もしかして家族に贈って貰っているのだろうか…。

(どうなんだろ……)

当たり前だが、葵は優一の家庭問題の事も過去の話も殆ど知らない。
居候させてもらっている立場だし、聞くことも出来ないけれど、最近は栄人から話を聞くことが多くなって気になるようになってきていた。
それに、日本ではあんなに有名人なのにどこかミステリアスでわからないことの方が多いーーーーーそんな所も気になってしまう要素のひとつだと思った。

けれど葵が今のところ知っていることといえば意地悪で、変態で
変なことしてきて、男が好きで偽名を使って変な小説書いてるような人で、家事はできないし朝は弱いし、冷房はちゃんと切らずに寝るし好きなものは大量買いするしでかなり困った人ということだけだった。

いや、でも本当はそれだけじゃなかった。

仕事はちゃんとこなすし、演技力は凄いし
真面目だし、なんでこんなにしてくれるの?ってほど優しくて、居候してるだけの他人なのに気遣ってくれてーーーーー

それは自分が今までにあまり優しさというものを受けてこなかったからなのかもしれないけど、でもーーーーー

優一という存在が葵の中で別の意味で大きくなっているのは確かだった。

ーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

その晩、葵は優一に英語を教わることになった。

「どこが分からない?ここの文法?」

「あ、はい…ここがどうして過去形になるのかなぁって。」

「んーここはね…」

ふと、優一の顔が葵の顔に近づいた。
その時葵は思わず優一の顔をまじまじと見つめてしまった。

クォーターと言っていたけれど確かに思えば…
髪の色は根元が少し茶髪っぽくて目の色はよく見ると少し明るい気がした。
もしかして黒に染めているのだろうか?
それに、肌の透明感とか、睫毛の長さとか最初の時も人形みたいだって思っていたけど、フランスやイギリスの人の血が入っているなら尚更そうだったのかも…?

「ーーーーーわかった?」

「えっ…あ、あっす、すみません!!もう一度教えてくださいっ」

(って何考えてんだ俺!顔みてて話聞いてないとか気持ち悪すぎだろ!……でも、なんかすげー綺麗で……)

「………。」

「あ、あの優一さん?すみません…集中するのでもう少しだけ教え…」

(もしかして怒ってーーーーー?)

「今日の話、気になっているの?」

「えっ?…あ、ああいや…その……」

「まあ、今日栄人が言ってたことに葵くん、随分驚いていたからそれの事かなぁとは思っていたけどね。」

「……あっ、…はい…。まさか優一さんがクォーターだったなんて知りませんでした。それに、フランスとイギリス行き来してたなんて…本当に凄いですね!パリとか…良いなぁ。楽しかったですか?」

「そうかな…?僕自身は楽しい思い出とかは特に無かったし、自慢することでもないと思っているけどね。」

「え?そうなんですか?小さい頃遊んだりしなかったんですか…?」

「んー……」

(って!!俺何こんなこと聞いてんだろっ。栄人さんに過去のことはあまり聞かない方がいいって前に言われてたのについ…)

「あ、あの答えなくて大丈夫ですよ。ごめんなさい。話が逸れてしまっ…」

「ないよ。」

「え…?」

「楽しい思い出なんて、何一つ無かったな。」

「え…?」

「だから、凄いって言われてもよく分からない。」


ドクン…

ーーーーーあ、俺……


(今の優一さんの顔、前にも見たことがーーーーーそうだ。あれは…)

実家からまた東京に戻る時の車の中でふと見せた優一の悲しそうな顔が頭を過った。
親に感謝しなきゃって、そんな風に笑って言った葵に対してどこか悲しそうな顔をしていた優一の事。
あの時の表情はなんだったのか、どこかでは気になっていたけどなぜか聞けなくて、気の所為だと流してしまったのだ。
だけど、今度は本当にーーーーー

この人は一体何を隠しているんだろうか。

親友の栄人さんさえも知らないって言っていたし、この人はずっと、何かを隠しながら沢山の人に囲まれて生きてきたのかな。

それって、凄い孤独だったんじゃ…ないのかな。


「ご、ごめんなさい。」

「うん?別に謝る必要なんてないよ」

「で、でも何も知らずに言っちゃったし…。」

「それは僕が言っていないだけだから、仕方ないよ。」

ドクン…。

「ーーーーーじゃあ、次ここの問題を解いてみようか。」

「はい…。」


その夜の勉強は、なんだか捗らなかった。



ーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「分かっているだろうが前期期末まで2週間しかないぞ!文化祭が終わってのんびりしているだろうが赤点取ったものに冬休みはないからな!」

文化祭を終えて三日目、ようやく皆が落ち着きを取り戻した今日、文化祭の時愉快にかき氷を売っていた楽しそうな担任の顔はまたいつもと同じように鬼の形相と化し、ホームルームではピリピリした空間が漂っていた。

「前期なのに先生気合い入りすぎだよなー」

「私まだ数学追いつかないんだけどー」

ホームルームを終えた後、皆はいつもに増してだるそうにそんなことを言っていた。
ただ葵は一人黙々と英語の勉強をしていた。
あの後なんだか集中出来なくて19時には勉強を切り上げてご飯にしたのだが、なんだか申し訳なかったのだ。

(優一さんも仕事で忙しいのに教えてくれたんだしここだけでも…)

「あー!おはよー葵くん」

「あっ…お、おお…おはよ!小牧さん!」

「朝から勉強?文化祭終わってすぐなのに葵くんらしいねー」

小牧はホームルームに参加していなかったので今日はてっきりお休みかと思っていたが、どうやら少し遅れて来たらしい。
手には大荷物を抱えている。

「あれ?それは…」

「演劇部のだよー!」

「ああ…ってそういえば、文化祭の時演劇部の小牧さんは出てなかったみたいだけど、1年生は出なかったの?」

「あ、うん。去年の作品で2年生と3年生の先輩がやってた演劇をもう一度やっただけだから1年生は軽いお手伝いみたいなのはしたけど…参加はしてなかったよ。」

「そうだったんだ。」

「うん!…そういえば今日葵くんも部活だよね?」

「あ、うん。」

(そうだ。危うく勉強するために早く帰るとこだったぜ…)

「また一緒に部活の時間になるまで図書室で勉強やらない?」

「あ…いいよ。」

と、言ったものの…

(久々だな…またなんか変な話にならなきゃいいけど…)


ーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「葵くん凄い!わかりやす~い!ありがとう!」

「い、いえいえ!こんなんでよかったのか分からないけど…」

「これで勉強もスムーズにいけそう!」

「それなら良かった…」

図書室の勉強スペースの机で向かい合いながら、数学と理科の勉強を一通りし終えた小牧と葵は、そろそろ時間になった頃に部活の方へ向かうことになった。
図書室に行く前、葵は小牧に何か文化祭の時のことを聞かれたりしないだろうかと身構えていたが、今日は小牧からそう言った話を聞くことは無かった。
少しでも優一と回れたことが嬉しかったのか、それとも優一と自分を引き離したことで安心に繋がったのか、それは分からなかったがまたモヤモヤした雰囲気にならなかったのは幸いだった。

「ーーーーーじゃあ、葵くんまたねー」

「またね。」

小牧と階段のところで分かれると、葵は足早に東校舎の二〇五号室へと向かった。
その際、人の少ない静かな廊下を珍しく、誰かが後から着いてくる足音が聞こえ、思うず振り返る。

するとそこには

「ーーーーーあっ…」

「…あ。」

そこには同じ天文部の先輩である宮井慧矢がイヤフォンをしてだるそうにポケットに手を入れながら歩いていた。

(うわぁあ…。)

この人は天文部の活動が始まって以来、一度も葵がちゃんと話したことがない人で、いつも後ろ側の方で腕を組んで気難しい顔をしていたこともあってか、雰囲気がとても怖いという印象しか無かったのだ。
なのにも関わらずこんな所で出くわすとは…。
しかも目指す場所は同じ二〇五号室で、別々に行くのもなんだか変な感じがする。

「お、おはようございます…」

ということで、葵はとりあえず挨拶をすることにした。
すると相手は「ああ…」と返事をして同じく挨拶を返す、と思いきやーーーーー

「そ。」

「えっ…あ、はいっ…」

(うわぁぁあ!!!!何この人おおおお!!!挨拶を一文字で返す人いるか普通!!)

絶対話しても上手くやれない気がしていたが、本当にそれは当たりだったようだ…と葵は思った。
そこから変な沈黙が流れ始めたので、葵はスマホを見るふりをしつつ、足早に二〇五号室の中へと入った。

するといつもの三人組が何やら資料を見て話し込んでいた。

「あー!葵くん久しぶりー!」

「お久しぶりです。」

「元気だったー?この前のお化け屋敷、葵くんのクラスでしょ?怖かったよー」

またいつもの様に三人はすぐ駆け寄って葵に話しかけてくれていたが、先程一緒に来た慧矢はそのまま通り過ぎると、いつものように後ろの席にどすんと腰を下ろした。

「あ、そうそう!今夏の天体観測出来なくてごめんねー!」

「あ、大丈夫ですよ!雨なら仕方ないですし…。確か秋の天体観測に変更したんですよね。」

そういえば本当なら今年の夏に天体観測を行う予定だったのだが、雨が続き、中止になってしまったのだ。
それで先輩達が秋の天体観測に変更したというのは、天文部の顧問から伝えられた話だった。

「そうそう!それで今この資料を見て、どこが見やすいか比較してたところなんだよねぇ」

貴斗はそう言うと、資料を葵の座った机の前に置いた。

そこには近くの河川敷や少し遠くの山の地図と星の写真が貼り付けられた紙がいくつもあった。

「毎年最高学年の天文部が天体観測の場所をリサーチして決めるっていうのが匠南のやり方なんだけど…なかなか見つからなくてねぇ…」

「そうなんですね。んー…」

葵もその資料をじっくり見ていた。

「葵くんならどこがいい?」

「え、僕ですか?」

ふと夏菜子に聞かれて、葵は真剣に場所を見比べた。

「ーーーーーあ、こことか、どうですか?」

「どれどれ?」

三人が葵の指さした場所を見つめる。

「ここ、少し山の方だけど…葵くんは大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です。」

「親に許可は貰ってるんだっけ?」

「あーーーーーーはいっ。」

(親というか、まあこれは優一さんに許可を貰えれば…)

「んじゃここで決まり!!!よーし!!」

「えっ!?き、決まりで良いんですか!?」

「いやぁ実は顧問に言われててさ。「君らはいいとして、後輩の意見もちゃんと聞き入れて話し合うように!」ってさ。」

「そうだったんですね。ま、まあそれなら決まってよかったでス…」

「うんうん!決まってよかったよー!ちなみに日は改めて連絡するから!」

「は、はい」

(なんか相変わらずここの先輩達緩いな……)


それから天文部の活動を終え、葵は一人、二〇五号室を抜けて家に帰った。
外はすっかり茜色の空に覆われている。
今日は少し帰りが遅くなってしまったけど、優一はまだ仕事だろうか。

「今から帰ります。っと…」

帰る時はいつも優一宛に一言帰る連絡をして帰るのが日課になっていた。
そうすれば優一から晩御飯いるか要らないかどうかの返信がくる。
今日はどうだろうーーーーー

ピコンッ…

【今日は少し遅くなるから晩御飯はいらないよ。】

(そっか…)

葵は返信をすると、明日の分の晩御飯を買いに近くのスーパーに寄った。

(えーっと、明日は卵とニラの炒め物でも作ろうかな…。あとはここら辺の調味料を…あ、ケチャップも切らしてたな。)

その時だった。

ドカッ……

ふとケチャップに手を伸ばそうとした手が隣の人の肩にぶつかってしまった。

「うあっ…す、すみませーーーーー…!あ…」

そこにはとても綺麗な顔立ちをした女性が立っていた。
身長は百七十センチほどで葵よりもかなり高い。
女性は驚いたように目を見開いたが、やがて声を発した。

「ごめんなさいね。お怪我はありませんの?」

「あっ…は、はい。大丈夫です。」

(うわぁ…話し方も声も綺麗だしなんか、スタイルもいい…こんな人近所にいたんだ…。ん?でもなんか…)

誰かに似た面影を感じるような…って気の所為か。

「そうそれは良かった。」

女性は少しニコリと笑うと、近所のスーパーには似つかわしくない高いヒールのカツカツとした音を立てながら颯爽と行ってしまった。

(なんか東京の人って芸能人ぽい人多いよなぁ……って、いけないいけない。早く帰ってご飯食べたら勉強しなきゃ。)

葵は取り損ねたケチャップをもう一度カゴに入れると、足早にレジの方へと向かったのだった。
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